鄭和はセイロン王国で再びアラビア・モルディブ連合軍と戦うー星野之宣「海帝8」

コロンブス・マゼランといったヨーロッパの大航海時代の百年以上前、アジアの大国・明の三代皇帝・永楽帝から第五代・宣徳帝の時代にかけて、7回にわたって派遣された明の大艦隊の指揮をとって、アフリカまで到達した、異色の宦官「鄭和」の大航海を描いた「海帝」シリーズの第8弾。

前巻までアラビア商人と連合するのモルディブの女王国を撃破し、カリカット王国とヴィジャヤナガル王国との紛争に入り込んでカリカットを救援するなど、「中華帝国」お得意の外交を繰り広げた帰国した鄭和なのですが、今巻では再び東南アジアに外征。今度は以前、訪問したジャワ国の内乱に巻き込まれるほか、セイロン王国で再びモルディブ女王とと戦いが始まります。

「海帝8」の構成と注目ポイント

構成は

第56話 第三次航海へ
第57話 西王宮
第58話 巨きな人
第59話 結束
第60話 クビライの落日(ヒルヴェシーム)
第61話 はさみ撃ち
第62話 最大の戦い
第63話 伝承

となっていて、まずは、第三次航海でジャワ・マラッカへの航海が始まります。

第二次航海までは、建文帝をセイロンに亡命させた秘密を狙う、同じ宦官でありながら鄭和の失脚と司令監の地位の奪取を企む”東廠”の長官・蔡全人の部下の暗躍など、母国のスパイを警戒しながらの航海であったのですが、海賊・陳祖義を降伏させ、多くのアジア諸国からの朝貢団を明国へつれてきてからの鄭和の地位はかなり安定してきていたのですが、今回の第三次航海は、今までの成果があちこちほころび始めるのを繕い始める遠征となります。

まず最初に向かうのは「ジャワ」です。この国には最初の航海で王と面会し、朝貢をうけいれる関係になったいたのですが、本巻によると、この国の王都には東王宮と西王宮があり、正統な王は西王宮に住むウィクラマワルダナという人物なのですが、鄭和が第1次航海であったのは、東王宮に住み”東の王”を名乗る王族だったとのこと。

正直なところ、「知らんがな」という感が強いのですが、仁義と礼儀にこだわる鄭和は、正統な西の王との講和を結ぶため、再びジャワ王都に上陸するのですが、ここで、東の王と西の王の覇権争いに巻き込まれることとなります。
こういう内乱に巻き込まれるのは、鄭和の航海では日常茶飯事なのですが、今回は、人類のミッシングリンクといえるジャワの旧人類たちに出会ったことですね。

ジャワの後、鄭和たちは一挙にセイロンへと向かいます。当時、この地はシナモンをはじめとしたスパイスの集約地として巨大な富を得ていたのですが、そこに鄭和たち明国の力を背景に、中国商人が入り込み、スパイス貿易に入り込んできてきます。
セイロン王・アクガラコクナーラ王は、中国商人を排除するために、この王室に古くから伝わるルビーの巨石「クビライの落日」を明王室へ献じると、嘘をいって鄭和艦隊をおびき寄せ、これを壊滅し、中国勢力を官民ともに追い出そうと画策をしたわけですね。

まあ、鄭和のほうも騙されたふりをして王宮へ向かい、国王勢力を崩して、ルビー巨石を中国へ持ち帰り、永楽帝の心を慰めようというのですから、どっとが悪いというものでもないのかもしれません。

巻の後半では、鄭和率いる宝船艦隊の鉄拐率いる火龍部隊と、アラビア艦隊の要する巨砲・マホメッタとの対決が海上で繰り広げられるとともに、

地上では日本の倭寇あがりの黒市党と、モルディブの女王の残党たちとの激しい戦闘が始まるのですが、この迫力あるバトルシーンはぜひ原書のほうでどうぞ。

鄭和の遠征も二面性あることを注意しておこう

最初の第1次遠征の時は、靖康の変で地位を喪った建文帝とその娘を、永楽帝の目をごまかしながら安全な地に送り届ける、という隠れた目的があったので、少し薄まっていたのですが、第二次遠征以降は、どうしても「明国」=中国の力を周辺諸国へ及ぼす、という匂いが濃くなってきます。
このあたりに気が付き出すと、物語の中では、相当悪辣に描かれているアラビア商人や、鄭和に反抗する敵対勢力も、実はそんなにではなかったのかも、とすら思えてきます。鏡の裏表というやつでしょうか、威勢のいい進軍話にはいつの世でも、少し冷静になったほうがいいのかもしれません。

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