クールな看守探偵「火石司」の顔の傷の由来が明らかになる=城山真一「看守の信念」

閉鎖的で監視の目がいたるところにありながら、シャバ以上に濃密な人間模様が展開される刑務所を舞台に、そこの看守を探偵役にして繰り広げられるプリズン・ミステリの傑作「看守」シリーズの第2弾が本書『城山真一「看守の信念」(宝島社)』です。

前作では、LGBTでありながら、性転換手術を受けていないため男性刑務所に収監された元の歌手の受刑者のために、上級職試験合格のキャリアながら地方にある加賀刑務所に配属になっている「火石司」の推理が描かれたのですが、今回も第1弾に引き続き、刑務所内でおきる謎をといていく「火石」の活躍が描かれます。

あらすじと注目ポイント

収録は

第一話 しゃくぜん
第二話 甘シャリ
第三話 赤犬
第四話 がて
第五話 チンコロ

となっていて、冒頭のところでは火石司が何者かに腹部を刺され、顔を切られて大手術を受けている場面から始まります。これによって、火石の顔の傷が、事故とかではなく、傷害事件がらみであることが明らかになります。

物語の第一話「しゃくぜん」の意味は「釈放前教育」のこと、加賀刑務所の亀尾看守部長は、日本人とフランス人のハーフで、目や顔のことをからかわれると逆上して相手に乱暴して服役している受刑者・亀尾の釈放然教育で、海岸で行われる清掃作業へと連れていきます。
そこでは保護司の長門が担当している若者二人と一緒になるのですが、二人が亀御の風貌をからかったため、一触即発の状況となります。ところがちょうどそこへ、北朝鮮のイカ釣り船の遭難船が流れ着き、そこから死体が見つかります。その遭難船の対応をしているうちに、坂本の姿が見えなくなり、脱走か、とあたりを捜索していると、遭難船の乗組員を担いだ坂本が現れて・・という展開です。
脱走しようとした疑いがかかれば、坂本の仮出所は取り消されてしまうので、担当した亀尾は、自分の失態を隠し、坂本に仮出所させるため、そのことを黙っていようと思うのですが、坂本の釈放然教育の報告会の時、亀尾がとった行動は、という筋立てです。

第二話の「甘シャリ」とは、刑務所でたまに提供される「特食」といわれるジュースや菓子のこと。今話では、刑務所内でおきた食中毒の首謀者が、小里と言われる受刑者で、彼が自分の生んだ怪我の黄色ブドウ球菌を食事の調理の際に入れたのでは、という疑惑がまず生じます。しかし、食中毒の原因が黄色ブドウ球菌ではないことがわかり、小里の疑惑はいったん晴れるのですが、食中毒の原因がボツリヌス菌であることを聞いた「火石指導官」はあることに気づき・・という展開です。受刑者・小里が甘シャリで何をしようとしたのか、というのが謎解きの鍵となります。
少しネタバレしておくと、小里の担当看守である武吉への悪口雑言のネット掲示板の書き込みが続いていることも、小里への疑惑をミスリードさせる原因となっています。

第三話の「赤犬」の舞台は、刑務所内で受刑者の就職あっせんを担当している「就労支援室」です、ここには二村と稲代という二人の非常勤スタッフが勤務しているのですが、予算の都合で来年からは一人に減らされる予定であることを総務課の課長補佐・後藤田から知らされます。
そんな時、刑務所内の作業用の薬品を保管している備品保管庫から火が出て、全焼してしまうのですが、その原因としてあげられたのが、西日が何かに集約されて高熱が生じたことによる「収れん発火」。火事がおきる前日、就労支援室のスタッフの一人・二村が保管庫で薬品の瓶をテーブルの上に出しっぱなしにしてたとのことですが、これが原因なのか・・という展開です。

晴れた日は火事の起きた前後にも続いていたことから、火石指導官が、「収れん発火」を使った、ある証拠隠滅に気づき・・という筋立てです。公務員の世界では「鬼より怖い」といわれる会計検査院の検査がもうすぐ入る、というのは謎解きのヒントです。

第一話から第三話までの本編と並行して、上級職でありながら何年もこの加賀刑務所に配属になっている「火石」のことを疎ましく思った刑務所長が、ある疑惑をもとに彼を排除しようと計画し、所長から命をうけた総務課長の芦立がその身辺を調べ始めるという伏線が動き始めます。
その疑惑というのが、火石が金沢の町で定期的にヤクの売人と接触していうもので・・という設定なのですが、第四話でその真相が明らかになるのと、総務課長の芦立の家庭事情もついでに明らかになってきます。

このほか、急病でしばらく休養することになった加賀刑務所が依頼している教誨師の僧侶にかわって、刑務所内だけのラジオ放送と教誨業務をすることになった看守・諸田が、自分に反抗的な古株の受刑者・安東から、彼に定期的に届く手紙の差出人の女性に代わりに会ってくれ、と依頼をうけるのですが、その住所にその女性はいない、という謎をとく「がて」や、加賀刑務所の受刑者を何人も定期的に雇用してくれている「協力企業」で、刑務所経験者へのイジメが横行して、死者もでているという投書が届き、火石と芦立が調査を始めるのですが、その差出人の意外な正体は、という「チンコロ」が収録されています。

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レビュアーの一言

第一作では、最後の最後で、物語に手記が載っていた「三上順太郎」と顔に傷痕のあるクールな「火石司」という二人の意外な正体が明かされるという大どんでん返しが会ったのですが、今巻では、火石の顔の傷の由来がわかるのか、と読者の期待を煽りながら最後のところで、前作に匹敵する大ドンデン返しが仕込んであります。

このシリーズは、一つ一つの話が単話としての謎解きになっているので、それぞれに楽しめるのですが、前作「看守の流儀」から先に読んでおくことを強くおススメいたします。

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