坂井喜久子「色にいでにけり」=江戸時代の女性カラー・コーディネート・コンサルタント、ここに登場

腕利きの摺師であったのだが、火事で煙に巻かれたせいで目を痛めて一線を退き、酒浸りとなっている父親と一緒に、裏長屋に暮らしている「お彩」は、その火事のせいで許嫁にも逃げられてしまった「嫁き遅れ」。
しかし、彼女には常人離れそた「色彩感覚」をもっていて、それに目をつけた京男が彼女を脚光のあびる場所へ引き出してきて・・という江戸版のファッション・サクセスストーリーが本書『坂井喜久子「江戸彩り見立て帖 色にいでにけり」(文春文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「色にいでにけり」
「色も香も」
「青楼の春」
「黒闇闇の内」
「紅嫌い」

となっていて、まずは絵双紙屋の店先で、浮世絵の「赤富士」の赤色に、本シリーズの主人公である「お彩」が激しく文句をつけているところから始まります。彼女は「摺師」の親方の娘だったのですが、父親の作業場から火事を出し、父親がその火事の煙で目をやられて作業場をたたみ、以後、酒浸りとなっている父親を内職で支えている、という境遇です。許嫁はその火事の後、別の親方のところに弟子入りしてしまったほか、たくさんいた弟子たちもちりぢりになっているという状況で、そのせいで、絵双紙屋で浮世絵を見るとその「色合い」に思わず文句をつけてしまう、という毎日をいくっています。

物語は、そんな彼女に、京都から江戸へやってきた「右近」という京男が、彼女が金平糖に様々な色がつけられないかと話をしているのを聞いてことをきっかけに、「色」に関するコンサルの依頼をもってくるところから始まっていきます。

まず第一話の「色にいでにけり」は、茶会でつかう「和菓子」の新作のアイデア・コンサルです。茶会に出す新作菓子の工夫に悩んでいる大店の和菓子屋「春永堂」へアドバイスをするのですが、そのもととなるのが、絵双紙屋で文句をつけた「赤富士」の摺り具合で、浮世絵の初摺での「ぼかし」にヒントを得た、紫のそぼろ餡が、白い餡にむけて徐々に淡くなって融合していく菓子を考案していきます。この第一話の途中でアドバイスした、色とりどりの金平糖は第二話で実現していくこととなりますね。

第二話の「色も香も」は、大店のお嬢さんがお見合いで着る着物の色のアドバイスです。その娘さんは色白の儚げな美人なのですが、その見合い相手となる、これまた渋い「海老茶」の着物を着こなす若旦那とお似合いとなる桜鼠色の振り袖をアドバイスします。そのコンサルの斬新さに娘の親も含め一同が感心するのですが、「お彩」は見合いをする娘の本心を聞いて、見合いをぶちこわす青ドバイスを思いつくのですが・・といったてんかいです。

第三話目の「青楼の春」では、吉原の花魁の花魁道中で見せる衣装の仕立てのアドバイスです。豪華絢爛な布地を勧める大店の呉服屋「塚田屋」の番頭のアドバイスを遮って、お彩は、花魁が身売りをする前、故郷の母親に持たされた藍の端切れで作ったお守りを大事にしているの見て、あえて地味なある生地をコンサルするのですが・・といった展開です。

第四話の「黒闇闇の内」では、火事で視力が衰えてから荒んだ暮らしをしている父親が、右近の手助けで新たな生きがいをみつけるとともに、お彩が新しい「色」に目覚めることになります。それは、父親がアルバイトすることになった、「胎内めぐり」の見世物小屋の中の「暗闇」にヒントがあって・・という展開です。ついでにいうと前話までで、自分のコンサルが称賛されて「天狗」になりかけている「お彩」の鼻が折られる機会でもありますね。

最終話の「紅嫌い」では、今までのコンサル経験によって、いよいよ「お彩」が本格的に浮上し始めるまでが描かれます。今まで「お彩」につきまとっていた「右近」の正体と狙いも明らかになっていく話でもありますね。

江戸彩り見立て帖 色にいでにけり (文春文庫 さ 59-3)
江戸彩り見立て帖 色にいでにけり (文春文庫 さ 59-3)

レビュアーの一言

江戸時代のカラー・コーディネートは、華美になる気配が見えると、禁令や厳しい処罰でインフルエンサーたちを取り締まった幕府の威令が効いていたせいか、茶色や鼠色を用いた「地味め」のものが主流であったように思えます。
本シリーズは、浮世絵に関する該博な知識を使って、玄人好みのアドバイスが求められるカラー・コーディネートの世界でのしあがろうとする一人の女性の姿が描かれる「成り上がり)ストーリーでもあります。「お彩」がこれからどんなコンサルになっていくのか次巻以降を楽しみといたしましょう。

【スポンサードリンク】

コメント

タイトルとURLをコピーしました