県警の女性広報官は、オレオレ詐欺犯の死の裏の真相を見届ける=神護かずみ「影と踊る日」

新潟県警の生活安全課に勤務していて、地元のテレビ局で特殊詐偽広報を担当している、思い詰めたらとことん突き進んでいく跳ねっ返り女性警察官・鈴山澪が、テレビ番組の共演者・山野麻子の発言が炎上したことから、麻子が巻き込まれた特殊詐偽の真相と、人命救助で表彰された美談の主が隠していた真実に迫っていくとともに、澪が封印していた自らの過去へと踏み込んでいく警察ミステリーが本書『神護かずみ「影と踊る日」(講談社)』です。

あらすじと注目ポイント

物語は、新潟県警に勤務する本編の主人公・鈴山澪が、オレオレ詐欺のアジトへの突入で、逃走したグループのナンバー2を1キロ以上走って追跡し、左こめかみに怪我を負わされながらも犯人を検挙するシーンから始まります。警察の捜査陣の大包囲網から脱出した犯人を確保したもので、ここらで彼女の勇猛さと跳ねっかえりさが顔を出しているのですが、これがもとで新潟県警を代表して、地元テレビの情報番組で特殊詐偽防止の広報をしているという設定です。

もともとは単発出演だったのですが、現在では週二回のコーナーになっていて、まずまずの人気なのですが、好事魔多しとはいったもので、共演者で恋人が特殊詐偽の被害にあって自殺した経歴を持つ「山野麻子」が恋人の命日に感情が激して、特殊詐欺犯への復讐の念を生番組の本番でしゃべってしまい炎上騒動を起こしてしまいます。山野は当分出演を自粛し、澪の単独出演となるのですが、そこで、彼女が昨年、大雪の時に高齢女性を救助して表彰を受けた「沢田一平」という青年が行方不明になっているので情報があったら知らせてほしい、と視聴者に呼びかけたことから事態は意外な方向へと進んでいきます。

その放送と沢田の顔写真を見た視聴者から。彼は「オレオレ詐欺」の指名手配犯ではという情報が寄せられ、犯罪者であることを見抜けず、さらに表彰もしていたという憶測から新潟県警に批判が殺到し、澪はテレビへの出演休止と自宅謹慎を命じられてしまいます。ところがこれがまた憶測を呼んで、澪に何かやましいところがあったのでは、炎上騒動がさらに悪化していきます。

自分への疑いを晴らすため、沢田の携帯のGPS記録を入手した澪は沢田の行方を調べ始めるのですが、沢田は富山県のヒスイ海岸で、水死体となって打ち上げられているのが発見されます。現地に自宅謹慎期間であることを無視して出向いた「澪」は、その近辺のコンビニの聞き取りと防犯カメラの映像で、暴力団と腐れ縁があるとされている新潟県警の暴対課の札付き警察官・桑島の姿があったことをつきとめるのですが・・といった展開です。沢田は本当に過去、オレオレ詐欺で手を染めていたのか、そして、桑島たちとの関係は?、「澪」の跳ねっかえりの単独捜査が始まっていきます。

さらに、桑島が県警の後輩の鑑識課員にある女性の写真の加工を依頼してきていたことが判明するのですが、その女性、カフェ・リラの経営者・晶の店をそれとなく訪れて聞き込みをしているうちに、彼女も行方をくらましてしまい・・という筋立てです。

この後、失言による炎上で番組を休んでいた「山野麻子」の自宅から火事がでて、中から身元不明の遺体がふたつ発見されたり、火事が起きる少し前にに桑島がその家から青酸カリ中毒で運ぼ出されたり、と事件が「澪」の周辺に集まってくるのですが、この一連の騒動を陰で操っているのは一体・・・?という展開ですね。

ちなみに、少しネタバレしておくと、澪は幼少期に父親がアパートから転落死していて、その事故の何か秘密が隠されているようで、単独捜査にいろいろ協力してくれる、小学校時代の幼馴染でIT企業経営している「大西」とのやりとりや、同郷で大学時代に知り合った親友「舞」とのやりとりでも、それに関連したわだかまりが時折でてくるのですが、これが謎解きに大きく関係しているので、注意しておきましょう。

レビュアーの一言

企業の炎上騒動を陰で沈静化する仕事人「西澤奈美」の活躍する「ノワールをまとう女」「償いの流儀」に続いて、作者が続いて世に出してきたのが、県警の広報番組を担当する人気女性警察官、ということなのです、華やかな外見とは裏腹に、過去に「訳アリ」な女性を描くと、この作者はうまいですね。そして、今回も、複数の伏線が並列して進んでいきながら、最後には、主人公の「過去」の収れんしていくという手法は健在で、最終的には「過去の清算」というエンディングを迎えさせてくれるので、後味が悪くないのがおススメどころでもあります。

黒づくめの仕事人・西澤奈美に続いて新しい警察ヒロイン、デビューといったところでしょうか。

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