宮前久美と一緒に「競争戦略」を学んでみよう ー 永井孝尚「100円のコーラを1000円で売る方法 2」(中経出版)

会計ソフトを扱う「駒井商会」を舞台に、美人だが鼻っ柱の強い「宮前久美」を主人公にして、マーケティング理論などを、ストーリー仕立てで描く「100円のコーラ)シリーズの第2弾。本書のテーマは「競争戦略」である。 2012年の刊行なので、今までのビジネス界につきものの栄枯盛衰はあるので、例示されている「企業名」の違和感を感じる向きもあるかも知れないが、その当時の、その企業の戦略の評価と考えて読み進めよう。

【構成は】

Prologue 宮前久美再び 1st Match 業績悪化の真犯人は誰だ? ー日本型コンセンサスの落とし穴 2st Match なぜマクドナルドはリーダーであり続けるのか? ー弱者の差別化戦略と強者の同質化戦略 3st Match 実験は「結論」から始めろ ーPDCAの本質とストーリー戦略 4st Match ”あらゆる事態”に備えるな ー網羅思考のワナ 5st Match 「平等から公平へ」シフトしたパナソニック ー仮設思考と論点思考 6st Match マツダがガソリン車でハイブリッド車に対抗できた理由 ー弱者に不可欠な「選択と集中」 7st Match ローコストキャリアが大手航空会社に勝つ方法 ー「やらないこと」を決める差別化戦略 8st Match 「1+1+1=3」を超えるチームづくり ーミンツバーグの創発戦略 9st Match 撤退する勇気 ートレードオフの見きわめ方 10st Match 社員14人で業界シェア80%を握るコミーの戦略 ー参入障壁の築き方 Epilogue 与田誠の転身 あとがき 成功体験からの脱却

となっていて、あらすじは、「社長の会計」というクラウド型の会計ソフトを売り出して順風満帆に見えた「駒井商会」なのだが、ライバルの大手企業・バリューマックス社が類似のソフトを売り出し、業績に暗雲が漂い始める。 この事態を重くみた新社長から、久美は「社内タスク・フォースチーム」の責任者に任じられ、張り切るのだが、彼女の性格もあってか、社内の古手の営業担当専務と対立する事態に。これに乗じてライバル企業は、さらに攻勢をかけてくるのだが、果たして宮前久美はどう挽回するのか・・?、といった展開である。

100円のコーラを1000円で売る方法2

【注目ポイント】

当方的に注目しておきたいのは、「あとがき」に書いてある、「本書は、「ビジネス戦略」に焦点を当てていますが、その背後にあるテーマは「成功体験からの脱却です」というところと「PDCAの”P”」についてのところ。

◯成功体験からの脱却

こいつは、ビジネス書のサクセスストーリーにはつきものですね。本書では、この「過去の成功体験」の体現者である営業担当専務が、会社の一大ブランドになりかけている会計ソフトを、今までの直販方式やサポート体制を強要して売上を激減せせる元凶となる設定で、「賞味期限が切れた成功体験はむしろ足かせになる(P123)」といった表現は手厳しいですな。

もっとも、この成功体験がなければ、ベテラン風邪も吹かせられないわけで、肝心なところは、成功体験を単なる記録してではなく、普遍的な「原則」まで抽出する努力と、これが古びていないか、冷静にチェックし続けることが大事なんであろう。

◯PDCAの”P”は「計画」ではなく「仮設」

PDCAの「P」の解釈はちょっと目ウロコでしたね。「計画」「計画」と堅苦しく考えるから、PDCAは最初のところから躓くのかもしれんですね。まずはPDCAを回すことを優先しろ、ということですね。

さらには

PDCAで大事なことは、最初にストーリーを思い描くことです。最短距離でゴールの到達するにはどうすればいいか。仮設(Plan)を立てて、実行して(Do)、その結果を検証して(Check)、次の行動(Action)niつなげる。最初に立てるのは仮設ですから、間違っているかもしれません。その場合は軌道修正すればいい。やってみて、もっといいやり方が見つかったら、すぐに改善する。そうやって一歩一歩着実によりよい方向に進んでいくのがPDCAの本来の姿です(P58) PDCAは螺旋階段 PDCAを一つの”円”と考えると、1年単位の長いスパンの話のような気がしますが、PDCAは本来、1週間とか半月とかの短いスパンでどんどん高速回転させてはじめて威力を発揮する方法(P59)

といったことを、PDCAを実践する上では、おさえておきたいですね。

もちろん、本書の主テーマは「競争戦略」であるので、「弱者の戦略の基本は、競争相手と差別化すること、強者の戦略の基本はそれを封じ込めること」とそこのところもしっかり書いてあるので、詳しくは原書で確認を。

【レビュアーから一言】

本シリーズも第二作となって、主人公の宮前久美は、周囲を巻き込みながら、課題を解決していく姿がなにやら好ましく思えてくる。さらには、彼女のライバルであるバリューマックス社の商品戦略課長・内山明日香が一敗地にまみれることになるのだが、彼女の上司が大企業とはいえ場面によっては弱小であることを思い知るあたりは、判官びいきではあるが、ちょっと溜飲がさがりますな。

なにはともあれ、マーケティング理論の専門書を読む前の事前準備としておススメである。

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