顔に傷をもつクールな看守が、刑務所内で起きる事件の謎を解く=城山真一「看守の流儀」

この世で一・二を争う、閉鎖的で常に監視の目にさらされている環境でありながら、シャバ以上に濃密な人間関係が渦巻くところ、刑務所。その刑務所の中で、受刑者の更生と監視を担う主体となるのが「看守」という公務員なのですが、国家公務員試験上級試験を合格しているエリート看守・火石司が、地方の加賀刑務所に配属になっている秘密と刑務所内でおきる事件の推理が語られる「プリズン・ミステリ」が本書『城山真一「看守の流儀」(宝島社文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

第一話 ヨンピン
第二話 Gとれ
第三話 レッドゾーン
第四話 ガラ受け
第五話 お礼参り

となっていて、本書はそれぞれの話の冒頭に、「三上順太郎」という歌手をしていた元受刑者の手記が掲載されています。これが、各物語のリード文的な役割を果たすのですが、最後の大ドンデンの鍵ともなっているので読み飛ばさないようにしておきましょう。

第一話の「ヨンピン」は刑務所用語で、刑期の1/4を残して仮出所すること。今回は、その仮出所した受刑者が更生施設から行方をくらましてしまった事件と、認知症の傾向のある受刑者が誤飲して重症になってしまった事故とが並行して進みます。

失踪事件の鍵となるのは、その受刑者・源田に定期的に届いていた差出人不明の手紙です。今回、その手紙に電話番号しか書かれたいなかったことから、出所者を犯罪の道に再び誘う手紙と考え、看守の一人が渡さないまま仮出所したのが、今回の失踪を誘発します。

その手紙の差出人は一人の女性だったのですが、彼女が電話番号しか書かなかったのは、刑務所内にいる人物に手紙を出していることを知られたくなかったからなのですが、その人物は・・という謎解きです。この謎とセットで、薬誤飲事故の謎もあわせて、警備指導官「火石司」が解き明かしていきます。

第二話の「Gとれ」は受刑者に暴力団から抜けるためのトレーニングをすることなのですが、この「Gとれ」の対象者と候補者が従事している刑務所内の「試験問題印刷」で漏洩疑惑がおきます。警察はこの「Gとれ」候補の受刑者「与崎」を署内に留置して聴取を始めます。模範受刑者だった彼に「Gとれ」を受けることを決断させるため、担当看守の及川は、規則違反ではあるのですが、彼に短時間、自分の携帯を貸して家族に電話させたことがあります。ひょっとすると、家族ではなく、問題漏洩の関係者に電話していたのかも、と及川は疑惑を抱えることになり、という展開です。

及川は漏洩事件とは別の案件で聴取を受けていたことがわかるのですが、刑務所内のパトロールをしていた火石と及川は、刑務所内に投げ込まれている携帯電話を発見します。この電話は試験問題漏洩と関係があるのか、果たして真犯人は・・という筋立てです。

これと並行して「Gとれ」のトレーニングを受けている受刑者・勝田が、周囲の受刑者に嫉妬されていじめを受けているという噂が流れ、「Gとれ」がうまくいけば仮出所できる勝田が取れニング辞退を言い始まるのが、謎解きのヒントになります。

第三話の「レッドゾーン」では、受刑者の健康診断のデータやX線写真が紛失します。紛失状態が続けば、数日後に予定されている、受刑者向けにGPS発信機を新規導入するという記者発表で、紛失事故についても喋らなければいけなくまり、そうなれば新規施策を広報する記者会見は一転して謝罪と糾弾の場と変じてしまいます。

実は、今回のGPS導入は刑務所内の総務部の提案で、医療介護が必要な受刑者への介護ヘルパー導入を訴える処遇部の提案を蹴っ飛ばしての新規施策です。

ひょっとすると、総務部のプレス発表を台無しにするための処遇部の仕業かも、と総務部の小田倉総務課長は疑惑を抱き・・という展開です。

このほか、末期のすい臓がんで死期が近いため、家族のもとで人生の最期をおくらせる「ガラ受け」を実現しようと奮闘するのですが、家族だけでなく、受刑者からも拒絶されたことに秘められた真実(「ガラ受け」)や出所した受刑者が、ある人物へ復讐をしようとするのですが、それを察知してそれを阻止しようとする警察と刑務所の動きが描かれ、連続放火魔の復讐劇と思わせながら意外なドンデン返しが隠されている上に、さらにその先にドンデン返しが用意されている「お礼参り」などが収録されています。

そして、この話の最後で各話で手記が紹介されている元受刑者・三上と、上級職ながら地方の刑務所に配属になった火石の驚きの秘密が明らかになっていきます。

レビュアーの一言

「プリズン・ミステリ」とはいっても、刑務所内で新たな殺人事件がおきたり、受刑者によるおおがかりな犯罪が行われるわけではなく、どちらかというと刑務所内での「日常の謎」的ミステリといっていいでしょう。

ただ、その謎解きがおきる環境が、普通のところではないので妙な緊迫感が感じられるのと、重大犯罪のような印象を持たされてしまうのが作者の手練れなところですね。

少しネタバレしておくと、実はこの最後のドンデン返しが、第2弾である「看守の信念」の仕掛けにもなっていますね。

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