緩和ケア医見習「トビオ」は末期がんの患者ととっくみあいの大喧嘩をする=「フラジャイル 病理医岸京一郎の所見」26

臨床にでることなく、生体検査や病理解剖などを通じて、病気の原因過程を診断する専門医が病理医。都会の大病院・壮望会第一総合病院の病理部診断科長・岸京一郎と女性見習い病理医・宮崎、病理部たった一人の敏腕臨床検査技師・森井を中心に、臨床をもたずに患者を治療する病理医たちが、臨床医たちの誤診と傲慢や医療業界の理不尽に立ち向かっていく姿を描く医療コミック・シリーズ「フラジャイル 病理医岸京一郎の所見」の第26弾。

前巻で、新薬の認可がなかなかおりない、アミノ製薬の「JS1」をめぐって、医者同志の年功序列によるしがらみと老大家の歪んだプライドがあることを知った「宮崎医師」の暴走が、アミノ製薬の間瀬と曲者病理医の岸を動かし、起死回生の一手を生み出したのですが、今回は、宮崎医師に勝るとも劣らない突進あるのみの若猪専攻医・朝加飛生の大暴走が見られます。

あらすじと注目ポイント

第26巻の構成は

第104話 持っていない
第105話 寄り添う方法
第106話 カッコつけろよ
第107話 絶対に破かせない

となっていて、冒頭では、隔離病棟での挫折経験から、血液内科から稲垣医師の「緩和ケア科」の専攻を移して、緩和ケアの専門医を目指して奮闘中の専攻医「朝加飛生」医師の様子から始まります。

登場の際は、飛行機の中の救急治療で、本シリーズの主人公・岸京一郎にタメ口で喧嘩をふっかけたり、T細胞リンパ腫の少女「ひなた」の治療の際は、稲垣の緩和ケアを斜陽診療科として見下していた「(朝加)飛生」だったのですが、「ひなた」治療の際に、プライドから何からすっかり破壊されつくして、現在では、完全な「稲垣」信者となっています。

飛生(緩和ケア科のナースたちによれば「トビオ」)は。稲垣医師の緩和ケアレベルに追いつこうと、毎日懸命に精進しているのですが、気負い過ぎてその力が無駄に放散されている印象は否定できませんね。

そんな彼が修行を続ける緩和ケア科に、脳腫瘍が進行してすでに体の左側に麻痺がでている重度の状態であるにもかかわらず、寛解を目指して積極的治療を希望する男性患者・岩城が入院してきます。

彼は若い頃に「噺家」で真打になるのを目指して修行を積んでいたのですが、師匠とケンカしてやめてしまい、その後はいろんな職をてんてんとしてきた、という経歴です。ただ、その噺家修行時代のことが心に残っていた、話のあちこちに落語ネタがでてくる、という人物です。

しかし、彼の病状は重く、壮望会第一病院の医師たちの診断も追加治療は難しいというのが大勢で、この結果を積極治療を希望する岩城と彼の妻にどう納得させるか、というのが課題になってくるわけですね。そこで、ここでキャスティングされたのは、緩和ケア科の新米医師・トビオというわけで、稲垣医師に後押しされた彼は、岩城となんとか信頼関係を築こうとあの手この手で迫るのですがことごとく不発に終わります。

もはや打つ手が見当たらず悩むトビオは、ある夜、病院の外にヘロヘロになって脱走し、外の塀にもたれて煙草を吸おうとする岩城に出会います。

彼の隠れ煙草に何度かつきあい、彼が治療と続けようとする本当の「気持ち」を知り、それがもとで取っ組み合いのけんかをしてしまうこととなりますが、それがもとで、岩城の望みの、「最後の女房孝行」の実行にむけて動き出すことになり、という筋立てです。

後半部分では、「芝浜」そっくりの亭主が隠していたことを全て承知していた女房とのやりとりが展開されていきますのですので、その風味をお楽しみくださいね。

レビュアーの一言

今回の「死ぬまで生かす訓練篇」のテーマは、「夫婦愛」でしょうかね。師匠と喧嘩して辞めた、ということになっているのですが、実は大きな高座にビビッて逃げ出しことをきっかけに、遅刻がすぎて運送会社を馘になったり、蔵で煙草をすって小火をおこして布団屋を首になったり、と「恰好悪い」様を女房に見せたくなくてツッパッている「亭主」と、それを全部ご承知の「女房」というまるで、落語にでてくる夫婦のような患者夫婦の物語に、やたらと暑苦しい、熱血医師「朝加」が伴走する物語展開となっています。

ひさびさに深刻なだけではなく、ところどころコミカルで、泣かせる「フラジャイル」になっているようです。

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