北条家の御曹司・時行は、足利直義を破り、鎌倉を取り戻す=松井優征「逃げ上手の若君」9~11

150年続いた鎌倉幕府を滅ぼし、北条一族を敗死させた後醍醐帝と足利尊氏に対して、信濃の神官・諏訪頼重の一族の力を借りて逆襲を図る、北条得宗家の後継ぎで「逃げ」の名手である、後の中先代の乱の主謀者「北条時行」の逃走と活躍を描く『松井優征「逃げ上手の若君」(JUMP COMOCS)』の第9弾から第11弾。

前巻までで、西園寺公宗と時行のおじ・北条奏家の後醍醐帝暗殺未遂事件で、建武政権を動揺・混乱させた隙をついて、北条政権再興の叛旗を翻した北条時行たちだったのですが、諏訪勢をはじめとする親北条勢力を集め、足利尊氏・直義へ戦をしかけていくのが今回です。直接の狙いは、足利直義の治める「鎌倉」で、かつての鎌倉幕府の故地の回復をめぐって鎌倉の庇番衆との戦が始まります。

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あらすじと注目ポイント

第9巻 北条時行は信濃を脱出し、鎌倉目指して進軍する

第9巻の構成は

第71話 貞宗1335
第72話 出信濃1335
第73話 庇番1335
第74話 渋川1335
第75話 女影原1335
第76話 一騎打ち1335
第77話 正義1335
第78話 武器1335
第79話 雑1335

となっていて、冒頭は反乱を起こした時行たちを追って、信濃の国内で捕縛しようと小笠原貞宗が追撃してくるところから始まります。

自らの領国内に北条得宗家の御曹司が潜伏していた、と言うのは、足利尊氏派の小笠原にとってはこの上ない失態で、彼はなんとか領国内で時業たちを捕縛しようとするのですが、まんまと信濃を脱出され、鎌倉への進軍を許してしまいます。

この後、京を攻めるとみせかけて鎌倉奪取を目指した時行たちなのですが、これは足利直義によって即座に見破られ、ここから彼が鎌倉を守護する武士団として組織した「庇番衆」とのバトルが始まっていきます。

中盤で、時行たち北条軍の前に立ちはだかるのは渋川義孝、岩松恒家と石塔範家です。このシリーズでは、渋川は「武士道」の美学にとことん忠実に生きようとする武将、岩松は女好きの武将、石塔は二次元アイドルにしか興味にないオタク武将という、三人とも相当の変人として描かれているのですが、その強さは本物で、時行たちは相当苦戦することになります。

第10巻 時行軍は庇番衆の渋川・岩松・石塔を撃退する

第10巻の構成は

第80話 理想1335
第81話 武士道1335
第82話 弧次郎1335
第83話 認識1335
第84話 小手指ヶ原1335
第85話 会戦1335
第86話 爆走1335
第87話 策1335
第88話 ダービー1335

となっていて、前半では前巻に引き続き、足利直義の命をうけて、北条軍を潰しにきていた庇番衆の渋川、岩松、石塔との戦いが描かれます。

個人個人の力からいえば庇番衆のほうが上なのですが、ここは時行の策略もあって、三人の庇番衆をここで打ち破ることに成功します。さらに、背後で指揮をとっていた斯波孫次郎も敗走させ、反乱の序盤戦である「女影原の戦」では時行軍の大勝利に終わります。

この敗戦の報を聞いた直義は、側近の庇番衆の敗死に顔色も変えず、上杉憲顕と今川範満の軍の出動を決めます。ここらの冷酷さが、後に直義が尊氏と天下を争いながらも敗れた原因なのかな、と思います。

そして、今巻登場する、上杉憲顕は、薬物を使って「戦士」を創り上げようとするマッドサイエンティスト、今川範満は馬が大好きで、どんな駄馬も能力限界まで引き出して戦う狂戦士として描かれています。

この二人とのバトルの詳細は原書のほうで。

第11巻 北条時行は足利直義を破り、鎌倉を取り戻す

第11巻の構成は

第89話 瑪瑙1335
第90話 信頼1335
第91話 直義1335
第92話 おこられた1335
第93話 ディベート1335
第94話 会話1335
第95話 楽しさ1335
第96話 頼み1335
第97話 鎌倉1335

となっていて、前巻から始まった、今川・上杉とのバトルの決着がつくのがこの巻きです。結論からいえば、今川範満は討死、上杉憲顕は彼がつくあげた「長尾景忠」が敗北し、撤退となり、ここまでに登場した庇番衆の有力武将が全て敗北することとなります。

ここで鎌倉防衛の最後の砦となったのが鎌倉府の総司令官・足利直義で、彼は難攻不落といわれる鎌倉をでて、武蔵国の「井出沢」で時行軍を迎え撃つ戦術をとります。本書によれば、鎌倉が難攻不落と言うのは幻想で、足利軍に攻め込まれた北条軍はわずか4日で敗北していますし、戦国時代になっても鎌倉に籠って戦った大名はいない、と指摘しています。一説には、鎌倉は陸からの防衛には強いものの、海からの攻撃には非常に脆かったという話もありますね。

そして、時行軍に対峙した直義は単騎で渡河し、時行の前へ進み出て彼に議論をふっかけて、時行の心を折るとともに、北条軍の最後尾に伏兵が回り込んで挟み撃ちにする作戦なのですが、時行は、直義たち足利一族が心の奥底に隠している「天下取りの野望」をつくことで直義の論を打ち破ります。

さらに、挟み撃ちをすかけてきた足利軍に対しては、足利軍のウィークポイントであり、足利軍内最強の軍勢である三浦勢を率いる三浦時明に、時行の叔父・北条奏家がある提案をしかけます。

それは鎌倉幕府創設以来「裏切り者」の汚名を被ってきた「三浦一族」の悲哀を晴らす方策で・・という展開です。

少しネタバレしておくと、北条時行は、この戦いで先祖伝来の地「鎌倉」を取り戻すのですが、詳細は原署のほうで。

レビュアーの一言

庇番衆は、鎌倉将軍府を統括する足利直義の意向を反映し、鎌倉の防衛と関東の治安維持を行うため6番39人の武将が任命されたと言われています。番のリーダーとなる頭人はすべて足利一門から出されていて、足利色の強いものであったようですね。

ただ、北条時行の引き起こした鎌倉幕府復興の戦い(中先代の乱)で、半数の頭人が戦死した上に、庇番から北条勢に加わる武将も出てきて、建武政権崩壊とともに消失してしまったようです。

この後、関東支配は、室町幕府によって「鎌倉府」が置かれ。鎌倉公方ー関東管領という体制で、東国の統治が図られることになるのですが、室町幕府の地方機関として位置づけようとする京都側と京都の朝廷とは分離して、政権として独立しようとする鎌倉側とで対立が続き、これが、戦国時代の到来と関東の混乱に影を落としていると思います。

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コメント

  1. 名無し より:

    8巻の感想が抜けてますね

    • 辺境駐在員 より:

      サイト訪問ありがとうございます。
      投稿もれしておりましたので、本日(2023.10.15)8巻のレビューを公開しました。
      よろしければご一読ください。

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