自分そっくりな殺人犯の正体は?=辻堂ゆめ「二重らせんのスイッチ」

ある日、突然、警察の捜査官が自宅に訪ねてきて、マスコミで話題になっている事件の容疑者として出頭を求められる。取り調べの中で、警察側が見せてくるのは、防犯カメラや毛髪鑑定など、身に覚えのない犯罪の証拠たち、という冤罪にまきこまれた大企業勤務のSEの悪夢のような経験と謎解きが描かれているのが本書『辻堂ゆめ「二重らせんのスイッチ」(祥伝社)』です。

本書の紹介文によると

俺は犯人なのかーー。
強盗殺人容疑で逮捕された、桐谷雅樹。
証拠は全て雅樹の犯行を示す!
最注目の著者が描く「冤罪」ミステリー

とあって、ごく普通の一般人が犯罪事件に巻き込まれていく、現代に生きる私たち誰にでもおきそうな「怖い」物語です。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
第一章 冤罪
第二章 犯人
第三章 計画
第四章 真実
エピローグ

となっていて、有名大学の大学院をでて大手のIT会社でSEをやっている本篇の主人公「桐谷雅樹」が、システム改修で受託先常駐している会社のオフィスへ昼食の生姜焼き弁当を買って帰ったところから始まります。前兆は、お弁当を買った移動販売店の女性店員が、まじまじと彼の顔を見つめてきたところかた始まっていたのですが、本番は、会社の受付に二人の刑事がやってきて、彼を呼び出し、任意同行を求めてきます。

通常のミステリであれば、堂々と人目のある一流会社の受付で任意同行を求めるのは稀なのですが、今巻の場合は、渋谷区内に豪邸を構える資産家が刃物で殺害され、さらに保されていた二千万円がなくなっているという凶悪事件な上に、凶器を購入した量販店や、資産家の家の門の前を何度もうろつくのが防犯カメラにしっかり顔が映っていて、その画像を公開したところ、雅樹に似ているという通報が相次いだせいでもあるようです。

身に覚えのない雅樹は取り調べでも犯行を否定し、DNA鑑定も辞さないのですが、現場に残された犯人のものと思われる血痕や汗と照合すると、DNAがほぼ百パーセントに近い一致を見て・・という、悪夢としか思えない展開をしていきます。

このまま逮捕・起訴されて無実の罪で刑に服することとなるのか、と思われたのですが。救いの神は意外なところからやってきます。雅樹が常連となっていたカフェで、犯行がおきた時刻にホットコーヒーを注文していたことを、彼が「生クリームトッピングのアイス抹茶ラテ」で冬でも常飲していることで、彼の風貌を記憶していた店員が証言してくれ、警察の嫌疑は揺らいでいくこととなります。
DNAや防犯カメラという物証と、アリバイ証言とがバッティングしたため、起訴にもちこめず、雅樹は一旦、保釈されることとなるのですが、これは悪夢の始まりでしかありません。
保釈されたものの、勤務先の企業からはしばらく自宅待機を命じられた彼が家に籠っていると、刑事に扮した二人の男がやってきて、自宅内に入り込み、雅樹は二人の男の監視のもとで自宅内監禁の状態に陥ってしまいます。そして、その二人組の一人は雅樹にそっくりの風貌で、彼は幼い頃に養子にだされた彼の「弟」だと主張してきて・・という筋立てです。

この後、雅樹は、二人組の企みに無理やり協力させられることとなり、彼らのいう「大いなる企て」の実行準備のため、スマホを解約・新規契約させられたり、新しい住居に引っ越しをさせられたり、恋人や両親とも音信不通の状態にさせられたり、といったことを強要されます。

幼い頃、両親に疎まれてアメリカへ特別養子に出され、辛酸をなめたと主張する、雅樹の自称「弟」は何を目的にしているのか、そして監禁が続く、雅樹の運命は・・とサスペンスフルな物語が展開していくのですが、ここから先は原書のほうでどうぞ。

レビュアーの一言

物語的には、主犯となる男を除いて、主人公の両親も、恋人も、職場の人間も、さらには突然出現する兄弟も、悪意のかたまりというわけではないので、まあ、結末でイヤな気分になることなく読めるサスペンスミステリーといえます。
ネタバレしておくと、最後のところでは、なぜかハッピーエンドっぽくなっているので、陰惨な物語が苦手な人も安心して読んでくださいね。

二重らせんのスイッチ
二重らせんのスイッチ

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