海上を走る日本初の「鉄道」を敷設せよ=梶よう子「我、鉄路を拓かん」

徳川幕府を倒して、新政権をつくった明治新政府は、列強諸国に囲まれた「大人の中の子供」のような状況を打破するために、数々の近代化政策を打ち出していくのですが、なかでも国土防衛や、産業振興に大きく寄与した「インフラ」といえば、港湾とあわせて、日本中に張り巡らされていく「鉄道」といえるでしょう。

その重要インフラである「鉄道」を日本で初めて、しかも住民や漁師、軍隊の反対をかわすため、「海上」を通すという離れ技の鉄道敷設を成功させた人々の物語が本書『梶よう子「我、鉄路を拓かん」(PHP研究所)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は


第一章 神奈川台場
第二章 新たな時代へ
第三章 海上の堤
第四章 お雇い外国人
第五章 不和
第六章 繋がる夢

となっていて、物語は日本に鉄道を敷設する工事が始まるほぼ十年前、万延元年、幕府の軍艦操練所教授方頭取を務める勝海舟の屋敷に、品川で土木請負を営む「平野屋弥市」が訪れるところから始まります。

彼は出入りいている松山藩から、神奈川の台場建設を請け負ったのですが、神奈川台場の設計を行った勝と、松山藩の役人と一緒に、工事の詳細と工事費n詰めにやってきたというところです。この台場建設に関わったことが、弥市を日本初めての鉄道敷設工事に関わらせることとなっていくのですが、この頃は、まだ幕府が潰れるなんてことは思いもかけなかった頃ですね。物語のほうも、薩摩藩士がイギリス人に斬りつけた「生麦事件」をきっかけにどんどん施錠が物騒になっていってますね。

そして、物語が本格的に動き出すのは、幕府が倒れ、明治新政府ができて二年後の明治二年。英国公使パークス、大隈重信、伊藤博文などが集まり、東京と京都を結ぶ鉄道の敷設を決定します。

この当時、「鉄道より軍艦を優先すべし」という海防のための軍備増強のほうを優先する声も強かったようですが、大隈・伊藤たちが日本の殖産興業のためには「鉄道だ」と押し切ったようですね。

そして、明治三年、イギリス人鐵道技師「エドモンド・モレル」たちによって鉄道敷設の工事が始まり、弥市も品川八ツ山下の切り崩しや、仮橋の架橋などに携わっていたのですが、鉄道普請の元締めの請負人である山中政次郎から直々に、芝口から品川までの鉄津敷設に関わって欲しいと依頼を請けます。

しっかりした土木請負屋としては間違いないものの、ほかに大きな業者もいる中で、平野屋弥市に声がかかったのは、芝口~品川間の線路が、海上に構築した「堤」の上に鉄路を敷くという前代未聞の工法であったため、神奈川台場の建設など、海上・海中工事に実績のある平野屋にお鉢がまわってきたというわけですね。

しかし、築堤によって船が出せなくなるという漁師や、蒸気機関車に煤煙で商売や健康に害がでると渋る地域住民、軍の用地周辺は機密保持のため、測量さえ許可しないと強硬な兵部省など、立ちはだかる壁は高く、前途多難なのですが・・といった展開です。

こうした難事や工事関係者の仲間割れ、工事を統括するお抱え外国人との葛藤をどう解決して、日本初の鉄道建設を成功したか、平野屋をはじめ関係者の奮闘記をお楽しみください。

レビュアーの一言

今巻の最初と最後のところは、北海道の鉄道工事に従事していた主人公・弥市こと弥十郎が、はじめて横浜~品川間の蒸気機関車に乗り、同じ車両に乗り合わせた、男児と一緒に車窓の風景を感動してみるシーンになっているのですが、ここは鉄道敷設と日本の未来を重ね合わせた当時の国民の思いを表現したものともいえますね。

ただ、明治の最初の頃は順調かと思えた鉄道建設なのですが、西南戦争による財政難で東海道線を除いてほとんどストップし、明治14年には半官半民の「日本鉄道」が創設され、以後、私鉄全盛の時代へと突入していきます。

この時に完成していたのは、横浜~品川間、北海道の幌内鉄道、釜石鉄道、大津~神戸間ぐらいだったようですから、本編の主人公の「弥市」は日本の鉄道建設のかなりの部分に関わった「立役者」といえるでしょうね。

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