樹林伸「ドクター・ホワイト 心の臨床」=汚れなき診断を下す美少女、医学生として再臨

公園で白衣一枚で彷徨っていたところを雑誌記者・狩岡将樹に助けられて、高岡総合病院に担ぎ込まれた記憶のない美少女「白夜」が、医師たちが独断によって下す誤診を暴く驚異的な「診断力」を発揮する医療ミステリー・シリーズの第3弾が本書『樹林伸「ドクター・ホワイト 心の臨床」(角川文庫)』です。

前巻までで、高森総合病院のDCT(「診断協議チーム」)の医師免許のないメンバーとして院内の誤診を見つけ、病院の経営改善に大貢献したほか、彼女の出生の秘密を見つけ出したのですが、それから6年後、医大に入学し医師のタマゴとなった「白夜」が高森総合病院へ帰ってきます。

あらすじと注目ポイント

プリンを食べる「朝絵」に注目

構成は

プロローグ
第一章 ドクター・ホワイトの帰還
第二章 命の値段
第三章 権威という名の病
エピローグ

となっていて、まずは前巻で明らかになった「白夜」のクローン主である海江田朝絵の病室から始まります。彼女がかかっているALSは改善していなくて、このまま病状が悪化していくのであれば自ら命を断つことも考え始めているようです。この彼女の見舞いに定期的にやってきている「白夜」は彼女に自分のお気に入りの「プリン」を食べさせるのですが、ここでの「観察結果」が意外なことにつながりますので覚えておきましょう。

「白夜」は医大生として再臨し、誤診を指摘

物語のほうは、高森総合病院に、アルコール漬けの毎日を送っているバーテンダーが深夜に緊急入院してくるところから始まります。病院の若手医師・岩崎はお決まりのとおり「アルコール中毒」と診断して、アセトアミノフェンを処方するのですが、これに対する「白夜」の指摘は「それ、誤診です」。彼女の診断は「薬剤性肝障害」で、岩崎医師は病状を悪化させる処方をしてしまったことが明らかになるのですが、その原因は検査結果で病気を判断して「診察」をおざなりにしたことで、まだ医師免許ももっていない「白夜」に「医道」の基礎を教えられることになりますね。

で、白夜の指摘する一番の問題点は、この患者・野上が処方外のアセトアミノフェン剤を大量に飲んでいたということと、なぜ高森総合病院に緊急搬送されてきたか、というところです。経験は浅いがプライドは高い若手医師が一人で当直をしている時に搬送されてきたことがきになったようです。

そして、研修生である「白夜」がこの誤診騒動の発信源で、免許がないにもかかわらずDCTに活動に加わっていることが面白くない、新任の里中院長は白夜をDCTの活動から遠ざけようとするのですが、これは見事に病院の創始者の孫娘で「白夜」の才能を高く評価する高森麻里亜副院長に粉砕されています。

実は、この里中院長は、現在、病院の副院長を務めている若手で腕利きの水樹副院長のこ眠ションで招いたALSに権威で、白夜が通学している「港医科大学病院」の副院長までのし上がった人物です。もっとも、大学病院でも高森病院でも、薬剤の処方方針まで新しいルールをつくったことで医師の評判は良くなくて、かなりの権威主義者のイヤな奴であることがいろんなところで明らかになります。

バーテンダー入院に隠された殺意あり

実は、野上の薬剤性肝障害事件にはここで伏線が張られて、野上がバーテンダーをしているBARの女性経営者が、誰かから薬をもらって、野上に肝臓の薬だと大量にのむことを進めています。これが事件に関係のあるのはミエミエなのですが、さらに、里中院長が大学病院に在職中、アルコール依存症でうつ病を併発している女性患者が薬剤の大量服用による便秘が原因の腸管破裂で死亡している事故があったことがわかります。これも里中が薬剤の処方方針を変更してからおきた事故なのですが・・という筋立てです。

さらにこの里中院長は、白夜のクローン主・海江田朝絵をALSだと診断した医師であることもわかってくるのですが、朝絵を見舞っている「白夜」が、朝絵がプリンを食べ続けることができることと舌の様子から「ALSの診断は誤診」と言い出すのですが・・と物語が動いていきます。

バーテンダー殺害未遂犯と「白夜」が対決

ここで、入院していたバーテンダー・野上はこの後、BARの女性店主・安岡美保が薬剤入りのおにぎりを野上に食べさせたことから病状が急変し、硬膜下出血を起こし緊急手術が必要となります。しかし、脳外科の仙道に連絡がつかず、院内のある人物が変わって執刀をすることになります。安岡美保がおにぎりを食べさせる前に、野上が差し入れのドライ・マンゴーを大量に食べていることをみつけた「白夜」は犯人の企みに気づき、手術に介入を始めていくのですがそのやり方は・・という展開です。

ここで手術室を舞台に、白夜と犯人とのサスペンスフルなやりとりが続いていきますので原書のほうでお楽しみください。

もう少しネタバレすると、海江田朝絵にも新しい運命が訪れていきますね。

Bitly

レビュアーの一言

本シリーズの主人公「白夜」は1巻目、2巻目ではかなり常識はずれの反応をみせながら、「誤診」を指摘して、医師の傲慢なプライドを打ち砕いてきたのですが、今巻では医大での研修も進み、さらに実社会でのリハビリも進んできているので、その「人格」も人間らしくなってきています。

例えば、野上の自分の大好きなプリンのお裾分けを拒否されて、涙ぐんでしまうなんてシーンも出てきます。もし、TVドラマでそんなシーンがでてくれば浜辺美波ファンはキュンキュンしてしまうこと間違いなしかもしれません。

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