宗像は古代の「強制移住」の秘密を暴き、東北の「赤ずきん」伝説に出会う=「宗像教授異考録」6・7

圧倒的な歴史的知識と猪突猛進といってもいい探求心、そして、制約をもたない独自の理論構築と考察力で、古代史・人類史の謎解きに挑み続ける異端の民族学者「宗像伝奇」の活躍を描いた「宗像教授」シリーズの第2シリーズ『星野之宣「宗像教授異考録」(ビッグコミックス)』の第6弾から第7弾。

あらすじと注目ポイント

第6巻 宗像は、古代に封じ込まれた「隼人族」の思いを開放する

第6巻の構成は

第1話 再会
第2話 テキスト 天空の神話
第3話 黄泉醜女

となっていて、第1話はかぐや姫の物語「竹取物語」と浦島太郎伝説がテーマです。一見すると共通点がないように思われる二つの伝説なのですが、時間の進み方の異常なところに宗像は二つを結びつけるヒントを見つけているようなのですが、ここに忌部神奈の他地域の同族となる「讃岐忌部」一族に伝わってきた紀貫之の「竹取物語」原本の盗難事件がからんできます。

さらにそこには、海彦山彦の伝説や、7世紀後半に行われたらしい、数百年間、大和朝廷に服属せず、抵抗運動を続けてきた古代九州の「隼人族」の反抗を徹底的に封じ込めるための勢力分断、隼人族の畿内への強制移住によって奪われた隼人族の「伝承」が関係しているようで・・という展開です。

第2話では、第3巻の第1話「人穴」で登場した、堀江貴文をモデルにしていると思われるIT長者「網野」が再び登場します。「人穴」で宗像とともに、諏訪から伊賀まで通じる洞穴を旅したことで、古代文明の解明に目覚めた彼の出資で、今回再現した古代船で大阪から韓国まで航海するという実証プロジェクトが行われます。

私有のクルーザー船が伴走し、安全面では万全のはずだったのですが、予期しない隕石の落下事故に遭い、クルーザー船は大破、巻き込まれた古代船は漂流を始め、といった筋立てです。
古代の人々の「航海」を文字通り実証することになった宗像たちだったのですが、突然巻き込まれた出来事に、網野も同船していた学生たちも動揺し、あやうくパニック状態に。
それを収めたのは、古代の「巫女」のように漕ぎ進める方向を指し示す「忌部神奈」で・・という展開です。

第3話の「黄泉醜女」で取り上げられるのは、長野県などで発見されている三角の仮面をつけた「仮面土偶」です。
この土偶の元となったと思われる、石製の仮面が発見されるのですが、これが、高天原から降臨したニニギが出会い、人間の命が花のように短くなったいわれといわれる「コノハナサクヤヒメ」と「イワナガヒメ」の伝承へと結びついていきます。

発見された石面は人体に装着されていた形跡があるのですが、これを着けて生活していたとすれば、その者の顔面は押しつぶされた、非常に醜い面貌となることが想定されるのですが、という筋立てです。そして、これが熊本で発見された弥生時代の顔面が扁平となった異形の女性の頭蓋骨と、日本神話の「イザナミ・イザナミ」の黄泉伝説の秘密を解き明かすヒントになっていきます。

第7巻 福島の魔女・イザベラは、岩手の「赤ずきん」伝説を呼び覚ます

第7巻の構成は

第1話 赤の記憶
第2話 砂鉄八犬伝
第3話 吉備津の釜

となっていて、第1話「赤の記憶」では、第4巻の第3話「黒塚」で登場した、振り子占いのペンデュラムを操る薬草師のイザベラとともに岩手県北東部を旅しています。その地に伝わる、ヨーロッパの「赤ずきん」の話とよく似た伝承を調べるため、その話を伝えてきた老婆に会うために訪れたのですが、その女性は到着した朝に亡くなっています。これも何かの縁と村人が総出で行っている葬儀(いわゆる「村葬儀」ですね)に列席した宗像とイザベラだったのですが、その通夜で出された「シシ鍋」にイザベラが口をつけたことから、古来から伝わる「秘儀」が発動してしまいます。

イザベラが鍋に手をつけたのを見て、村中にふれてまわられる「婆ア汁をくったぞぉー」という言葉が意味していることは一体・・という展開です。洋の東西をとわず、飢饉に襲われたときに人々がとった禁忌が現代に蘇ってくることとなりますね。

第2話の「砂鉄八犬伝」では、宗像の属している東亜文化大学が、九州を本拠とするマンモス大学「王学園」の乗っ取り騒動に巻き込まれることとなります。
大学の合併には大反対の宗像だったのですが、話を強引に進めようとする学長の陰謀で、千葉の里見大学を舞台にした、ヤマトタケル伝説と南総里見八犬伝を使ったでっち上げ事件の首謀者に仕立て上げられそうになるのですが、それを救ったのはその事件に巻き込まれていた、日本各地の「刀工」をルーツにもつ学生たちで・・という展開です。

ここでは、第6巻の第1話の「隼人族の強制移住」と同じように、蕨手刀を造っていた蝦夷たちの強制移住が浮かび上がってきます。

第3話の「吉備津の釜」では、上田秋成の「雨月物語」にでてくる有名な捨てられた妻の復讐譚を描いた「吉備津の釜」と、岡山奈南部に伝わる鬼伝説「温羅」が結びついていきます。
さらに、古代の帝・雄略帝に美しい妻を横取りされた「吉備田狭」や一人の美しい娘のことが忘れられず、即身仏になれないままだった法師が55年ぶりにその女性と会ってたちまちす成仏したといわれる「吉備児島の法師」の話など、男の悲しい情念が見え隠れする話が紹介されています。

レビュアーの一言

第6巻、第7巻では、舞台は日本各地に散らばるのですが、ネタ的には。世界史的な広がりは持たず、古代の大和朝廷の酷政といったものが露出してくる話が多いですね。
九州の隼人族や東北の蝦夷といった古代氏族にとっては、突然やってきて先祖伝来の地を蚕食し、さらには勢力を減衰させるため、強制移住までしかけてくる政権で、かなりの強圧政権であった印象を受けます。古代もけして平和で牧歌的な時代ではなかった、という証左なのでしょうか。

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