オフィス街の路地にあるスープがメインのレストラン「しずく」を舞台に、店の常連「奥谷理恵」とレストランのシェフ・麻野と彼の娘・露をメインキャストにして、店のお客たちが抱えている悩みごとの謎解きと、スープ料理が愉しめる「スープ屋しずく」シリーズの第7弾が本書『友井羊「朝食フェスと決意のグヤーシュ スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」(宝島社文庫)』です。
前巻で、会社の経営母体がかわってからも、フリーペーパーの仕事を続けるため「イルミナ編集部」に残留したものの中国地方のフリーペーパーのリニューアルという新たな仕事を任された理絵はようやくその長期出張から帰ってきたのも束の間、今巻では、イベント運営部門へと異動して、今までの以上の新しい仕事にチャレンジしていきます。
あらすじと注目ポイント
収録は
第一話 優柔不断なブーランジェリー
第二話 鶏の鳴き声が消えた朝
第三話 骨董市のひとめぼれ
第四話 壊れたオブジェ
第五話 朝活フェア当日~理恵の忙しすぎる日
特別掌編 麻野と理恵の謎解きカフェごはん
となっていて、冒頭では、フリーペーパーのリニューアルの仕事を完結させて、古巣の「イルミナ編集部」へと帰還するつもりだった理恵は、今度は、「朝活イベント」の企画運営に携わることとなり、そのテーマの中でも、朝食メニューを提供してくれる店探しに奔走しています。
本シリーズの舞台となる「スープ屋しずく」の出店は確約をとっているのですが、ここと同じレベルの飲食店となれば、かなりハードルが高くなるのですが、出店交渉の過程で起きる事件を解決することによって、その難題をクリアしていって・・という設定です。
まず第一話の「優柔不断なブーランジェリー」の交渉相手は、パンの名店と言われている「ブーランジェリー・キヌムラ」というお店です。理恵が「スープ屋しずく」の常連で、店主の麻野とも知り合いであることから話はとんとん拍子にまとまるかと思ったのですが、突然、
「ブーランジェリー・キヌムラ」の店主・絹村がイベント参加を見合わせたい、と言ってきます。訳を聞いてみると、彼は再婚まじかなのですが、相手の前夫らしき人物の影が店の外にちらつくようになってきています。その前夫はかなり凶暴な性格のようで、再婚相手の息子から、その男が襲ってきても、母親を守ることができるか、と問い詰められたのですが、絹村は明確に答えることができず、その男の子の信頼を損ねてしまったようで、とてもイベントに参加する気持ちになれない、と言うのです。「ブーランジェリー・キヌムラ」が不参加となればイベントの目玉を失うこととなるので、困った理恵は麻野に、キヌムラの店の周囲をうろつく不審な人物の正体を推理してくれ、と頼むのですが、その正体は・・という展開です。
第二話の「鶏の鳴き声が消えた朝」で理恵は訪ねた店は、人気のおにぎり店「いなだ屋」です。女性一人で運営するその店のレジの手伝いをしたことから、その女性の信頼を勝ち得て、イベント参加を了承してもらうのですが、その縁から、「いなだ屋」の店のある土地の女性オーナーが飼っていたニワトリが行方不明になった謎解きも引き受けることとなります。その女性オーナーは、「いなだ屋」の常連客の一人で、孫娘と同じ学校で、部活動とレギュラーポジション争いで敗れた女子高生が犯人に違いないと主張するのですが・・という展開です。
第三話の「骨董市のひとめぼれ」では、朝活イベントのトークショーに登場してもらう人気ブロガーの「いわくつきの調理器具」の謎解きです。そのブロガーはヘルシーで美味しそうな朝食メニューの記事で、若い女性に人気があるのですが、調理器具にも凝っていて、骨董市めぐりも趣味にしています。その彼女がある骨董市で、赤褐色に輝く鍋とボウルを手に入れるのですが、その鍋でガスパチョをつくりボウルに移して冷蔵庫にいれようとすると手を叩かれたような衝撃を受けたり、鍋でラタトゥイユをつくり、一晩おいて食べるとひどい食当たりになったりという災難に見舞われます。なにかいわくがあるのかと、鍋とボウルを買った骨董市にいくと、買った店の店主が「売れ残りや返品が続いて何か因縁があるものかと思っていたが、何も知らない若い女性が全部買ってくれた」と同業者と話をしているのを小耳に挟みます。
この道具に隠されている「いわく」とは果たして・・といった謎を麻野が科学的に解明していきます。
第四話の「壊れたオブジェ」は、麻野の娘・露と買い物に出かけた時に、インド料理店で飾られていたフクロウのオブジェを壊した、と「露」が疑いをかけられます。彼女は元々人見知りが激しいので、この時の怯えた様子はハンパないですね。この疑いを理恵から店の情報をもらいながら、麻野が晴らしていくのですが、少しネタバレしておくと、謎解きの鍵は「レモン果汁」と「クローブ」に注目です。二つの調味料が、オブジェのクリスタル部分と、支えの発泡スチロールに思ってもみない悪さをするのですが、この事件を穏便に解決することで、理恵の担当しているイベントの会場問題が解決していくことになります。
第五話の「朝活フェア当日~理恵の忙しすぎる日」はようやく開催の日を迎えたイベント会場に、近くの家から宝石を盗み出した犯人が紛れ込みます。ここで理恵が無意識のうちに、犯人を追い詰めていくのですが、詳細は原書のほうで。ただ、謎解きの鍵は、チュロスなので、スープ好きには不満が残るかもしれません。
レビュアーの一言
今巻で登場するスープは「焼き秋刀魚のポタージュ」「玉ねぎのミルクシチュー」「旬の春菊とベーコンとトマトスープ」「豚汁定食」「スペイン風雑炊・カルドソ」「ヒオウギガイのチャウダー」「チェコのキノコスープ・ブランボラチュカ」「インドのパラク・ショルパ」
「野菜のミネストローネ」といったもの。
どんなスープなのかは料理本のほうで確認してほしいのですが、そのうちの「玉ねぎのミルクシチュー」を紹介すると、三種の玉ねぎをつかったもので
薄い木製のボウルに白色のミルクシチューが盛られ、表面にパセリが散らされていた。皿を覗き込み、その見た目に驚かされる。シチューには薄切りの玉ねぎがたくさん入っている、紫たまねぎが彩りにアクセント加えているが、具材はそれだけなのだ。
(中略)
口に入れるとまず爽快なミルクの香りを感じた。スープ屋しずくのシチューはバターやクリームが控えめで、新鮮奈ミルクの風味をいただくことができる。ぎりぎりまで塩気が抑えられているが、ブイヨンの濃厚なコクのおかげで物足りなさは感じない。
口を動かすと、玉ねぎのさくっという歯触りを感じた。さらに同時にとろりと下の上で溶ける。
と言った感じです。謎解きと一緒に「スープ」の名品たちが楽しめるのが、このシリーズの特徴ですね。シリーズ最初の頃は、夜メニューも登場していたのですが、最近の話は「朝のスープメニュー」に特化しているように思えます。
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