「女の友情はハムより薄い」ってのは男どもの”いいがかり”か?=芦沢央「今だけのあの子」

「いつまでもずっと友達でいようね」というのは、卒業式をはじめとした、人生の節目の「別れ」の場面に、ほとんどの学校で繰り広げられている友情劇なのですが、数年後、その時と同じ関係を維持している友人関係は思ったより少ないもの。

本書の紹介文によると

環境が変わると友人関係も変化する。「あの子は私の友達?」
心の裡にふと芽生えた嫉妬や違和感が積み重なり、友情は不信感へと変わった。
「女の友情」に潜む秘密が明かされたとき、驚くべき真相と人間の素顔が浮かぶ。

ということで、友情をテーマにした日常に潜む謎をとりあげたミステリーが本書『芦沢央「今だけのあの子」(創元推理文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「届かない招待状」
「帰らない理由」
「答えない子ども」
「願わない少女」
「正しくない言葉」

の五話。

一番目の「「届かない招待状」は、一番の親友と思っていた女友達・彩音から、結婚式の招待状が届かなかったのですが、その結婚式に無断で出席しようとする女性・恵の姿から始まります。結婚式をあげようとしている彩音とは、大学1年生の頃に、大学の写真サークルで知り合い、周囲の同級生からも一番の親友と思われていて、恵の結婚式にも彩音を招待した仲なのに、友人やサークルの先輩たちの中で「恵」だけ招待状が届いていません。

さらに彼女を招待しないことを、こっそり、彼女の夫に相談もしているようで、恵は、彩音と夫との不倫の疑いももちはじめ・・という筋立てです。

夫との不倫が真実なのか明らかにし、真実なら結婚式を台無しにしてやるつもりで、無断で結婚式に出席した「恵」が、彩音の歩くバージンロードで見た「呼ばれなかった真実」とは・・といった展開です。

彩音の結婚式の三か月前、恵の結婚式のスライドショーで映した、恵の死んだとされている父親の写真と、彩音の「身内に犯罪者がいたらどうする」という質問が謎解きの鍵となります。

二番目の「帰らない理由」は、交通事故で急死した女の子・くるみの同級生のところへ弔問にやってきた、女の子の親友・喜多見瑛子と、幼馴染の男の子が互いに牽制し合って帰ろうとしない所から始まります。

二人の目的は、事故死した女の子の書いていた「日記」にあるようなのです。

死んだくるみと瑛子は同じ卓球部で、小学生の頃から卓球をやっていた瑛子が強豪クラブに持ち上げた経緯があるのですが、最初初心者だったくるみがめきめき実力をつけ、今では、くるものほうが全国大会の関東ブロックで入賞し、全国大会に出場するほど実力を伸ばしてきています。

ところが、全国大会の一回戦で強豪と対戦し、敗れたくるみに対し、瑛子が応援席で「笑って」いたような写真が、中学校の新聞部の新聞写真に載っていたことから、瑛子は周囲から悪口をいわれ、無視されはじめます。

瑛子は、くるみが本当は自分のことをどう思っていたのかしりたくて、日記の内容が気になっていると思われるのですが。そして、くるみとつきあっていると自称する幼馴染の「僕」の目的は・・といった展開です。「くるみ」の瑛子への友情と瑛子がくるみの部屋に居座る理由はちょっと予想外でした。

このほか、娘・恵莉香を絵画教室に通わせ、英才教育に励んでいる、少々神経質な母親・直香が、同じく息子・ソウくんを絵画教室に通わせている彼の母親のタメ口やあっけらかんとした態度にイラついていたところに、ソウくんに娘の絵を「破られて」しまったことでおきる諍いと意外な真実と結末が描かれる「答えない子ども」や、クラスの端っこにいた奈央と悠子という二人の少女がマンガ製作を通じて親友になるのですが、一人が才能を伸ばし、新人漫画賞を受賞してしまったことですれ違い、小学校の頃からマンガを描いていた悠子を、奈央が部室の倉庫に閉じ込めてしまう「意地悪」に潜んでいる真実が描かれる「願わない少女」、有料老人ホームに入所している夫を亡くした高齢女性・アサコが、お隣に入居している女性「孝子さん」のお嫁さんから、自分の差し入れる御菓子を食べないで、カビを生やして捨ててしまっているという愚痴を聞きます。「お嫁さん嫌い」という疑いが強くなるのですが、そこには意外な情愛が隠れていることに気付いて・・という「正しくない言葉」など、女性の「友情」に関する、ハートウォーミングな物語が描かれます。

今だけのあの子 (創元推理文庫)
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レビュアーの一言

「女の友情はハムより薄い」「恋愛すれば恋人が、結婚すれば夫が、出産すれば子供が優先される」など、女性同士の友情については、男どもの悪意の批判がされることが多いのですが、そんなのはいいがかりだ、とばかりに巧妙な仕掛けと人間心理を巧みに組み合わせた作品を多く世に出している作者が、「女の友情」を描いたのが本書です。

将来への明るい希望を暗示させるような結末の作品が多いのも、本書の魅力だといえますね。

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