佐藤青南「お電話かわりました、名探偵です」=警察の通信指令室には「安楽椅子探偵」が潜んでいる

一般市民からの110番通報をうけて、市民の目撃情報や起きている事件や事故の内容や場所を聴き取って、GPSシステムや地図情報システムなどの最先端システムを駆使しながら、迅速にパトカーや警察官の配備をしていく、警察の通信指令室は、初動捜査における重要な役割を果たしている存在です。

しかし、現場の捜査に直接にタッチするわけではないのため、どちらかといえば「縁の下の力持ち」的要素が多い職場なのですが、ある県警の通報される情報をもとに、今おきている事件の謎を見抜いてしまう、「千里眼」より上手の「万里眼」と呼ばれる警察の通信指令室の安楽椅子探偵ミステリーが、『佐藤青南「お電話かわりました、名探偵です」(角川文庫)』シリーズです。

「万里眼」と呼ばれているのは、通信指令室に勤務する、見た目が若々しくて大学生でも通用しそうな風貌と、舌足らずで小学生と間違えられる声の持ち主・君野いぶき巡査長。彼女が、かなりの確率で難事件が通報される「ひきのいい」通信指令隊員・早乙女簾巡査の通報電話を複数人で通話する「三者」ボタン機能で横取りして、事件を解決していくというストーリーとなっています。

「お電話かわりました、名探偵です」の注目ポイント

第一弾の「お電話かわりました、名探偵です」の構成は

CASE1 家を盗まれた女
CASE2 誰かが大根を食べた
CASE3 マンションに潜む幽霊
CASE4 幻の落書き魔
CASE5 人を呪わば

となっていて、まず第一話の「家を盗まれた女」は、とおりすがりのおばあさんから「家を盗まれた」のだが、スマホをもっていないので代わりに電話してほしい、と頼まれた若い女性からの通報で始まります。

その老女が言うには、「買い物から帰ったら家が盗まれていた」と訴えているということなのですが、話しぶりから認知症が疑われるため、割って入った「いぶき先輩」は、警察が到着するまで、その老女と一緒にいてくれるよう通報者の女性に頼みます。ところが、その女性の名前「牧村彩苺(マキムラアヤメ)」を聞いた途端、あることに気付いて・・という展開です。

第二話の「誰かが大根を食べた」では、強姦未遂事件が起きた場所の近くにあるアパートに住む女性から、自分の部屋に誰かが忍び込んでいるという通報が入ります。

彼女によると、その証拠に冷蔵庫の中の「大根」が一センチぐらい減っていたり、炭酸水のボトルの栓が開いていたり、台所用品の並びが変わっている、クローゼットの服の順番が変わっているというのです。てっきり気のせいだと処理しようとする早乙女君に対し、彼女が強姦未遂事件の目撃者の女性だと知った君野いぶき巡査長は、そこから、その強姦未遂事件の犯人を推理していき・・という展開です。

第三話目の「マンションに潜む幽霊」は、文句の多そうなマンション住人のおばあさんから、自分の部屋の上階に幽霊がいるのでなんとかしてくれ、という電話がかかってきます。

一晩中、何人もが歩き回る音がして眠れなかったというのですが、その部屋の住人はすでに引っ越ししていて空き部屋のはずなのですが・・という展開です。

第四話目の「マンションに潜む幽霊」は歯に衣を着せぬ言動と豪快なキャラから、味方も多いが敵も多い、という県議会議員の自宅の壁に「バカ」「クズ」「あやまれ」と大書された落書きが見つかります。

その議員は政敵だけでなく、商売敵も多く、さらには娘さんとも彼女の進学先を巡ってケンカ別れとなっています。警察で早く犯人をあげろと、政治的な圧力もかかってくるのですが、いぶき巡査長が推理した犯人は意外な人物が意外な手段で書いたもので、その議員を黙らせてしまう真相で・・という展開です。

第五話の「人を呪わば」では、本シリーズでは珍しく、女性が刺されて血を流しているという通報が入ります。

通報者の男性によると、通りがかりの女性が止血してくれているらしいのですが、その女性が「刺されたの?」と言って近寄ってきたと聞いた「いぶき先輩」は通報電話に介入して、止血している女性を呼び出し、通報者の男性が犯人かもしれないから気をつけるよう忠告するのですが、実は・・といった展開です。

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「お電話かわりました、名探偵です。リダイヤル」の注目ポイント

第二弾となる「お電話かわりました、名探偵です。リダイヤル」の構成は

プロローグ
CASE1 宇宙人にさらわれた少年
CASE2 撮り鉄に気をつけろ
CASE3 おかしな訪問者
CASE4 ひき逃げ犯は誰だ
CASE5 お電話かわりました、白馬の王子さまです

となっていて、第一話の「宇宙人にさらわれた少年」では、宇宙人にさらわれて監禁されていると訴える男子小学生からの通報です。その男の子は通報電話の最中に眠ってしまうのですが、「いぶき先輩」はあわててその男の子の居場所を探し始めて・・という展開です。ちょっとしたことから、男の子の生命の危険を察知する彼女の推理力は大したものです。

第二話の「撮り鉄に気をつけろ」は、自慢の盆栽を、自宅の周りで撮影をしている「撮り鉄」たちに壊されたと訴える老人男性からの訴えです。少しネタばれすると「鉄道ファン」たちは濡れ衣をきせられて迷惑するのですが、かれらの鉄道知識が犯人を割り出すきっかけになっています。

第三話の「おかしな訪問者」は、お客さんのところを訪問した銀行員らしき男性から、そこの住人の老女がキャッシュカードを盗まれたらしい、という通報が入ります。しかし、その男性の説明もあちこちが整合せずあやしいところばかりなのですが、そのうち、その老女がいなくなってしまい・・という展開です。被害者らしい老女が本当に被害者?というところが謎解きのヒントです。

第四話の「ひき逃げ犯は誰だ」では、酔っ払いの男性をひき逃げしたと名乗り出る加害者が三人でてくるのですが、現場の様子を聞いた「いぶき先輩」が犯人と割り出した人物は意外にも三人以外の人物。彼女の推理の決め手は、三人が載っていた車の車種で・・という展開です。

最終話の「お電話かわりました、白馬の王子さまです」では、このシリーズのワトソン役の早乙女簾くんに、第一巻からつきまとっていた「ミキさん」がストーカーによって拉致されてしまいます。

彼女は実はお金持ちのお嬢様らしいのですが、犯人の狙いは身代金ではなくて、通信指令室の「万里眼」にいやがらせをするのが目的のようです。しかし、犯人は「万里眼」は「いぶき先輩」ではなく、早乙女くんだと誤解しているようなのですが・・という展開です。シリーズ途中でのガセ情報が災いをしているようですね。

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レビュアーの一言>警察を舞台にしたコージー・ミステリー

白バイガールや行動心理捜査官・楯岡絵麻、あるいは犯罪心理分析班・八木小春など、行動的な警察官が活躍する作品が多い佐藤青南さんの「警察官」シリーズの中で、今回は、現場に出向くことなく、通報者からの電話の証言だけをたよりに犯人を推理するという数少ない「安楽椅子探偵もの」なのですが、「いぶき先輩」と「簾くん」の不器用な恋愛ドラマも絡まってくるのが二重に異色の設定になっています。

さらには、血をほとんどみることのない、コージー・ミステリー風の仕立てにもなっていますので、サイコものが苦手な方も安心して楽しめるシリーズです。

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