家族失踪事件の謎を解く鍵は「同調圧力」と「よそ者意識」?=佐野広実「誰かがこの町で」

「空気を読む事」や「同調圧力」は、日本社会の特徴としてあげられる一つなのですが、「理想の町」をつくりあげるために、その町には選ばれた住民が住み、住民みんが協力して「防犯活動」や「地域づくり」を行っているとなる、何か「うさん臭さ」を感じてしまうものです。

そんな「理想の町」でおきた過去の失踪事件の謎を解いていく都市サスペンス・ミステリーが本書『佐野広実「誰かがこの町で」(講談社)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 それはどこにあるか
第二章 それはどんな場所か
第三章 それは誰のためのものか
第四章 それは何を引きおこしたか
終章  それはどうなったか

となっていて、物語は横浜の伊勢佐木町にある初老の「岩田喜久子」という女性弁護士の事務所へ、その事務所の調査員「真崎雄一」が名古屋からの仕事を終えて帰ってきたところから始まります。

彼が返ってくるなり、雇い主の岩田が依頼してきた次の仕事は、19年前に失踪した「友人の娘」と名乗ってきた女の素性を調べてくれ、というものです。実は岩田には共に司法試験を目指していた大学時代の友人がいたのですが、磐田がアメリカで研修をしている間に、その友人の一家四人が突然失踪してしまい、アメリカから帰国後探したのですがまったく手がかりがつかめなかった、という過去があります。今回、その友人の娘と名乗る女性が現れ「自分が何者で、家族がなぜ失踪したのか調べてほしい」と依頼してきた、というものです。

まあ、相当いいかげんな話なのですが、その友人の失踪に後ろめたいところでもあるのか、岩田はその女性の素性を調べて、もし本当に友人の娘なら、一家の失踪事件の真相を探る手伝いをしてやってくれ、と真崎に頼み、ここから物語が動き始めていきます。

ちなみに、真崎は元自動車メーカーの品質保証の仕事をしていたのですが、会社のリコール隠しに協力させられ、悩みながら仕事をしていたのですが、イジメ問題に巻き込まれた娘の変調に気づかず、娘が自殺してしまい、その後、会社を辞め、この弁護士事務所の再就職した、という経歴をもっていて、これが物語の展開に陰を落としているので覚えておきましょう。

で、雇用主からの要請で、その「友人の娘」と名乗る女性「望月麻希」と会って素性を確かめるのですが、その時に、失踪した友人が住んでいた与久奈町の「鳩羽地区」の住所とかを教えてしまったせいで、麻希は勝手にその町へ単独調査に出かけてしまいます。彼女のあとを追って、真崎もその町へでかけ、岩田の友人の失踪事件の真相を調べ始めるのですが・・という筋立てです。

と、ここで麻希と真崎の調査とは別の話が挿話されていきます。それは、この与久奈町の「鳩羽地区」で岩田弁護士の友人・望月良子一家の失踪の数年前におきた木本家の6歳の男児の誘拐殺害事件で、その母親からその子供が誘拐され、町へ向かう耕作地の中で首を絞められて殺されていたことや、犯人は小児性愛者と推察されたのですが迷宮入りしたこと。その捜査の過程で近くの団地に住んでいた外国人労働者に疑いがかけられ、地域住民が集団で押しかけたこと。そして、事件の後、町の「防犯係」という自主防犯組織に夫がスカウトされ、その町の異常ともいえるほど熱心な防犯活動に組み入れられていき、母親のほうは違和感を覚え始めたことが語られていきます。

そして、麻希と真崎は、町から少し離れたところにある民宿の主「近藤」の助けを借りながら、19年前の失踪事件の聞き込みをしていくのですが、住民たちはよそ者である彼らを頭から警戒して何も話そうとはしません。それどころか、麻希がその地域の「防犯係」を名乗る数人の男に拉致されそうになる騒ぎまでおきます。

ただ、そんな難航する調査の中でも、失踪した望月家の隣に住んでいた「木本」という家の女性が少しばかり話をしてくれたこともあって、彼女からもう少し詳しく聞き出そうと考えていた矢先に、その女性が絞殺され、さらに真崎を出し抜いて単身でその家を訪れた麻希が第一発見者となり、彼女が木本夫人を殺したのではと容疑をかけられ・・という展開です。

一つの考えに染められた町の人々が暴走していく怖さとそれがバレた時に潮が引いていく怖さの両方が味わえるミステリーです。

レビュアーの一言

本巻はエラリー・クイーンの「第八の日」のように、狂信的な思想が支配する町でおきた犯罪の謎を主人公たちが解いていくという筋立てで、舞台設定の大筋的にはミステリーやホラーでよくあるパターンなのですが、その狂信性が「宗教」とか「昔からの因習」といったものではなく、人々の「同調圧力」に根差した集団心理というのがユニークで、日本らしくて怖いところだと思います。

Amazonの書評の中には、「こんな町は現実には存在しない」という意見もあるのですが、実は表に出ていなかったり、ここまで最悪ではない形で、あなたの蕎麦にもあって気づかないだけなのかもしれませんよ。

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