尾原和啓「プロセス・エコノミー あなたの物語が価値になる」=「自分がつくりたいものを作る」ために命を燃やすべし

インターネットによって情報がいきわたり、製品のデザインや機能があっという間にコピーされてしまったり、新技術を開発しても後発メーカーがすぐのそれを導入して差別化ができなくなったり、クリエイターも新機軸を出してもすぐに真似されて陳腐化してしまう、現代は「良いもの」を作っていても、あっという間に差がなくなり、人もモノも埋もれてしまう時代に突入し、今までの「売り方」の常識が通用しない時代に突入しています。

そんな中、新しい稼ぎ方、売り方として、プロセス自体を売る「プロセスエコノミー」が提唱されているのが本書『尾原和啓「プロセス・エコノミー あなたの物語が価値になる」』です。

構成と注目ポイント

構成は

第1章 なぜプロセスに価値がでるのか
第2章 人がプロセスに共感するメカニズム
第3章 プロセスエコノミーーをいかに実装するか
第4章 プロセスエコノミーの実践方法
第5章 プロセスエコノミーの実例集
第6章 プロセスエコノミーの弊害
第7章 プロセスエコノミーは私たちをどう変えるか

となっていて、まず筆者は今までの売り方である、アウトプット、つまり成果物に課金する「アウトプットエコノミー」がインターネットの普及によってノウハウやメソッドが手に入りやすくなっていることや口コミの速さによってそれぞれの水準があがり、差がなくなってきていると主張します。差がなくなるということはどれを選んでも一緒ということになり、結局はPRやブランディングにかけられるお金の差、資本力の差がものをいうことになるのですが、そこを逆転する方法が、筆者が提示する、プロセスに価値をつけていく「プロセスエコノミー」というわけですね。

このあたりの「アウトプットエコノミー」から「プロセスエコノミー」への推移については第1章から第2章のあたりに詳述されているのですが、今回は、筆者の提案するプロセスエコノミーを実際に身に付けていく手法が書かれている第3章から第4章のあたりを取り上げてみます。

筆者が提示するのは

①Bird-in-Hand(自分の手の中にいる鳥)
②Affordable Loss(許容範囲の失敗)
③Oatchwork Quilt(パッチワーク・キルト)
④Lemonade(レモネード)
⑤Pilot-in-the-Plane(飛行機のパイロット)

5つのキーワードで、これをもう少し詳しく言うと

①変化が激しい時代では、最初からゴールを決めると選択肢を狭めてしまう。なので自分の手のうちにある楽しいと思うことから始めよう
②失敗するのは当たり前と考えて、最初から許容範囲の中で失敗する。小さな失敗をしながら渡来し続け、その都度、新しいことを勉強したり、知らない人に出会おう
③単体ではつかいもののならないものを重ねて繋げて、修正しながら一つの大きな作品をつくっていこう。
④失敗の中に成功がある
⑤プロジェクトの中心人物がパイロットとして操縦する

といったことのようです。これに加えて「ジャズ型」の生き方、働き方が重要になってくることた、情報をフルオープンにすること、作品や成果物をつくるプロセスを開示し、そのプロセスを応援してくれるセカンドクリエイターを増やしていくことをアドバイスしています。

こうしてみると、過去の成功モデルである、秘密裡に少数の精鋭メンバーだけで開発や創作を進め、完成形になってから満を持して発表して、ライバルや世間の度肝を抜く、というやり方との違いは明らかですね。管理人の偏見ですが、昨年、オリンピックの開会セレモニーが叩かれたのもこんなあたりにあるのかもしれません。

これからは「多くの人」で「未完成」のものを「公開」しながらつくる、といったことが必要のようです。

そして、ここで何を「公開」すべきなのかという点についても、今まで重要視されてきたのは「What(何を)」や「How(どうやって)」といったことだったのですが、筆者によるとプロセスエコノミーの社会では「Why(なぜやるのか・哲学・こだわり)」といった部分らしく、これからはどこまで物事に「思い入れ」ることができるか、というのが決め手となる時代なんですね。

さらに、この「プロセスエコノミー」の実践例として、「BTS]「ジャニーズ」「シャオミ」「メルカリで野菜を売る」といった事例が挙げられているので、どこが「プロセスエコノミー」っぽいのかは原書のほうでお確かめください。

ただ、筆者は「プロセスエコノミー」を無邪気に礼賛しているわけではなく、メリット、弊害についても述べているので、ここは読み飛ばしのないように気を付けてくださいね。

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レビュアーの一言

通常、こういった新しい「マーケット戦略」を解説する本は、こうしたら売れる、とかこういうやり方でないと駄目、といった、プラグティックな内容であることが多いのですが、本書はむしろ新しい「生き方」の提案書のような感じがします。

それは、最後の章のあたりで

私たちは、「こうすればバズる」「こういうのが流行る」というモノをひたすら作る機械ではありません。
私たちは「自分が作りたいものを作る」ために命を燃やすべきなのです。
プロセスエコノミーは、そんな私たちの新しい生き方を実現するため、この大激動時代を生きる一人一人の武器にもなっていきます。

というあたりに顕著で、プロセスエコノミーは産業革命以来綿々と続いてきた「モノづくり」の精神を大きく変えるものになるのかもしれないですね。

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