熊撃ち猟師は、鳥居耀蔵の指示で幕閣の若手エリートを狙撃する=井原忠政「殿様行列 人撃ち稼業(ニ)」

秩父の山中で熊を撃って暮らしていた、腕利き猟師の玄蔵が、恋女房の希和が隠れキリシタンであることから、江戸幕府で、綱紀粛正の大改革を行って政治の実権を握ろうとする水野老中の懐刀・鳥居耀蔵に目をつけられ、反対派の暗殺にから出される幕末スナイパー時代小説「人撃ち稼業」シリーズの第二弾が本書『井原忠政「殿様行列 人撃ち稼業ニ」(ハルキ文庫)』です。

前巻で、秩父の山中から無理やり連れ出され、恋女房の希和と子供たちを人質に、鈴ケ森の処刑場の磔柱の上で苦しむ少年にトドメをさすスナイパー役を押し付けられた玄蔵だったのですが、今回はスナイパー仕事の本番となる、水野老中の施策に反対する「悪人」たちの狙撃にかり出されます。

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あらすじと注目ポイント

構成は

序章 罪と罰
第一章 薄化粧
第二章 仕舞屋と煮売酒屋
第三章 狙撃第四章 心の陰り、体の異変

となっていて、物語は前巻からの続きで、玄蔵の腕前を見るための試験でもあった、鈴ケ森の処刑場での遠距離狙撃のあと、ひさびさに、一緒に過ごす玄蔵と女房のお希和と子供たちの姿から始まります。

これはお目付け役のくノ一「 」の好意によるものだなのですが、この辺は、力押ししか能のない鳥居耀蔵の配下の御公儀徒目付「多羅尾官兵衛」に比べ、策士の才能は上のようです。

で、玄蔵が今回狙撃を引き受けた標的は、四十歳少し変えの直参旗本で、この物語の部隊となる天保年間では泰平になれ惰弱になったせいで、江戸城登城の際も「駕籠」を使う武家が多い中、あえて毎朝、騎馬で登城をしているという武家の鑑ともいうべき人物です。

(ちなみにターゲットとなるのは「久世広正」という堺奉行、大阪町奉行、長崎奉行を歴任し、現在は田安家の家老を務めている幕閣内の出世街道を突っ走る旗本です。彼が現在仕えている「田安家」の隠居・徳川斉匡が水野老中の反対勢力の有力者、ということで、久世が鳥居に狙われたようですね)

「こういう立派な武家を狙撃していいものかなー」と悩む玄蔵なのですが、多羅尾官兵衛の「こ奴は悪党だ」の言葉に、反論の余地はなく、さらに、狙撃で死亡したという痕跡を見せるのはまずい、という鳥居耀蔵の考えから、玄蔵はターゲットの耳の穴へ銃弾をたたきこむという難題に取り組むこととなり・・という展開です。

鈴ケ森の狙撃で使った一町半を打ち通せる特殊な火縄銃「狭間筒」はその大きさと、発射音のデカさで市中で使うわけにはいかず、今回使うのは阿蘭陀から輸入され、国内で改良を重ねて空気銃「風砲」です。

当初、「耳の穴を通す」というプランは流石に現実離れしていると実行は却下されるのですが、誰にも狙撃だと気づかれず病死とみせかけるため、口内への狙撃を行うため、玄蔵は美人くノ一「千代」と狙撃場所の仕舞屋に住み込んで、狙撃のシミュレーションをすることになるのですが・・といった展開です。

玄蔵の狙撃の成否については、原書のほうで確認してくださいね。

ちなみに、物語の最後で、玄蔵は彼の身元を探り始めた奉行所の同心を始末しようとして、どうやら「イップス」を発症してしまったようなのですが、それが巻き起こす騒動は次巻以降のお楽しみということのようです。

レビュアーの一言

玄蔵が行うスナイパー仕事の黒幕中の黒幕が「水野忠邦」で、彼の行った「天保の改革」はど外れた倹約令と貨幣改鋳、奢侈の禁止といった内容で、残念ながら民衆や大名・旗本の支持を得ることができず、2年間で失敗してしまいます。

歴史的には先代の将軍・家斉の放漫経営を修正し、幕府の財政を建て直すという立派な目的のもとに決行されたものなのですが、「ルールの押しつけは成功を産まない」という展開的な例になってしまった「改革」ですね。

この改革によって、水野忠邦に粛正されたのは旗本が68人、御家人が894人と大量に処分されたのですが、いずれも大御所(家斉)時代に賄賂で私服を肥やしたり、専横が過ぎた人物が多かったようです。

さらに代わりに、「妖怪」と呼ばれた鳥居耀蔵は脇に置くとして、「遠山の金さん」こと北町奉行「遠山景元」、西洋流砲術の導入者「江川英龍」・「高島秋帆」といった人物が新たに登用されていて、「倹約」「綱紀粛正」ばかりの不毛な改革ばかりではなかったようです。

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