くらまし屋は、芝居の一座を救う”赤也”を見捨てる?ー「立つ鳥の舞 くらまし屋稼業7」

「依頼は必ず面通しの上、嘘は一切申さぬこと」「決して他言せぬこと」「捨てた一掃を取り戻そうとせぬこと」といった七箇条の約定を守りさえすれば、現在の暮らしから、だれでも「くらます」が、この約上を破った時は、この夜から「くらます」ことを生業とする「くらまし屋」シリーズの第7弾が本書『今村翔吾「立つ鳥の舞 くらまし屋稼業7」(時代小説文庫)』です。

前巻では、悪事を重ねてきた旗本の若者たちを「くらます」ことを迫られ、商売とはいえ内心、忸怩たるものがあった平九郎たち「くらまし屋」のメンバーたちだったのですが、今巻では5年前に亡くなった女形の名優を、あの世からくらます仕事がはいり、これに伴って、赤也の過去の秘密が明らかになっていきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

序章
第一章 濱村屋
第二章 芝居合戦
第三章 品川南本宿にて
第四章 お節介焼き
第五章 噂の濁流
第六章 おんなの衿持
第七章 菊之丞
終章

となっていて、冒頭では、米の先物取引で大損をした芝居の座元・濱村屋に属する役者の若きホープ「二代目吉次」から五カ月前に急死した女形の名優「瀬川菊之丞」をあの世からくらまして連れてきてくれ、という依頼をうけます。

濱村屋は菊之丞が急死してから一挙に経営が悪くなっているのですが、これを一気に逆転するために、菊之丞が得意とした「娘道成寺」の芝居をかけることとなったのですが、同じようにこの芝居で評判をとっている天王寺屋・中村富十郎のパトロンから横槍が入り、この芝居のこれからの興行を賭けて、「芝居合戦」を行うこととなったのが発端です。

この背後には濱村屋のパトロンである「大丸」の大阪における取引先を奪おうとするライバルで「天王寺屋」のパトロンである越後屋の思惑が絡んでいます。さらに、ここに越後屋が献金をしている出羽庄内藩主・酒井老中も関係してきていて、政財界巻き込んでの「芝居の勝負」となってきています。

しかし、濱村屋の二代目吉次の相手となる、中村富十郎は今が一番脂の乗り切った名優で、とても吉次が敵いそうもない相手。このため、吉次が無理を承知で「くらまし屋」に依頼してきたという設定です。

もちろん、死者をあの世から「くらます」なぞできるはずもなく、平九郎は即座に依頼を断るのですが、実は、くらまし屋のメンバーの一人「赤也」は、以前は役者をしていて、この濱村屋の「二代目吉次」として芽が出始めたころに、実の父親である「瀬川菊之丞」を嫌って、自らを「くらまし」でしまったという過去をもっています。

いつもなら、平九郎の判断に従う「赤也」なのですが、自分の実家同様の「濱村屋」が存亡の危機に立たされてるのと、昔惚れていた女が濱村屋の座主の妻となっていて、自分の身体を質にして多額の借金をしていることがわかり、「くらまし屋」から抜けて、濱村屋の頼みをきいてやることにするのですが・・という展開です。ただ、一度死んだ人間をこの世に呼び戻せるはずもないのですが、赤也はどういう手で、「菊之丞」を復活させるのか、といったところが物語のキーとなるところです。

そして、濱村屋が菊之丞復活の秘策をもっていることが評判になり、これを阻止しようと、酒井老中の命をうけた「虚」の怪力の金棒使い・九鬼段蔵が襲撃してくるとともに、「くらまし屋」たちを捕縛しようと道中奉行配下の篠崎瀬兵衛が探索の手を延ばしてきて・・という筋立てです。

赤也を無事、芝居小屋に送り届けて、濱村屋の危難を救わせるために、七瀬の知略に従って、平九郎が「虚」の九鬼段蔵と大バトルシーンを繰り広げていきますので、そこのあたりもお楽しみに。

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レビュアーの一言

もともと道成寺の「案鎮・清姫」伝説を題材にとった「道成寺もの」と呼ばれる演目や踊りは複数あって、それぞれの役者や芝居の一座が独自のものを演じていたようですが、今では曲と振付がどちらも伝わっているのは、今巻にでてくる初代瀬川菊之丞が踊った「百千鳥娘道成寺」をもとにして初代中村富十郎が作り上げた「娘道成寺」一択となっているようです。

この芝居は1時間以上の間、ほぼ一人で踊り切るもので、芸の華麗さと技術、体力の三拍子が要求されるもので、今巻の設定のように一座の興亡を賭けるにはこれ以上のものはない演目のようです。

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