「幸」は勧進相撲で浴衣の新境地を開くー「あきない世傅 金と銀11  風待ち篇」

大坂・天満の呉服屋・五鈴屋の女衆として奉公に上がった、村の寺子屋師匠の娘・幸が、この大店を引き継いだ後、女性実業家として店を立て直した後、女性が経営者になれない大坂のしきたりをかいくぐるため、江戸へ進出し、さらに事業を拡大していくサクセスストーリー「あきない世傅」シリーズの第9弾が『高田郁「あきない世傅 金と銀11  風待ち篇」(時代小説文庫)』。

前巻で、川開きの花火大会で、湯屋で着る「浴衣」をお披露目して、江戸っ子たちの評判をかちえた五鈴屋の「幸」だったのですが、宝暦の火事を境にして、再び五鈴屋に挑みかかってくる妹である「日本橋音羽屋」の「結」の猛攻をどうしのぐか、「幸」の経営手腕が試されるとともに、同業者仲間との新たな商売発展の途をさぐるのが本巻です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 咲くやこの花
第二章 十年の辰年
第三章 日向雨
第四章 英断
第五章 万里一空
第六章 悪手、妙手
第七章 錦上添花
第八章 天赦日の客
第九章 深川へ
第十章 土俵際
第十一章 三度の虹
第十二章 触太鼓

となっていて、浴衣の考案などで着々と「太物」の商売を拡大してきている「幸」なのですが、再び、彼女の妹が後妻に入っている「音羽屋」が五鈴屋の商売に介入してきます。

ただ、今回は、神田旅籠町の足袋を商う明石屋から出火し、日本橋~深川、洲崎まで広範にh路餓死、400以上の町と、80の寺社、100以上の橋を焼いた「宝暦の火事」によって、呉服の店や両替の店も延焼してしまった音羽屋が、一気に挽回を図るために仕掛けてきたもので、不作で品薄な木綿の買占めや、役者を使っての大々的なPRを行ったうえで、高値に釣り上げた反物を売る、というやり方です。

原料供給を寡占しながらの商売なので、そこそこの評判と儲けはでたようですが、五鈴屋の「幸」と同じ太物を扱う小売商仲間が準備をしてきた新しい染めの技術を盗んでの商品開発と抜け駆け販売をしているので、音羽屋の評判を落とし、消費者の不満もかきたてるあまり「良策」ではありませんね。

火事の後、心配した「幸」が妹「結」と数年ぶりに再会した際にも、「結」は鬼のような顔で
「裏切者がその報いを受けたて、そない思うて張りますやろ。それとも、私にこと、憐れんではるんか」・・・「同情やったら、要りませんよって。」・・・「私を憐れに思うてはるのなら、いずれ悔いることになりますやろ」

と捨て台詞を吐きます。姉のことを相当憎んでいる様子がありありと出ているのですが、この憎しみによってビジネスの目が雲ってしまっているようですね。この「結」は五鈴屋にいるときは、斬新な商売の手を考えるアイデアマンであったのですが、惜しいことです。
作者が、こんな感じで「悪く」描くときは、後に大抵不幸なことがやってくるので、次巻あたりに、妹「結」や音羽屋の没落といったことが用意されているのかもしれません。

おまけとしては、この音羽屋が自分の店の品をPRするために、贔屓にしている市村座をつかって、中村座の二代目吉之丞の「娘道成寺」を封じる手段にでるのですが、上方一の名女形・中村富五郎の助けで、この企みも不完全燃焼に終わってしまいます。二代目吉次の「娘道成寺」をめぐる逸話は、今村翔吾さんの「立つ鳥の舞 くらまし屋稼業」でも描かれているので、興味がある方はそちらも見てきださいね。

そして、火事の後の「太物」取引を活発にするために、同業者組合の「浅草太物仲間」の結束を高めていった「幸」は次の一手を繰り出します。五鈴屋の常連客の興行相撲の勧進元から持ちこまれた、勧進相撲を大々的にPRするための浴衣の注文に、揃いの模様や、相撲取りの四股名を使ったデザインなど、斬新で目をひく浴衣の創作を手がけていくのですが、この販売を、五鈴屋だけで独占するのではなく、「浅草太物仲間」加盟の店全てで販売するという「横断セール」を展開します。
「幸」の企画する商品は、相撲好きの江戸っ子に大受け間違いないのですが、この商売の利益を、同業の仲間で広く享受しようというもので、妹「結」や音羽屋の「利益を独占」するやり方と好対照です。

このオープン型なやり方が、次のビジネス展開結びついていくあたりは、ちょっと出来すぎかな、とも思えるのですが、降りかかってくる災難を撥ね返していく様子に、かなりの「爽快感」が味わえるのは間違いないですね。

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レビュアーの一言

今巻中で、五鈴屋にやってきた下野国の呉服商の話から発展して、木綿問屋から木綿を卸してもらえず苦労した「浅草太物仲間」で共同支援をすることになった、下野の木綿産地ですが、「衣川の近く」ということから、鬼怒川の東岸にある栃木県の「真岡」をモデルにしているのかな、と推測しました。真岡は綿の栽培から織りまで一貫して行っていた木綿産地で、江戸時代後期から明治時代にかけて木綿の一大集積地となったところですね。
これから、物語の中で、どう産地が成長していくか楽しみなところであります。

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