ピンクのペンギン天使が大騒動を巻き起こすー似鳥鶏「いわゆる天使の文化祭」

某市立高校の美術部のたった一人の部員で、なにかと揉め事を引き寄せる体質の「葉山くん」を語り部にして、ヒロインは、演劇部の部長で、葉山くんを女王様的存在の「柳瀬沙織」。サブキャストに演劇部所属の演出兼照明担当の「三野小次郎」、吹奏楽部所属の小動物系キャラの「秋野麻衣」、そして、天才にして大変人キャラの「伊神恒」が探偵役を務めて、高校内でおきる謎の事件を解決していく、「市立高校」シリーズの第5弾が『似鳥鶏「いわゆる天使の文化祭」(創元推理文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一章 楕円形の天使
第二章 増殖する天使
第三章 電子の天使
第四章 裏側の天使
第五章 広大な天使
終 章 文化祭の天使

となっていて、まずは8月の終わりごろの夏休みの後半、各クラスや部活動のサークルが文化祭のイベントの準備を、授業より熱心に進めている時、下端の潰れた、ちょうとゆで卵を建てたような形をして、真ん中より少し下に二本の手があり、上半分のところに横長の米粒大の目と、背中に翼をもったピンクのペンギンに似た「天使」の絵が、ほとんどの部室の入口か部屋の中に貼られているという事態が発生します。それぞれの絵は、クラブの特徴を現した全部違う図柄になっていて、たとえば美術部ではベレー帽をかぶり、パレットと絵札をもっていて「Do you want to make a drawing?」というメッセージがついていたり、奇術同好会は、手にシルクハットを持って、ハトを飛びださせている、といった具合です。
部室によっては部屋の中の黒板や、入口に十数枚を、生徒がまだ登校してきていない朝にうちに貼っているという、謎の行動です。
この不思議な事件について、これからも何か起きるのでは、と「葉山くん」が調べ始めるという滑り出しです。

一方、葉山くんのほうの話は「A」という小見出しがついているに対し、「B」という小見出しで、おそらく別の場所で同様の事件が発生します。こちらも時期的には文化祭の始まる前で、こちらの主人公は、吹奏楽部に属する「蜷川奏」ちゃんという名前の女の子です。彼女も、校内に部室や教室内に、ピンクのペンギンの絵が貼られているのを発見するのですが、こちらの場合は職員トイレの中にも貼られていて、場所によっては、「i`ll be back. by stray child」(「また来るぜ」迷子より)というグリーティングカードが置かれているというのがちょっと違うところです。さらにこちらに貼られていた絵の中には「たすけて」という文字が入っているものあるので、ひょっとすると事態はこちらのほうが深刻かもしれません。

この「A」の事件と「B」の事件の時系列は巻の最後のほうにならないと明らかにならないのですが、物語上は並行して展開していきます。少しネタバレしてくと、ここに重要なトリックを作者が仕掛けているので、注意が必要ですね。

で「A」の「葉山くん」のほうの事件では、この張り紙騒動にまぎれて、化学実験室に忍び込む人物が出現し、ここに補完されている劇物の紛失が疑われるなど、少しきなくさい雰囲気を帯びてきます。そんな中、文化祭のHPが乗っ取られて、そこにピンクのペンギンが屈薬の入った瓶を差し出し「薬品はいかがですか」と言っている画像がでてくるようにハックされてしまいます。学校の文化祭といえば、食べ物を出す「模擬店」が多くの場合定番化していて、たとえば葉山くんのクラスでは「ペルー料理」を出すようなのですが、おそらくそうした模擬店を狙って、食品テロがしかけられるのでは、ということで文化祭の一部中止が検討されるようになり・・という筋立てです。
葉山くんと柳瀬さんは、校長から文化祭一部中止の決定を下すまでに、三日間の猶予ももらって、犯人の調査に乗り出すのですがなかなか進展しません。最後の頼みの綱の「伊神さん」に連絡しても、彼は旅行にでもでているのか音信不通。困り果てた葉山くんは、最後の切り札である伊神さんの妹で、第3弾の「さよならの次にくる<新学期編>」で登場した「翠ちゃん」にお願いするのでした・・・という展開です。

もう一方の「B]の物語では、「奏」ちゃんが、この天使の張り紙とグリーティングカードの犯人であろう「stray child(迷子)」から呼び出されます。「stray child(迷子)」の指示があやふやなために離れた場所に誘導され、彼女は目撃できなかったのですが、この時に、鍵がかかっていて誰も入れないはずの彼女の学校の音楽器具室で、ピンクの天使のビラが自動で舞い上がる様子を目撃した「葉山くん」と出会うことになります。

ここで、「奏」ちゃんの学校の「ピンクの天使」事件のほうにも「葉山くん」がかかわりをもっていく仕立てになっているわけですね。こちらの事件では、音楽楽器室にいるはずの犯人を捕まえるために、奏ちゃんが学校内に忍び込んだりといったアクションを見せるのですが、不発に終わってしまいます。そして、後日、グラウンド内にでっかいペンギンに似た天使象が白線のライン引きで書かれているのが発見されて・・・という筋立てです。

このふたつの高校で起きる事件の犯人とその動機は、というところと、ふたつの事件の時系列と関係性については、原書のほうで確認してくださいね。

レビュアーからひと言

葉山くんの通う市立蘇我高校と奏ちゃんの通う市立花見川高校の二つの高校で起きる事件が並行して描かれていて、さらに、時系列も微妙にまぜこぜにしながら展開させてあるので、作者にうまいこと混乱させられてしまうので、読者は騙されないように注意して読まないといけませんね。
ちなみに、葉山くんの高校でおきる事件の解決に、大きな貢献をする伊神さんの妹「翠ちゃん」が、葉山くんの通う高校への進学希望を明らかにしてくるので、柳瀬さんが卒業していく次々巻以降の展開が楽しみなところです。

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