「ロミオとジュリエット」の登場人物の「異説」が事件解決の鍵になる=林泰広「分かったですむなら名探偵はいらない」

「ロミオとジュリエット」といえば、シェイクスピアの四大悲劇の一つであることはほとんどの人が知っていて、そのストーリーは、原作を読んだことがなくても、おおまかなところは日本人の基礎知識に近いといっていいでしょう。

その「ロミオとジュリエット」の登場人物たちに関する「異説」が、事件の謎解きの鍵になっているのが本書『林泰広「分かったですむなら名探偵はいらない」(光文社)』です。

本篇の紹介文によると

居酒屋「ロミオとジュリエット」では皆、かの名作になぞらえながら、嘆き、怒り、酔っ払っている。そこで、いつもひとりで飲んでいる、「名探偵」の俺。今夜も謎を抱えた酔っ払いが俺の前で、勝手に事件を語り出す。

ということで、洋風居酒屋を舞台に、常連客の「俺」に、客たちが自らに関係した事件を語り出すのですが、そこに「ロミオとジュリエット」の登場人物が絡まって、事件の真相が別の姿をみせてきます。

あらすじと注目ポイント

収録は

「106は頑張っている」
「バカにすんな!」
「Bプランでいこう」
「マリコさん、只今後悔中」
「ロザラインなんているものか」
「陰謀ジジの質問タイム」
「106は頑張っていた」

となっていて、舞台となるのは、大都会の片隅にあるらしい「ロミオとジュリエット」という洋風居酒屋。高校時代の恋人の父親の犯罪を暴いて、彼女と彼女の家族から恨まれ続けている「名探偵」と言われる男が、その店で一人呑んでいるとき、たいてい、客のひとりが絡んできて、自らの事件を語り始め・・という流れで物語が展開していきます。

そして、その謎解きの鍵となるのが、シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」の登場人物たちの行動の本当の「理由」という筋立てです。

まず第一の事件「106は頑張っている」は、名探偵の「俺」が警察署で見た、浮気をしようとしていた夫を、浮気相手が事故で急死したことを聞いて、突然、夫をビール瓶でなぐって死なせてしまった妻の犯行の理由と、彼女が後悔していることが何か、という謎解きです。

刑事たちは、浮気に怒った妻の傷害致死だと推理しているのですが、実は、その妻の犯行動機は別のところにあります。その謎は、店で「106は素数だ」と主張する会社員と上司の「『ロミオとジュリエット』でジュリエットが大公の縁戚のパリスとの結婚を強要されるシーンで、本当に可愛そうなのは強要している父親・キャピュレットだ」という会話から未びき出されるヒントで解き明かされて・・という展開です。

第二話の「バカにすんな!」では、「俺」の席へグデングデンに酔った女性が愚痴をこぼしにやってきます。

彼女と彼女の妹は、ある新興のITベンチャー企業に勤めていたのですが、その妹が残業して退社中、非常階段で見知らぬ男に首を絞められ、逃げようとして突き飛ばしたところ、その男が転落死。以後、妹は心を病んで入院している、というのです。しかも、頭にくることに、その会社の社長が、会社の機密情報を盗もうとした泥棒を、勇敢にも撃退してくれたのだ、と嘘にまみれた賛辞を会社中に広めはじめ・・という展開です。

実はこの事件の裏には、会社の経営悪化による、株券偽装が絡んでいるのですが、それに端を発した事件の真相が、「『ロミオとジュリエット』の本当の主人公はジュリエットに求婚を断られる「パリス」だ」という酔っ払いのおっちゃんの話で明らかになっていきます。

第三話の「Bプランでいこう」では、相席となって一緒に「もつ鍋」を食べることになったドキュメンタリー作家から持ち出された話にまつわる謎解きです。

彼の知り合いは地方の政治家一家の一員で、議員である父親の急死で急遽、選挙に駆り出されることになったのですが、その余波で同棲していた女性と地元関係者が強制的に別れさせたため、女性が精神不安定で入院してしまいます。

その知り合いの依頼で女性に会いにきたドキュメンタリー作家は、「超能力者」を自称する人物に阻止され、その女性に会えないため、その自称超能力者の嘘を暴こうとしている、と言うのですが、「俺」は彼の「『ロミオとジュリエット』でロレンス神父が二人を結婚させたのは、ロミオとジュリエットのためじゃない」という説を聞いて、この政治家一家の後継ぎの揉め事の解決策を導き出していき・・という展開です。

このほか、第四話「マリコさん、只今後悔中」では、社内派閥の対立の激化の真相が、「『ロミオとジュリエット』の物語は「親たちの不和によって引き裂かれた恋人たちの物語」ではなく「子供たちの死によって和解した親たちの物語」」である」という説によって明らかになったり、第五話では、「ロミオの愛した人はもともとジュリエットではなかった」という説がプレイボーイ死亡事件の真犯人を暴いたり、と「ロミオとジュリエット」の登場人物に関する「異説」が事件の真相を暴いていくのですが、第一話から第四話までの詳細と、第五話から最終話までの謎解きは原書のほうでどうぞ。

分かったで済むなら、名探偵はいらない
居酒屋『ロミオとジュリエット』では皆、かの名作になぞらえながら、嘆き、怒り&...

レビュアーの一言

シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」にはいくつかの訳本があるのですが、本ミステリーでは「坪内逍遥』版や角川文庫の「河合祥一郎」版でもなく、白水Uブックの「小田島雄志」版が推奨されています。謎解きにどこかどう関係してくるのかは、原書を読みながら確認してみてくださいな。

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