完結間近の「ゴールデンカムイ」を深く楽しむための「解説本」ベスト3

日露戦争の激戦地の戦闘に参画していながら生き残ったことから「不死身の杉元」と異名のついた元陸軍兵・杉本佐一と、アイヌの娘・アシリパが、アイヌの諸部族が昔から集めてきた大量の金塊のありかを探しあてるため、アシリパの父・ウィルクを殺した「のっぺらぼう」の残した金塊のありかを示す地図「刺青人皮」を求めて、鶴見中尉率いる陸軍第七師団の第27歩兵連隊や、戊辰戦争で死亡したはずの幕末の京都で怖れられた「新選組」の副長・土方歳三率いる新選組の残党たちと争奪戦を繰り広げる物語が、「ゴールデン・カムイ」の物語。2014年から「週刊ヤングジャンプ」で連載されていたのですが、2022年4月28日で最終話となることが発表されています。

アイヌの少女を主人公にして、日露戦争後の北海道や樺太を舞台に物語が展開されている、明治末期の北方叙事詩なのですが、一般にはなじみの薄かったアイヌ文化というものを教えてくれたマンガでもあります。

2022年4月28日まで、シリーズ完結を記念して、全話が「ヤンジャン」の電子コミックのサイトで無料公開されているのですが、今回は、この「ゴールデン・カムイ」の世界をよりディープに味わうことのできる「解説本」ベスト3を紹介しておきましょう

中川裕『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』(集英社新書)

「ゴールデンカムイ」のアイヌ語監修者で、アイヌ文化研究者である筆者がマンガの名場面を引用しながら、アイヌ文化の解説を行った「公式解説本」。コミック的には12巻あたりまではとりあげられているので、アシリパと杉元が樺太にわたり、父・ウィルクの真実の姿を見つけるまでが中心です。

構成は

「ゴールデンカムイ」主要キャラクター一覧
「ゴールデンカムイ」あらすじ
第一章 カムイとアイヌ
第二章 アイヌの先祖はどこから来たか
第三章 言葉は力
第四章 物語は知恵と歴史の宝箱
第五章 信仰と伝説の世界
第六章 「ゴールデンカムイ」のグルメワールド
第七章 「ゴールデンカムイ」名シーンの背景
第八章 アシリナたちの言葉 アイヌ語とは
終章 アイヌ語監修とは何をやっているのか

となっていて、公式解説本の自称するだけあって、原作からの画像引用とそれを題材にしたアイヌ文化解説はわかりやすいです。

アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」 (集英社新書)
大人気漫画「ゴールデンカムイ」のアイヌ語監修者による、唯一の公式解説本が誕&...

北原モコットゥナシ・谷本晃久「歴史人新書 アイヌの真実」(ベスト新書)

北海道大学アイヌ先住民族研究センターの研究者である北原氏と近世蝦夷地をフィールドにしたアイヌ社会・和人社会などの研究を行っている北海道大学教授・谷本氏の共同監修によるアイヌ民族の文化、言語、歴史、現状までの幅広い分野をまとめた新書です。

構成は

1章 アイヌ民族と和人
2章 カムイの章
3章 モシ?の章
4章 アイヌの章
5章 ヤウンモシ?の縄文文化とそこに住む人々
6章 古代・中世国家と北方世界に住み人々
7章 幕藩体制に組み込まれたアイヌ民族
8章 日本政府によるアイヌ民族同化政策
9章 戦後民主主義の中でのアイヌ民族

となっているのですが、図版や写真が多いのが特徴です。

異文化理解という点から見ると「テキスト情報」っていうのはなかなか、本質的なところがわかりにくいところがあるのですが、写真などのビジュアル面の充実している本書は感覚的に理解できるところが多いですね。

北海道大学という地元の大学の研究者の方が関わっている優位点というところでしょうか。ちなみに目次中にある「ヤウンモシㇼ」とは北海道のことらしいです。

アイヌの真実 (ベスト新書)
先住民族アイヌのことをどれだけ知ってますか

瀬川拓郎「アイヌ学入門」(講談社現代新書)

本書刊行当時は旭川博物館の館長さんで、考古学者の筆者によるアイヌ民族の歴史と文化史を総覧した新書。

構成は

序章 アイヌとはどのような人びとか
第一章 一万年の伝統を継ぐ
第二章 交易ー沈黙交易とエスニシティ
第三章 伝説ー古代ローマからアイヌへ
第四章 呪術ー更新する人びとと陰陽道
第五章 疫病ーアイヌの疱瘡神と蘇民将来
第六章 祭祀ー狩猟民と山の神の農耕儀礼
第七章 黄金ーアイヌは黄金の民だったか
第八章 現代ーアイヌとして生きる

となっていて、序章と最終章では、アイヌ民族出身の歌手の方や、昭和30年代生まれのアイヌ民族の方へのインタビューなど、「今」の姿をレポートしつつも全体としては、民俗学的・人類学的な考察が多いですね。

とりわけ、アイヌ民族の特徴である「クマ信仰」をオホーツク人との宗教的共通性の側面ではなく、内地との交易の視点でとらえなおしたり、対面で行わない沈黙交易を、疱瘡などの感染症の防疫の面からとらえるなど、アイヌ民族を狩猟民・自然の民という側面ではなく交易・貿易の民としての再定義するところは興味深いですね。

同じ筆者による「アイヌの歴史 海と宝のノマド」は考古学的な考察をさらに深めた形になっているので、もう少し学術的に深掘りしたい方はこちらもあわせて読むといいでしょう。

アイヌ学入門 (講談社現代新書)
海を渡り北方世界と日本を繋ぐ大交易民族としてのアイヌ。中国王朝と戦うアイヌ&...

「まとめ」と「その他のおススメ本」

「ゴールデンカムイ」を深掘りするための、アイヌ文化関係の「解説本」を3冊ピックアップしてみました。いずれ分厚い「学術本」ではなく、新書形式のものなので、手軽に読めるんじゃないかと思います。

「ゴールデンカムイ」の本編は、すでにアシリパたちが先祖の黄金を発見し、その奪取を狙う鶴見中尉の第七師団兵と、それを阻止しようとするアシリパと杉元、土方歳三たちの戦闘の場面が中心となっているのですが、アシリパちゃんのルーツを理解しておくと、本編が一層楽しめるかと思います。

このほか、ゴールデンカムイでアシリパが披歴するアイヌ民話に興味のある人向けには『更科源蔵「アイヌ民話集」(青土社)』『朝里樹「日本怪異妖怪辞典 北海道」(笠間書院)』あたりはいかがでしょうか。特に後者はアイヌ民話だけでなく、北海道にわたった本州人、いわゆる「和人」に伝わってきた伝説や都市伝説、樺太に住むニヴフ(ギリヤーク)族やウィルタ族、樺太アイヌに伝わる伝説・妖怪話まで収録してある珍しい一冊です。

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