”宮前久美”、イノベーションを学んでグレードアップする ー 永井孝尚「100円のコーラを1000円で売る方法 3」(中経出版)

宮前久美という、美人なのだが、とても気が強くて負けるのが大嫌いな女性を主人公に、第一巻は「マーケティング全般」、第二巻は「競争戦略」をテーマにしていた「100円のコーラ」シリーズも最終巻である。
今巻は、第二巻の最終章で、「ガンジーネット」という会計ソフトのグローバル企業の日本法人社長となった、駒沢商会の上司で、マーケティングの指導者でもあった「与田」を相手のバトルを通じて「イノベーション」について物語仕立てでレクチャーしてくれる。

【構成は】

Prologue ガンジーネット・ジャパン社長・与田譲
Target1 破壊的なライバルは外からやってくる
ーグローバル市場の怖さ
Target2 iPhoneやKindleはなぜ世界中で使えるのか?
ー個別カスタマイズから標準品へ
Target3 企業メッセージの99.996%はスルーされる
ー共感の時代のマーケテイング戦略
Target4 無料でも儲かる仕組みとは
ーフリーミアムのビジネスモデル
Target5 トランジスタラジオが真空管ラジオを駆逐した理由
ーイノベーションのジレンマ
Target6 買収するほうは立場が強いとはかぎらない?
ー交渉の成否を握るBATNA
Target7 なぜグーグルはYouTubeを買収したのか?
ーM&Aを成功させる方法
Target8 アップルがiPadでパソコンを否定した理由
ーイノベーションの作法
Target9 有料で1万人に売るか、無料で100万人に使ってもらうか?
ー数が生み出す新たな価値
Target10 動きながら考える
ーイノベーターの素養
Epilogue それぞれの新天地へ
あとがき 現状維持は破滅

となっていて、大筋的には、グロバール企業のガンジーネットが、そのフリーミアム戦略で、「駒沢商会」はおろか、市場大手で大企業のシェアのほとんどを持っている「バリューマックス社」の経営を脅かすようになっっている状況下で、両社が共同して、自社製品の、画期的なイノベーションを行って、商品ラインナップから業態まで、がらっと変えてしまう、というもの。
あいかわらずの「宮前久美」流の大騒ぎは健在で、まるで、ジェットコースターに乗ってアップダウンしているようなストーリー展開なのだが、爽快感のある展開で、「久美」の乱暴な活躍を楽しみながら、経営理論の知識が手に入るのは、儲けものには間違いない。

【注目ポイント】

このシリーズの良いのは、経営学の本としては、新書形式のような薄いものでも、このシリーズに取り上げられている理論の知識を得ようとすると、かなりの冊数に目を通さないといけないところを、エッセンスの部分を凝縮して、しかも物語したてで平易に、その感じがつかめることろ。

そして取り上げられている理論が、例えば、ガンジーネットのビジネスモデルが、「入り口のサービスを無料で提供しつつ、別のところでお金を儲けるシステム(P70)」であるフリーミアムをベースにしたものであったり、駒沢商会やバリューマックス社の経営が脅かされる原因として

いったんイノベーションを実現した企業が自分たちの顧客に真面目に対応しているだけだと、次のイノベーションの波に乗り残ってしまう。いつの間にか別の方面から破壊的なノベーションが登場して、自分たちの地位が脅かされる。(P99)

といった「イノベーションのジレンマ」をとりあげ、

イノベーションのジレンマは、既存のお客様の課題を満たそうと努力し続けると、かえって失敗するという状況を指す。それを避けるためのは、目の前にいる既存のお客様だけを見るのではなく、その背後に隠れているお客様になるかもしれない人たちにも目をむけることが重要(P101)

といったことを紹介しながら、物語としては、「久美」に今までの会計ソフトの提供と行った業態から、リスク管理業務への業態変更の提案をさせるといった展開を示して、具体の「イノベーション」のイメージを示していたり、両社の合併話のところでは、『BATNA(Best Aliternative To Non-Agreement、交渉が成立しなかった場合の次善策)』の解説を通じて、交渉ごとの「有利・不利」は、資本の大きさやシェアの大きさに惑わされてはいけないことなど、”入門編”であるにもかかわらず、かなりツボをえた仕上がりになっている。

【レビュアーから一言】

これを読めば「イノベーション」のすべてがわかるといった類ではないが、少なくとも、ウンチクを披瀝する時の一欠片になることがたくさん含まれている、「イノベーション」入門書であることは間違いない。

気軽に読める、マーケテイング入門書」として、ほかの「100円のコーラ」シリーズとあわせて、セットで読むことがオススメ。
そうしておくと、「宮前久美」も無事に海外へ送り出せて、物語中の「井上くん」と同様、一安心になること毎違いなし、なんでありますね。

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