連続殺人で「詰将棋」を出題する犯人をつきとめろ=井上ねこ「盤上に死を描く」

サイコキラーが自分のやった殺人であることの証拠を残していくことがままあるのですが、連続してはいるものの共通点がみつからない殺人事件の被害者がもっているのは「将棋の駒」。

てがかりもなく捜査が暗礁に乗り上げていく中で、体育会系の愛知県警捜査一課の女性刑事・水科優毅は、彼女の詰将棋の趣味をからあることに気づき・・という詰将棋ミステリーが本書『井上ねこ「盤上に死を描く」(宝島社文庫)』です。

ちなみに、本作は「このミステリーがすごい」大賞の第17回優秀賞の受賞作で、当時の最年長受賞者とのことです。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一部 作図
第二部 解図
第三部 検討

となっていて、詰将棋ファンにはここで何が書かれるかわかる目次になっているようです。

まず第一の事件は名古屋市で一人暮らしをしている71歳の老女がアパートの自室の中で、朝の六時頃、絞殺されるところから始まります。ゴミ出しにいって部屋に帰ったところで、部屋の中に忍び込んでいた犯人に凶器となる子供用の縄跳びで絞め殺されたものなのですが、スラックスのポケットにプラスチック製の「銀」の駒、手のひらの中に「歩」の駒が握らせられているのが、この事件の鍵となっていきます。

で、この事件の捜査本部に加わるのが、本編の主人公となる水科優毅という愛知県警捜査一課の巡査部長で、彼女は冒頭のところで休日は古本屋めぐりが趣味で、さらに「詰将棋」という女性には珍しい趣味を持っていることが描かれています。

そして、捜査本部型の捜査の定番として、聞き込みは本庁刑事と所轄刑事という組み合わせなのですが、水科は、警察官には珍しいイケメンで、ホストクラブにいそうな風情を醸し出している「佐田啓介」巡査部長ととともに捜査にあたることとなります。ここからラブコメっぽいミステリーに変化していくものがよくあるのですが、本巻は意外と佐田巡査部長が真面目な所轄刑事で、恋愛沙汰に寄り道せず謎解きに進んでいきますので、ご安心ください。

で、事件のほうは、その後、75歳の会社経営の女性、64歳のマンション管理会社の女性と連続殺人が続いていきます。犯行の手口は絞殺によるもので、すべてプラスティックの「歩」の駒をポケットに入れられたり、持たされたりしているのが特徴ですね。

三人の被害者には共通の利害や怨恨の線はなく、「女性」というところしか共通するところがなく、捜査本部では見えない糸をたぐろうとするのですが、72歳の無職の男性が殺されたことによって、「老女キラー」から「老人キラー」へと連続殺人が変質していきます。さらにこの男性が持っていた将棋の駒が、「歩」ではなく「桂馬」になっていたというのも変質を示唆していますね。

さらに事件の被害者は変わっていって、角行をもたされて絞殺されていた55歳のトレース業の女性、二番目の被害者の息子の男性が被害にあうことになります。最後の被害者は一命をとりとめていて、そのせいか将棋の駒はもたされていなかったのですが、おそらくは「玉将」をもたされていたのでは、と推測されたことで、詰将棋好きの水科が性別と年齢をキーとして「詰将棋」ができあがることを発見して・・という筋立てです。

そして、その詰将棋を解いたあとにできあがる図形が犯人をあぶり出すヒントとなっていて・・と、この「詰将棋」を軸とした捜査が開始され、ある容疑者が浮かび上がってくるのですが・・という展開です。

物語のほうはここから犯人の確保に向けて盛り上がっていって、一つの解決をみるのですが、ここで安心は禁物です。この段階まで読み勧めてみてまだページ数が残っているのがわかったところで、また新たな伏線回収が始まっていきます。

盤上に死を描く (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
第17回『このミステリーがすごい! 』大賞・優秀賞受賞作です。大賞史上最年長者が描くシニア連続殺人事件! 71歳、無職の植田ツネが殺された。手には将棋の「歩」を握らされ、ポケットには「銀」を入れられて。 それから2週間後、75歳の高倉純江が...

レビュアーの一言

今巻は通常の将棋ミステリーとはちょっと違って「詰将棋」をテーマにしたミステリーとなっているのですが、「詰将棋」の世界が「将棋」の世界とは一線を画していて、独自の文化世界をもっていることはこの物語で初めて知りました。

さらに小さな世界ではありながら、中の様子はそれなりの複雑怪奇に人の感情がもつれあっていて、伝統芸能の世界と同じ感じですね、とミステリーの舞台として十分な深さをもっているのがわかりますね。

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