”実践”には十分役立つ、軽めの「マーケティング入門書」 ー 永井孝尚「100円のコーラを1000円で売る方法 1」

先だってレビューした『「これ、いったいどうやったら売れるんですか?ー身近な疑問からはじめるマーケティング」(SB新書)』の先行バージョンといっていいのが、本書『永井孝尚「100円のコーラを1000円で売る方法 1(中経文庫)』。 「これいったい・・」とは、ちょっと趣向が違って、アメリカのビジネス書でよくある、主人公の彼女(彼)のドラマに託してマーケティングを語るといった形式の、ドラマ仕立てのマーケティング入門書である。

【構成は】

Plologue 宮前久美登場
Round1 アメリカの鉄道会社はなぜ衰退したのか? ー事業の定義
Round2 「お客さんの言いなりの商品」は売れない? ー顧客絶対主義の落とし穴
Round3 顧客の要望に100%応えても0点 ー顧客満足のメカニズム
Round4 値引きの作法 ーマーケットチャレンジャーとマーケットリーダーの戦略
Round5 キシリトールガムがヒットした理由 ーバリュープロポジションとブルーオーシャン戦略
Round6 スキンケア商品を売り込まないエステサロン ー競争優位に立ちためのポジショニング
Round7 商品を自社で売る必要はない ーチャネル戦略とWin・Winの実現
Round8 100円のコーラを1000円で売る方法 ー値引きの怖さとバリューセリング
Round9 なぜ省エネルックは失敗してクールビズは成功したのか ーコミュニケーションの戦略的一貫性
Round10 新商品は必ず売れない? ーイノベーター理論とキャズム理論
Epilogue 終わりなきマーケティング革命

となっていて、「駒沢商会」というソフトウェアの販売会社が本書の舞台。 主人公は、”鮮やかな色のスーツを着こなし、年齢は30歳前後。アカ抜けていて眼力が強く、いかにも勝ち気な印象だ。黒いストレートのロングヘアがひときわ目立つ」という「宮前久美」という女性で、彼女が商品企画部の「与田」、久美の同僚の営業部員・井上太郎といったところをメインキャストに展開する。

主人公は、とても高ピーで自信家の女性マーケターなので、ここで好みが分かれるようで、このへんはAmazonのコメントでも言われてますね。

100円のコーラを1000円で売る方法

【注目ポイント】

本書は、主人公が「会計ソフト」の改良や、新製品の開発を通じて、力任せの営業や商品開発から、マーケティング理論に裏打ちされた商品開発を学んでいく、といった展開で、こういう本にありがちの「出来すぎた成功」という感じはあるのだが、一連の流れに沿ってストーリー展開するので、本書の商品である「会計ソフト」を自分の担当している商品とか企画におきかえて考えれば、自分の仕事に「マーケティング理論」が、無理なく導入できそうな気がしてくるのが、不思議な所である。 当方だけかも知れないが、人の思考は、どうやら抽象論ではなく、具体論でないと深まらないのかも、と思った次第。

注目すべきフレーズはまず、

バリュー・プロポジションの出発点は顧客です。ただし、顧客の言うことを全部受け入れればいいわけではありません。むしろ、顧客本人も気づいていないような価値を見つけられるかです ほとんどの企業は、時間とコストをかけて、他社と同じことを一生懸命自社でやろうとしています。その結果、どの商品もサービスも同じものになってしまい、一生懸命努力しているのに、それに見割った差別化ができていません。その結果、際限のない価格競争に突入して買い叩かれ、利益がどんどんすくなくなっていく(Kindle位置814)

という「バリュープロポジション」に関するもので、とかく人の目や人の意見は気になるもので、主人公と同じく、関係者やお客や上司の意見を最大限取り入れて、何が何やらわからなくなってしまうことはよくある例。あれもこれも加えるより「加えないものを見出すこと」が大事なんですね。

こうした悪い意味の「テンコ盛り」は”カスタマー・マイオペア”という

目の前のお客さんが言っていることだけを鵜呑みにして、それにすべてに対応しようとしてしまって、本当にお客さんが必要としていることに対応できておらず、長期的にみるとお客さんが離れていってしまう状態

といったことを招くのだが、日本の看板であった「携帯」や「テレビ」が海外メーカーに負けていったのは、技術輸出の弊害の問題以外にも、こんなところにも原因がありそうですね。

最後は、「顧客」に関しての

「新しい商品が世の中に出ると、普及段階によって、その商品を買う顧客のタイプが異なります。真っ先に買うのが”イノベーター”と呼ばれる人たちです。人数はごくわずかですが、革新性を最優先して買います、その次に買うのが”アーリーアダプター”です。先行ユーザーのことはあまり気にせず、実際によさそうだったら買います。その次が”アーリーマジョリティ”。実際に先行ユーザーが使ってみてよさが証明されたら買います。それ以外の人たちは、よほど困らないかぎり買いません。(kindle位置1589) アーリーアダプターのお客さんへの売り方と、”リスク重視型”、つまりアーリーマジョリティのお客さんへ売り方は正反対(kindle位置1608)

といったところ。商品にしろ企画にしろ、「誰に売るか」の大事さを教えてくれるもので、「全ての人に売る」ことが叶わない以上、「誰にかってもらうか」は全ての「キモ」であるようですね

【レビュアーから一言】

がっつりとした「マーケティング本」ではなくて、寝転びながら読みすすめることのできる本なのだが、そもそも学者でもない当方は、企画をするときに、そんな「がっちり」した理論は必要としていない。 むしろ、こうした「入門本」で感覚をつかんでおいて、あとは実践で適用してみながら、必要なところを理論補強していけばよい、と思う次第。 そんな、軽めの用途にオススメの一冊であります。

【関連記事】

宮前久美と一緒に「競争戦略」を学んでみよう ー 永井孝尚「100円のコーラを1000円で売る方法 2」(中経出版)

”宮前久美”、イノベーションを学んでグレードアップする ー 永井孝尚「100円のコーラを1000円で売る方法 3」(中経出版)

コメント

タイトルとURLをコピーしました