知識も経験もまだまだ少ないひよっこ研修医が、専門の診療科を決めるための研修で、癖のある指導医と患者に揉まれながら医師として成長していくとともに、患者の抱えている問題を解決してく、医療ミステリーが本書『知念実希人「祈りのカルテ」(角川文庫)』です。
本書の紹介文では
驚くほど個性に満ちた患者たちとその心の謎を、新米医師、良太はどう解き明かすのか。
「彼」は人の心を聴ける医師。ふと気づけば泣いていた、こころ震える連作医療ミステリ
となってます。
あらすじと注目ポイント
収録は
「彼女が瞳を閉じる理由」
「悪性の境界線」
「冷めない傷痕」
「シンデレラの吐息」
「胸に嘘を秘めて」
となっていて、エピローグのところで、本編の主人公である「諏訪野良太」が選んだ診療科がわかるのですが、それまでに彼が研修した診療科での患者のエピソードと諏訪野の謎解きが描かれます。
彼女が瞳を閉じる理由
第一話の「彼女が瞳を閉じる理由」で諏訪野良太が研修する診療科は「精神科」です。
ここで「瑠香ちゃん」と呼ばれている、定期的に睡眠剤をオーバードーズして自分で救急車を呼んで入院してくる患者の担当医となります。
彼女は高校生の頃、家庭になじめずに家出をし、その後水商売をしていて知り合った男性と結婚したのですが、彼女の束縛癖が原因で離婚。その離婚をきっかけに多量服薬が始まったという病歴です。
元夫の同情をひきたいのか、いくら説得しても自傷行為やオーバードーズをやめようとせず、入院時の態度も最悪なため、医師も看護師もまともに彼女の相手をしようとしなくなっているのですが、最初の面談で手ひどい拒絶にあった諏訪野は、彼女が入院してすぐ元夫が病院へ訪ねてきたことや、彼女はかならず月の5日以降に退院していることから、彼女と元夫との間のある秘密に気づき・・という展開です。
悪性の境界線
第二話の「悪性の境界線」の研修科は「外科」です。ここでは、胃がんの初期患者の手術説明のところから話が始まります。
年齢も80歳と高齢の患者でもあるので、内視鏡による手術の方向で進められていくのですが、ある時、その男性患者のところへ、一人の営業マン風の男性が訪ねてきてから、その患者は頑強に突然、手術を拒否し始め、手術をするなら「開腹」でないと応じない、「開腹」でなければ退院するとまで言い始めます。
患者を訪ねてきた男がおそらく高利貸しで、昔の借金の返済のため手術をしないといいだしたのでは、と推測した諏訪野が調べると、その男は患者が入っていた生命保険の営業マンであることがわかります。生命保険と開腹手術の間にどんな関係があるのか・・という謎解きです。
冷めない傷痕
第三話の「冷めない傷痕」は、自宅で天ぷらを揚げていた時に、油で足のふくらはぎに大火傷をおったシングルマザー・春香が皮膚科に緊急入院してきます。
その患者を担当した諏訪野は、その患者がロングスカートを履いているときにおきた火傷であるのに、スカートが油でほとんど汚れていなかったことや、入院後も火傷の範囲が広がっていることに不審をいだきます。ちょうど、そのころ付近では放火事件が相次いでいて、これとの関連を諏訪野は疑います。そして、患者と娘の花南の住んでいる地域と放火が起きている地域と重なることに気づくのですが、といった展開なのですが、諏訪野の推理が迷走していきます。
シンデレラの吐息
第四話の「シンデレラの吐息」では「姫野姫子」という重度の喘息持ちの女の子が緊急入院してきます。幸い諏訪野や担当の小児科医の志村の処置が早く発作はおさまるのですが、入院後、しばらくして再び喘息発作が起きてしまいます。
入院時もそうだったのですが、服薬している薬のうちの一つの薬の成分だけが血液検査でも検出できず、それが原因で発作が起きているようです。
さらに病室のゴミ箱の中に、その薬の錠剤が捨てられているのが見つかり、志村と諏訪野は両親のどちらかがミュンヒハウゼン症候群にかかっていて、そのため娘の薬をわざと捨てているのでは、と疑います。医師たちは両親への詰問をはじめ、険悪な状況になるのですが、諏訪野がその女の子の「シンデレラちゃん」というニックネームからあることに気がついて、という展開です。
薬が捨てられていた謎が解けたところで、さらに一悶着あるのですが、ここを諏訪野がどう切り抜けるかは原書のほうで。
胸に嘘を秘めて
最終話の「胸に嘘を秘めて」は、最終の研修診療科の循環器科が舞台です。ここに、かつて人気のあったアイドル出身の女優「愛原絵理」が極秘入院しているのですが、彼女は生体の心臓移植が難しい日本に見切りをつけ、アメリカでの移植待ちをしている状況です。この病院には重度の腎障害で人工透析をしている彼女の妹も入院していて、諏訪野はなんとか妹と母親を彼女に会わそうとするのですが、芸能界入りした時の親子喧嘩で絶縁状態の彼女は頑として会おうとしません。
そうしている中、彼女が極秘入院していることがマスコミにすっぱ抜かれます。どうやら、彼女の渡航費と手術費をクラウドファンディングで稼ぎ出そうという所属事務所の企みのようです。そのやり方に賛否分かれる中、渡米後の引き継ぎのため、彼女が手術を受ける予定のアメリカの病院に問い合わせると日本人の患者を受け入れる予定ばない、という回答が返ってきて、という展開です。
このアメリカでの移植手術を誰かしかけたのか、その目的は、というところが第一の謎なのですが、その後にも謎が隠されています。
もちろん、このシリーズらしくちょっと泣かせる結末が用意されていますのでお楽しみに。
レビュアーの一言
このシリーズは、2012年10月に、Kiss-My-Ft2のまた玉森裕太さんの主演でテレビドラマ化されています。
原作にどこまで忠実なのかはまだわからないところですが、小説第一作では活躍する場面のほとんどない池田エライザさん演じる「曽根田みどり」や堀未央奈さん演じる「橘麻友」あたりの研修医仲間がキーになりそうな気がします。
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