茂兵衛は長篠の合戦の奇襲に参陣するー「弓組寄騎仁義 三河雑兵心得」

三河の国の、まだ小国の領主であった松平(徳川)家康の家臣団の最下層の足軽として「侍人生」をスタートさせた、農民出身の雑兵「茂兵衛」。吹けば飛ぶような足軽を皮切りに、侍としての出世街道を、槍一本で「ちまちま」と登っていく、戦国足軽出世物語の第四弾が本書『井原忠政「弓組寄騎仁義 三河雑兵心得」(双葉文庫)』です。

前巻で、家康最大の危機であった「三方ヶ原の合戦」で、武田軍に対し、松平一門の大草松平家の松平善四郎の寄騎として奮闘し、足軽大将となった松平善四郎の副将格の筆頭与力となり騎乗の身分に出世した茂兵衛。名前も植田茂兵衛と改め、武田勝頼率いる信玄亡き後の武田勢と織田・徳川連合軍がガチンコ勝負をする「設楽原の戦」での奮闘が描かれます。

あらすじと注目ポイント>新戦術で武田騎馬隊を撃破せよ

構成は

序章 三人目の男
第一章 茂兵衛、故郷に錦をかざる
第二章 不信なり三河守
第三章 長篠城の英雄
第四章 鳶ケ巣砦の奇襲
終章 帝国の黄昏

となっていて、冒頭のところでは、綾女に失恋し女性とはとんと縁がなくななっている茂兵衛に、主人格である松平善四郎から、自分の姉・寿美を嫁に貰わないかという提案が突然出されます。善四郎の姉は二十七になる茂兵衛の6歳下でそこそこ器量もよいのですが、二回嫁にいっているのですが、二回とも夫が戦死しています。さらに、後家とはいえ、国主の縁戚の松平一門ですから、敷居が高いのは間違いないですし、綾女にまだ未練がある状態なのですが、結局のところ、女性に押し切られていきますね。

さらに、茂兵衛と丑松、二人とも徳川家の立派な侍になったことで、故郷の植田村に凱旋し、喧嘩の相手を死なせてしまって出奔以来途絶えていた村とのつながりを修復し、村の若者を配下の足軽に加えていきます。

茂兵衛の大目標である「10年で千石取り」の目標を達成するために手柄をあげていくには、兵力の補強・補充というのはすごく大事なことになるので、兵農分離が織田家中ほど進んでいない徳川家では、貴重な「故郷とのつながり」ですね。

戦のほうは、徳川と武田の間で何度も統治者が変わっている「高天神城」を核にして遠江を舞台にした、武田と徳川の抗争が激しくなっていきます。この争いの中で綾女が住む曵馬宿が武田軍の焼き討ちにあい、綾女が不幸な運命に巻き込まれていきます。どうも、この女性には不運が続きますね。案外、「千石取り」の実現のためには、茂兵衛は一緒にならないほうがよいのかもしれません。

そして、いよいよ戦場は、織田・徳川連合軍と武田軍が激突し、それ以後の勢力図を塗り替えるとともに、戦国時代の戦闘方法に大きな影響を与えた「長篠の合戦」へと移っていきます。今巻では、武田勝頼軍に包囲された長篠城の城主・城兵へ、自らの命をかけて援軍がくることを告げた「鳥居強右衛門」が城を脱出し、徳川本陣へ救援を依頼するのを茂兵衛たちが助力しています。
鳥居強右衛門の事績についてはWARAKUWEBの「長篠合戦のゆくえを変えた?人間味あふれる鳥居強右衛門・命がけの決断とは」に詳しく載ってます。

そして、救援を決めた織田・徳川連合軍は、鳶ケ巣砦を背後から襲って、長篠城を解放し、その足で背後から天王山に籠もる武田勝頼を襲い、勝頼を設楽原へ向かわせる奇襲を実行します。もちろん、この奇襲隊の一員に、このシリーズの主人公・茂兵衛が入っています。茂兵衛は、この戦闘で、彼を「百姓あがり」と蔑み辛くあたってきていた、深溝松平家の松平伊忠の心遣いを知るのですが、詳細は原書のほうで。

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レビュアーの一言>鉄砲の三段撃ちの真相は?

長篠の戦での、信長の附城や馬防柵で武田勝頼の騎馬隊の突進を止め、三段階射撃によって撃破したエピソードについては、最近

・織田軍の用意した鉄砲は3000挺ではなく1000挺だった
・鉄砲の三段撃ちは、信ぴょう性の低い「甫安信長記」の記録が後に広まったもの
・武田軍には騎馬だけで編成された騎馬隊はなかった
・当時の日本の馬は馬体が小さく、普通は騎馬攻撃ではなく下馬して戦っていた

といった反論もあって、議論があるところなのですが、筆者は

信長考案の付城は、決して籠城や長期戦に備える要塞ではなかった。西洋兵学にいう野戦陣地に近い新機軸である。戦場の真ん中に簡易な陣地を築くことで、鉄砲隊と弓隊の機動力のなさを補い、強力な破壊力を持つ彼らを不安なく最前線に投入することを可能にした、謂わば、飛び道具を野戦に使うための使い捨ての陣地だったわけだ。

と三段射撃の有無というよりも、鉄砲と弓という飛ぶ道具を最前線で休みなく使うための「新戦術」の出現であったといった評価をしています。この頃から鉄砲の数が戦争の勝敗を決める感じが濃厚になっているわけで、伝統の破壊者であった信長にふさわしい評価かもしれません。

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