【ネタバレ】ゴールデンカムイ27ーアシリパは金塊の鍵の秘密を守れるか?

アイヌの娘「アシリパ」と日露戦争の生き残りで「不死身の杉元」と呼ばれた杉元佐一たちが、極東アジアを舞台に、幕末の新選組の生き残りの土方歳三や日露戦争で頭蓋骨の上半分を失った情報将校・鶴見中尉率いる第七師団を相手にアイヌ民族が明治政府打倒のために集めていた大量の金の争奪戦を繰り広げる明治のゴールドラッシュストーリー『野田サトル「ゴールデンカムイ」(ヤングジャンプコミックス)』の第27巻。

最終章に入ったことを記念して、2021年7月29日から2021年9月20日(好評のため、9月17日までの期限を3日延長)の間、無料解放されているゴールデンカムイ」。見逃したー、や読む暇がないよーという方にむけて第27巻のあらすじをレビューしておきます。

前話までで、ジャック・ザ・リパーの捕獲をするため札幌麦酒工場へ入り込んだアシリパたちなのですが、ここで鶴見中尉たち第七師団の兵士たちとでくわし、アシリパが鶴見中尉に捕まってしまいます。鶴見中尉に捕まったアシリパの奪還と刺青人皮の謎解きの鍵をめぐって、アイヌの金塊が埋蔵された経緯や、アシリパの父・ウィルクの関りなどが描かれています。

あらすじと注目ポイント>アシリパは金塊の鍵の秘密を守れるか?

構成は

第261話 消防組
第262話 札幌麦酒宣伝車追跡劇
第263話 海賊房太郎こと大沢房太郎
第264話 小樽の病院で見た女
第265話 鍵穴
第265話 小指の骨
第267話 断絶
第268話 ウィルクのやり方
第270話 全ての元凶
第271話 まだら模様の金貨

となっていて、第261話「消防組」~第263話「海賊房太郎こと大沢房太郎」では、鶴見中尉たちに捕まったアシリパを取り戻そうと、杉元や房太郎に土方たちも合流して、消防団に偽装して逃げる鶴見中尉たちをおいかけます。

しかし、ここで房太郎は鶴見中尉や月島軍曹に撃たれ、ハチの巣状態にされます。

自分の「王国」をつくって、大家族で暮らすことを夢見ていた「海賊房太郎」だったのですが、彼の夢もここでとん挫し、死の間際に、白石に刺青人皮を渡し、彼が掴んでいた「アイヌの金塊が最初に運ばれていた場所」の情報を伝えます。

第264話「小樽の病院で見た女」から第270話「全ての元凶」までではアシリパの救援に、ロシア・パルチザンの生き残り・ソフィアも加わるのですが、逆に鶴見中尉たちに捕まり、町はずれの教会まで二人は連行されてしまいます。ここでソフィアが持っていた写真から、彼女が、鶴見中尉がウラジオストクにスパイとして潜入していたとき、妻と娘が殺された現場にいたパルチザンの一人のソフィアと気付き、彼女とアシリパに、鶴見中尉がつかんでいた情報を告げます。

それによると、アイヌの金塊はもともと、江戸時代末期、幕府に反乱を計画していたアイヌの過激派が、帝政ロシアから軍艦や武器を購入するため、北海道中から砂金を集めたものだったのですが、武器を積んだロシア船が沈没したため宙に浮いてしまっていたもの。
この金塊を帝政ロシア転覆の軍資金とするため、ウィルクが極東ロシアから潜入してきたということらしいです。

そして、この話を受けて、ソフィアがキロランケが彼女にあてた手紙に中身を喋り出します。

それは、北海道のアイヌの女性と結婚して家庭をもったウィルクは、アシリパが生まれて数年後、幕末の金塊を隠したアイヌの生き残りの老人を発見します。その老人から金塊の隠し場所を聞き出すため、7人の同士が集められるのですが、この時、キロランケは除け者にされます。実はこの時、アムール川流域の極東ロシア、樺太、北海道をエリアとする、少数民族全体でつくる「極東連邦」の創設を主張するキロランケやソフィアと、北海道だけの独立を目指すウイルクとの路線対立が激化していた、というわけで、これがキロランケが網走刑務所でウィルクを銃撃したもともとの原因です。

ただ、ウィルクが「のっぺら坊」になったことには、鶴見中尉の思惑が絡んでいて、ウィルクの仲間たちに、彼がロシア・パルチザンの生き残りで、金塊をロシア政府転覆のために横取りしようとしている、と吹き込んで、内輪もめを引き起こさせます。
この内輪もめで、ウィルク以外の中は全員死んでしまうのですが、ウィルク自身の生死を隠すため、彼は自ら自分の顔の皮をはいで、仲間の顔とすりかえて偽装した、ということのようです。この偽装工作後、自分をつけ狙う、陸軍第七師団と仲の悪い、犬童典獄のところへアイヌの金塊の情報を担保にころがりこみ、「網走刑務所ののっぺら坊」として生きてきた、というわけです。

鶴見中尉がウィルクを罠にかけた背景には、ウラジオストクで、ロシアの秘密警察との銃撃戦の流れ弾で死んだ彼の妻と娘を撃ったのが、実はウィルクの撃った銃弾の流れ弾であったという事実があって、妻と娘の復讐のためにやったのでは、と疑われます。

鶴見中尉本人は、ウィルクの主張する「北海道独立運動」が、日本に敵対する勢力が入り込むことを防止できない「危険な思想」で、日本のためにならないので、ウィルクを排除したのだ、と主張します。鶴見中尉の部下たちはこれを信用するのですが、真実かどうかは疑念が残るところですね。

第271話「まだら模様の金貨」では、ここまでアイヌの金塊を巡る話をアシリパに聞かせたところで、鶴見中尉は、すべてのものに「カムイ」がいるとするアイヌの民間信仰に照らして考えると、アイヌの砂金は、天災や流行病のように、人間を脅かすカムイではないか、触れる者に無残な死をもたらし、どんなカムイよりも醜悪で無残な、まばゆいほどに美しい黄金色のカムイ、「ゴールデンカムイ」ではないか、とアシリパを脅します。

その上で、彼はアシリパに黄金の権利を放棄し、その在処を示す暗号の鍵を教えろと迫ります。

アシリパが樺太での経験から、金塊の隠し場所の「鍵」と考えているのは父親のアイヌ語の名前なのですが・・という展開で、苦悩の末、アシリパは、その言葉を鶴見中尉たちの前でしゃべってしまうこととなります。
金塊をめぐって、父親を含む7人のアイヌが殺し合い、土方や杉元を巻き込んだ金塊争奪戦、そして父親の流れ弾で死んだ鶴見中尉の妻・フィーナと娘・オリガなど、金塊に絡んで犠牲になったり、犠牲になるかもしれない人の思い出をアシリパの脳裏に浮かび上がらせていく、鶴見中尉の心理テクニックには怖さを感じますね。

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レビュアーの一言>極東連邦、蝦夷共和国を評価する

「第271話 まだら模様の金貨」のところで、鶴見中尉は、ソフィアたちの主張する「極東連邦国家」と土方の主張する「蝦夷共和国」を論評して、

ソフィアとキロランケの構想する「極東連邦国家」では大陸に連邦政府の中心がつくられるだろうから、ここが帝政ロシアの手に落ちれば、自動的に北海道もロシア領になることになる。

土方たちの構想する「蝦夷共和国」は、国力をあげるために移民が必須条件となるので、日本政府(明治政府)を敵対視する者が入り込む可能性が大きい。

さらに第270話で、ウィルクの行動は、和人から独立するアイヌたちだけを尊重し、日本社会の中で生きようとするアイヌを無視し、日本を分断するものだと断罪しています。

これらを総合して、彼の主張は「北海道は「日本」に帰属意識のある者が統治すべきだ」ということのようで、頷けるところもあるのですが、中央政府に叛旗を翻し、北海道統治の中心に第七師団、そして、その中心にいる鶴見中尉の姿が透けてみえるので、言葉どおりに受け取るのは危険な気がします。
ただ、いずれの論にしても、中央政府(明治政府)の手を離れて、北海道の「独立」は共通しているのが興味深いですね。

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