他社との競争を重視しない、が成長の秘訣 ー 「丸亀製麺はなぜNO.1になれたのか」(祥伝社)

飲食業関係というのは、最近のとある人気ステーキチェーンの評判の急下降でもわかるように水物のところがあって、商売のほうが下降線をたどると、そのビジネスモデルもクソミソに言われてしまうので、こうしたブックレビューでも注意しないといけないのだが、本書でとりあげる「うどん」のビジネスでも

讃岐うどんブームの時期にそれに乗ってうどんチェーン店も次々とできました。  しかし、着実に店舗数を増やしていったところはごくわずかで、本場の香川県であっても常に数割の店舗が姿を消し入れ替わるといいます。それほど、 ずっと選ばれ続けるのは厳しいという見えない壁があるのです

といわれるぐらい浮沈が激しいものらしいのだが、その中で2004年以降安定して業績を伸ばしている「丸亀製麺」のビジネスモデルには学ぶところが多いだろう。

【構成と注目ポイント】

構成は

序章 丸亀製麺はなぜナンバー1ブランドになれたのか
第1章 丸亀製麺はなぜセントラルキッチンをつくらないのか
 ー非効率のススメ
第2章 丸亀製麺はなぜ値下げ競争に巻き込まれないのか
 ー競争しないで勝つ方法
第3章 国内No1の羽田空港店はなぜ「歩数」に注目したのか
 ー正しいムダのなくし方
第4章 なぜ若手社員にいきなり大きな仕事を任せるのか
 ー与えて、任せて、人は育つ
第5章 なぜ1週間のアメリカ視察で40食以上食べたのか
 ー成長企業のトップはここが違う
第6章 丸亀製麺はなぜ海外で日本の味にこだわらないのか
 ー違和感を活かして成長する

となっていて、まず注目したいのは

丸亀製麺、そしてトリドールがここまで大きくなれたのはなぜか。それは他社との競争を重視しなかったことが最も大きな理由かもしれません。同業他社と売上競争をしていたら、好立地を巡って陣地取りを繰り広げたり、値下げ合戦に巻き込まれたりして、企業は疲弊していきます。丸亀製麺は常にお客様のニーズやウォンツが何かを考えて店舗運営に反映し、効率や競合に 競り勝つことを最優先しませんでした。

ということで、「競争しない」というモデルで、「他社」ではなく「自社」へ視線を深めていったあたりは、「競争に勝つ」ことを成長要因と考える風潮にあえて逆らっているようで面白い。そして、その考え方は

バブル崩壊以降、日本の多くの企業は効率や低コストを重視してきました。徹底的にムダを削り、人の代わりに機械を入れて、最小限のコストで利益を上げる。確かに、短期的には利益を出しやすい方法です。しかし、 行きすぎた効率化は人間味をなくします。効率化を図るとみんな同じ店になりがちです。飲食店に限らず、スーパーやコンビニなども差別化を図るのが難しいのは、同じような商品を同じようなシステムで売っているからだと考えられます。

というところにも共通していて、我々が「成功のビジネスモデルの鉄板」と考えてきた「競争原理」「効率性」といったことが、ひょっとすると、「グローバル時代」といったはやり言葉に踊らされた結果に過ぎなくて、長いスパンでビジネスを成功させていくのは、実は、昔ながらの「商人」の教えであるのかも、と思ってしまいますな。さらには、

どこの会社も同じような調査をしているから、結果として他社と同じ路線を歩んでしまう」 と考えています。
 業界においての後発は、他社がやっていないことをしないと差別化できません。 とはいえ、奇をてらったことをすれば長続きしません。 丸亀製麺は「他社が面倒だと思ってやらないこと」「他社が捨てた方法」を拾い上げて実践しています

というあたりには、丸亀製麺であえて高級メニューを出したり、とんかつ専門店で、塊肉からの切り出しや二度揚げといった、他店が尻込みすることをあえて実行して成功していった「自負」みたいなものを感じます。

ただ、場合によっては、こうした「自負」や「自信」が、「独りよがり」「慢心」に結びついてビジネスを台無しにしてしまう例も世間ではよくむるところで、ここらあたりの防止法は、本書の中ではちょっとアドバイスが見当たらなかったので、別途、自分で考えないといけないことであるようです。

このほか、「メールでなくチャットを使う」「バーチャル会議のメリット」といった「うどん業界」とはかけ離れているように見えるICTの話や

粟田社長は、「今、『世の中そんなに甘くないで』という言葉が若い人をつぶしている。『そんなことないで、甘いとこあるで』と若い人を集めたい」と語っています。 「世の中、甘くないぞ」は、若者がチャレンジするのを 阻む言葉です。 それは若者のためを思って言っているのではなく、相手の可能性を信じられないから言っている部分もあるのではないでしょう

といった「人材育成」に関しての味のあるアドバイスも掲載されているので、飲食業界・食品業界とは別分野のビジネスマンも目を通しておいて損はない一冊になってます。

【レビュアーから一言】

とかく、カリスマ的なリーダーというものは、会社を大きくししたり、成功を牽引してきた自信に溢れているので、いつまでも自分の判断やリーダーシップが有効だと思うことが多いのだが、本書の丸亀正麺の社長さんの

すべての業態を粟田社長が仕切るのではなく、これからはそれぞれの業態を分社化して一人一人社長を立てていく構想です。粟田社長いわく、「私が一人ですべての業態をやっていこうと思ったら、丸亀製麺以上のものはつくれないかもしれない。それに、私がやると、どうしても丸亀製麺のプライオリティが一番高くなってしまう。過去の成功体験だけを頼りに経営をしたら、時代から 乖離してしまうし、企業の成長が踊り場を迎えて、衰退していく可能性もある」

といったあたりは「潔よく」感じますね。こうした「分散化」がうまくいくかどうか、組織経営の面でも、この会社に注目すべきだな、と思わせるのであります。

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