電車内痴漢の裏には、連続猟奇殺人事件が隠されていた=櫛木理宇「殺人依存症」

お嬢様学校に通う女子高生の通学中を襲う、卑劣な集団痴漢行為から救い出してくれたはずの恩人の女性は、さらに恐ろしい犯罪を企んでいて・・という陰惨で衝撃的な滑り出しで始まる、ダークミステリーが本書『櫛木理宇「殺人依存症」(幻冬舎文庫)』です。

本書の紹介文によると

息をするように罪を重ねる女と、最愛の家族を失い死んだように生きる刑事。二人が対峙した時、衝撃の真実が明らかになる。

ということで、警察ミステリーのジャンルではあるのですが、相手となる犯罪者が超ド級の悪辣さをもっているのが、作者の「死に至る病」などに登場する「悪党」と共通しているところです。

あらすじと注目ポイント

物語のほうは、都内の名門のお嬢様学校に入学したばかりの女子高生が通学途中に、たびたび集団痴漢行為にあうところから始まります。4人の男たちに満員電車の中で囲まれ、逃げ場を失くしている彼女を救ったのは、関西弁で喋る小太りの中年女性です。男たちから彼女を救い出して途中下車させ、家まで車で送り届けてあげると優しい言葉をかける中年女性だったのですが、実は・・ということで、その後、女子高生は乱暴され顔面を殴打されて指が折られ、草むらに遺棄されている状態で発見されるという陰惨なスタートです。

この事件を担当するのが、浦杉という所轄刑事で、彼は6年前に可愛がっていた息子が誘拐されて殺害され、その後、家庭内もうまくいかなくなり離婚。今は都内の安アパートで一人暮らしをしている、という境遇です。彼は息子が殺されたショックから未だ立ち直ることができず、反動のように刑事の仕事に没頭している、という設定です。

被害者の女子高生は学校内でのトラブルもなかったのですが、中学校時代にバスケットのクラブをやっていたときに、担当していた外部コーチとチームメイトに対するセクハラで諍いをおこしていたことがわかります。このコーチを尋問したのですが、彼からは被害者に対する犯意は覗えず、ハズレかと思われたのですが、偶然、浦杉が聞き込み中に、集団で女子高生に痴漢行為をしている集団を捕まえ、そこから、そのコーチも関わっていた、痴漢専用のネットサイトを発見します。

そして、この女子高生殺害事件が、そのネットサイトによって集められたメンバーによる集団痴漢と暴行、そして虐待死へとつながったことが明らかになるのですが、事件はこれだけにとまらず、その他の多くの小学生から高校生までの行方不明事件が、このネットサイトを中心に集まった男達による殺人事件へと拡大していきます。

さらに、その集団暴行事件には、「B&K」と名乗る中年の男女が集団の煽り役として関わっていて、最初は集団での痴漢行為を行っていた集団を、誘拐から暴行殺人へと誘導していったことが明らかになっていきます。

この二人の行方や余罪、動機をさぐろうと、浦杉は彼らの生い立ちも含めて捜査をしていくのですが、そこでたぐられてくるのは家庭内暴力と虐待、そして明確に犯人とはいえないものの不審な事故が多発していたことで・・という筋立てです。

一方、浦杉のほうは住んでいたアパートのシングルマザーの母親が急病となり、小学二年生になる彼女の娘・亜結をしばらく預かることとなり、ひさびさに家庭らしい暮らしが復活しています。父親から家庭内暴力を受けていた亜結との暮らしは、かなり陰惨な描写が続くこの物語の中で、少しほっこりする話なので、これで心を癒しながら読み進めてもいいかもしれませんね。ただ、あまり亜結ちゃんに感情移入すると後で手ひどい目にあうかもしれませんので、そこは用心しておいてください。

で、集団痴漢事件のほうの実行犯をほとんど逮捕し、事件は一応の決着かと思われたところで、浦杉は、この集団痴漢のグループを陰で煽っていた男女のうち、女性のほうが過去、集団売春事件など多くの事件の黒幕的存在としてマークされてきながら、今まで警察の手から逃れてきた女であったことに気付きます。

しかし、その時には、その女の魔手は浦杉の娘・架乃とアパートの隣人の娘・亜結に迫ってきていたのですが、彼女の目的は・・といった展開です。おまけに、過去の浦杉の息子の誘拐殺人事件の真相も明らかになってくるなど、最後半に向かって、滝のように一挙に謎解きが進んでいきますので、うまく波に乗ってくださいね。

あらすじと注目ポイント

悪女ものというと最近では、中山七里さんの「嗤う淑女」シリーズの「蒲生美智留」が思い浮かぶのですが、彼女がその美貌と策略で、相手を嵌めていくタイプであるに対し、今回、登場する悪女・浜真千代は、人好きのする上っ面を武器に信頼を得て、他人を犯行へ駆り立てるという心理操作的犯行を繰り返す、という悪女です。

おまけに、金とかの現世的な欲望ではなく、「過去への憎しみ」というのが犯行動機となって、息をするように無差別に犯罪を起こしていくので、「迷惑度」からいったらこちらが上かもしれません。

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