「S&S探偵事務所 いつか夜は明けても」=新型コロナ下で計画される世界規模のハッカー犯罪を阻止せよ

元防衛省のサイバー防衛隊の一員で、違法スレスレの調査で首になったバリキャリ娘の「しのぶ」と、両親が行方不明になってから長い引きこもり生活を送っていた凄腕のハッカー「すもも」の二人が、経営する私立探偵事務所「S&S IT探偵事務所」に持ち込まれてくるネット犯罪やコンピューター犯罪の解決に挑むハッカー系コージー・ミステリーのシリーズ「S&S探偵事務所」シリーズの第三弾が本書『福田和代「「S&S探偵事務所 いつか夜は明けても」(祥伝社文庫)』です。

前巻では、常連の喫茶店の店主「デラさん」が抱えてきた7年前の愛娘誘拐事件の謎を解き、7年ぶりの親娘再会を成功させた「しおり」と「スモモ」だったのですが、今回は、新型コロナウィルスで混乱する中、世界を揺るがす大型ハッカー事件の解決に挑みます。

あらすじと注目ポイント

第三作はまず、新型コロナウィルスの感染拡大で、1回目の緊急事態宣言が出された東京で始まります。

「S&S IT探偵事務所」への依頼も増えてきて、さらに防衛省の顧問契約も間近ということで、探偵事務所の経営に明るさが見えてきたところなのですが、外出自粛のために依頼人はくるはずもなく、さらに、防衛省の契約も契約を担当するサイバー防衛隊の明神たちが身動きがとれなくなって遅れ気味で、アップアップの経営となっています。

そこへ舞い込んできたのがその防衛省のサイバー防衛隊からの臨時依頼です。その内容というのが、世界各国の政府機関、軍隊、製薬産業や防衛産業の企業へ大規模なハッキングが仕掛けられてきて、新型ウィルスのワクチン精製情報などが盗まれているのですが、そのハッキングの一部が東京からは発信されているというものです。

さらに、そのハッキングは防衛省の中央コンピュータにも及んできたため、そのハッキング元をつきとめるため、警察やサイバー防衛隊の別働隊として、「しのぶ」「スモモ」に白羽の矢が立ったという設定です。

一方で、世界の情勢のほうは緊迫の度を増していて、東アジアのある独裁国家が、今回のコロナウィルスはアメリカの陰謀だと主張して、ワクチンを提供しないと核ミサイルを発射するという脅しをかけてきます。アメリカが断固として拒絶する中、ミサイル発射がいつ行われてもおかしくないところで、中国のミサイル基地がハッキングされ、その独裁国家の数十キロメートル上空で核爆発を起こし、EMP攻撃によって、その独裁国の通信や電子機器をすべて使用不能の状態に陥れます。

さらに、このハッキングの犯人として、「ダーマ」と名乗る組織がネット上に名乗りをあげます。「ダーマ」は世界中からあらゆるデータを集めた結果、70億を超える人類の憎しみの集積によって世界が滅亡の危機に瀕していると指摘したうえで、世界を救うため、世界におけるエネルギー消費量を、1800年当時に戻す措置をとる、と主張します。

1800年当時というと産業革命前で世界の人口は10億人ぐらい。現在の世界人口が70億人ぐらいなので、7人に1人しか生き残れないような措置をとる、と言っているわけですね。

「ダーマ」の本当の目的は何なのか、そして「1800年当時に戻す」方法は何か、EMP攻撃を受けた独裁国家が復讐のためのミサイル攻撃の準備を始めたり、世界各国の製薬企業から盗まれたワクチンの精製情報の利用方法といった謎が解けないまま、「スモモ」が「ダーマ」の誘いにのって、その組織に加わるために姿を消してしまい・・という展開です。

すこしばかりネタバレをしておくと、「ダーマ」に属している日本人組織の情報は、「スモモ」が拾った「子猫」の素性からだんだんと明らかになり、そこから手繰られていくのですが、「スモモ」が「ダーマ」の誘いにのった理由もそこで明らかになっていきます。

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レビュアーの一言

今回の事件は、新型コロナで世界中が混乱する中での大型ハッカー事件というわりには、つかまった犯人の目的が、現世的なところを意外でもあるのですが、ここはこのシリーズがサスペンスではなく「コージー・ミステリー」であることにもよるのでしょう。

そのおかげで、サスペンスにつきものの騙し合いや殺し合い、といった残虐・陰惨なところはほとんどないので、そういうシーンが苦手な方でも安心して謎解きが愉しめるかと思います。さらに前二作に比べるとデジタル風味も弱めなので、機械が苦手な方にもオススメです。

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