法廷の手話通訳士が、連続殺人の影に隠れた福祉の闇を暴く=丸山正樹「デフ・ヴォイス」【ネタバレあり】

警察内の裏金操作を内部から告発し、日本中の警察組織から恨みを買っている、元警察事務官・荒井尚人が、ろう者の両親と兄を持っていることから幼少時から「日本手話」を身に着けた「手話ネイティブ」であることを活かして、手話通訳士となり、世間の無理解のアゲインストの風を受けながら、犯罪に巻き込まれた「ろう者」を守るために奮闘していく、手話を幹にすえた法廷ミステリーが『丸山正樹「デフ・ヴォイス」(創元社)』シリーズの第1弾です。

あらすじと注目ポイント

Amazonの作品紹介をみると

今度は私があなたたちの“言葉”をおぼえる

荒井尚人は生活のため手話通訳士に。あるろう者の法廷通訳を引き受け、過去の事件に対峙することに。弱き人々の声なき声が聴こえてくる、感動の社会派ミステリー。

仕事と結婚に失敗した中年男・荒井尚人。今の恋人にも半ば心を閉ざしているが、やがて唯一つの技能を活かして手話通訳士となる。彼は両親がろう者、兄もろう者という家庭で育ち、ただ一人の聴者(ろう者の両親を持つ聴者の子供を”コーダ”という)として家族の「通訳者」であり続けてきたのだ。ろう者の法廷通訳を務めていたら若いボランティア女性が接近してきた。現在と過去、二つの事件の謎が交錯を始め…。マイノリティーの静かな叫びが胸を打つ。衝撃のラスト

(Amazon「丸山正樹「デフ・ヴォイス」の「説明」「編集レビュー」より引用)

となっていて、社会派ジャンルの社会派ミステリー。

構成のほうは

第一章 通訳士
第二章 二つの手紙
第三章 少女の眼
第四章 損なわれた子
第五章 コーダ
第六章 デフ・ヴォイス
第七章 再会
第八章 消えた少女
第九章 裏切り
第十章 家族
第十一章 最後の手話

となっていて、このシリーズの主人公は、「手話通訳士」というあまりなじみのない職業ボランティアをしています。

ネットで調べてみると、厚生労働大臣認定の(社福)聴力障害者情報文化センターの実施する試験に合格した人が名乗れる資格で、行政機関やNPOからの依頼を受けて、聴覚障害者のコミュニケーションのサポートをするのがお仕事なのですが、手話通訳士のみで生計を立てている人は多くないのが実態のようです。

で、本編の主人公・荒井尚人がこの仕事を始めたのは、彼がろう者の一家に生まれたたった一人の健常者で「手話」を取得していたということもあるのですが、県警をある不祥事の告発で辞めざるをえなかった、というのも関係しているようですね。

そんな主人公が手話通訳士としてなんとか食べられるようになり、法廷通訳などへも手を広げ始めた頃、ろう者の社会復帰とサポートをしている「フェロウシップ」というNPOを通じて、ある刑事事件の法廷通訳の仕事が舞い込みます。その法廷で手話通訳をした米原という老人の社会復帰を手伝ううちに、彼はある事件に関わりをもっていきます。

それは埼玉県の狭山である障害者施設の理事長をしていた男が刺殺された事件なのですが。その容疑者となったのが、かつてその施設を娘が利用していた「門奈」という男性です。実は彼は十数年前におきた、今回の被害者の父親の加害者でもあって・・という展開です。実は荒井は警察にいた頃、その事件の捜査に関わっていて、門奈の”二人”の娘の妹のほうから「おじさんは味方なのか敵なのか」と問い詰められた記憶が残っています。

しかし、今回、門奈の裁判の手話通訳のため、彼らの家族に合うと娘は一人しかいない、と告げられ、あの時の女の子はだれだったのか、と疑問を抱く荒井は、米原が社会復帰のために世話になっているNPO「フェロウシップ」が借り上げているアパートの一室で、行方をくらました門奈の姿を見かけます。「フェロウシップ」は今回の殺人事件に関わっているのか、そして、消えてしまった門奈のもう一人の娘は・・といった展開です。

物語の展開には、NPOフェロウシップの理事長で、大金持ちのお嬢様の「手塚瑠美」が政治家の婚約者がいながら、荒井に好意を持っているような素振りで近づいてきたり、荒井が現在の恋人の「安斉みゆき」と前夫との娘「美和」の親権争いに巻き込まれたりといったことが絡んでいくのですが、その中から、現在と過去の障害児施設の理事長の殺害事件の真犯人とその事件にかくされた福祉を隠れ蓑にした隠されていた犯罪が明らかになっていきます。

レビュアーのおまけ

このミステリーは2023年に主人公「荒井尚人」役に草薙剛さん、「手塚瑠美」役に橋本愛さん、「安斉みゆき」役に松本若菜さんというキャストでNHKでテレビドラマ化されています。原作がろう者の現状から手話の話、そして登場人物が多く、場面展開の多いミステリーの部分など盛りだくさんの内容の濃い作品を、前・後編各73分に治めたせいか、結末のところが唐突という意見もあるのですが、Yahooテレビの「みんなの感想」あたりでは

主人公はもちろんだが、当事者俳優の演技が眩しかった。後編は駆け足で終った感がするので、せめて前中後の3回分放送があると良かったかも。原作は視聴前後どちらかで一度読んだほうが、ストーリーの細かい意味が理解しやすいと思う。兄は、原作より荒っぽく表現されていた。これは、聞こえる人向けに強めに設定されたように思う。
デフ・ヴォイスは、シリーズで出版されている。シリーズの放送を望む。

Yahoo「みんなの感想」

とか

緊迫感に溢れた、素晴らしいドラマだった!
特に手話シーンは一切音声が無く、テロップのみで恐怖心を煽った。傑作中の傑作と言える!

Yahoo「みんなの感想」

と好意的なものが多いようですね。当方としては、無理な原作改変ドラマが多い中、原作をきちんとふまえてたドラマになっているように思います。

ドラマを見逃した人は、U-NEXTやAmazonプライム・ビデオで観ることができるようです。

前編「記憶の中の少女」

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