新人類「花人」を、日本人の旧人類は駆逐するのかー似鳥鶏「生まれつきの花」

1990年の半ばごろから世界中で、「花人」と称される新人類が生まれ始め、彼らは目鼻立ちの整った顔立ちでモデル体型、知能指数も高く、身体能力に優れ、同窓的で芸術的センスに優れているほか、2万Hz以上の高周波で発声したり、聴取ることができ、百合の花に似た芳香を発する汗腺を有している、いわば「超・人類」である。
彼らは、その能力の高さを活かして、様々な分野の社会的成功者となっていくのだが、一方で、通常の能力しかない「常人」の嫉妬もあわせてうけることになっていて、という設定で始まる近未来ミステリーが本書『似鳥鶏「生まれつきの花」(河出書房)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第1章
火口竜牙
第2章 
水科此花
第3章
草津佳久
最終章

となっていて、第1章から第3章までの各章ごとに事件が起き、最終章でその最終謎解きが行われる構成になってます。

本巻の主人公は、火口竜牙(通称「ドラゴン」)という名前の警視庁捜査一課の@常人」の刑事です。彼が、捜査本部からの命令で、警視庁の通訳センター所属の「花人」の「水科此花」巡査とペアを組んで、事件の捜査にあたるという設定で、本書では、「花人」の警察官は、普段は警務部や総務部といった警察捜査の中心でないところに配属しておいて、事件の都度、花人と常人の機会均等の確保のために、臨時的な配置をするという、いかにも「お役所的」なやり方になっているようです。

第一の事件は、千葉県にある大学のゼミ旅行中に、学生が宿泊先の赤羽駅西口前にあるビジネスホテルの部屋で、部屋に置いてあったガラス像で後頭部を殴られて撲殺されているのが発見されます。そして、殺人の死亡推定時刻として、被害者の携帯から午後10時前にSNSに投稿されていたのが発見されます。

その投稿自体は意味がわからない文章で、数分後に削除されているのですが、普段、投稿にほとんど誤字のない投稿をする被害者なのですが、殺害時、音声入力で入力されたものがたまたま送信されてしまい、それに気づいた犯人があわてて削除したのではないか、と推理されます。しかし、困ったことに、容疑者となるゼミの主任教授とゼミ生4人は教授の部屋で一緒に酒を呑んでいて、席を外した時間はあっても短時間のため、殺害する暇はなく、いずれもアリバイが成立しているのですが・・・という筋立てですね。

今回のトリックは、スマホのSNSの投稿を、本人じゃない人がどうやって投稿して削除したか、というところです。もう一つのネタバレは、被害者がフツーの大学生ではなくて、花人に対する差別的発言を繰り返している人物らしい、というところです。

第二の事件は、売れっ子の画家の殺人事件です。彼は山奥にある、コンクリートの塊のような密閉性の高い自宅で死んでいるのが発見されるのですが、その様子は、金属製のラックの一番下に頭を突っ込んでうつ伏せで縊死しているのが発見されたというもので、ラックに入れてあった水槽がすべて割れて水浸しになっていた、という状態で発見されます。

この部屋は密室状態になっていて、さてこの画家をどうやって首をつった状態にすることができたのか、という謎解きなのですが、少しネタバレすると、手を触れずの水槽のガラスを割る方法が鍵ですね。この事件でも、画家が「花人」に対するディスリを繰り返していた有名人であったことがヒントになります。

第三の事件は、東京都の美人区議で、「花人」に対する過激的な差別発言で有名な女性が、花人が経営する歯科医院内の中庭で死んでいるのが発見されるというものです。

彼女はジョギング中に何者かに襲われで撲殺され、歯科医院の中庭に運び込まれたという状況なのですが、死体を運び込むところを誰も目撃しておらず、しかも、この歯科医院では犬を飼っているので、不審ん人物が出入りすれば吠え立てるはず。おそらく、この歯科医院のメンバーの誰かの仕業だと思われるのですが、全員にアリバイがあり・・という筋立てです。ネタバレ的ヒントは、犬を声を出さずに命令する方法をつきとめられるか、というところですね。

ネタバレすると、実はこの3つの事件にはいずれも「花人」がからんでいて、常人と違って、彼らが操ることのできる高周波の音を使った「超話」が謎をとく鍵なのですが、これは「ミステリーに中国人を登場させるな」のタブーに真正面から挑戦したような形になっていて、一読すると、ちょっとアンフェアでは、と思える展開です。

ただ、この展開で終わらせないのが、筆者の手練の技で、この事件の犯人が「花人」であることがわかるにつれ、「花人」の権利制限をする法律案が賛成者を増やしていく政治情勢になっていくのですが、ここに事件の真相が隠されていることが最終章のあたりでわかってきます。そこで明かされる事実は、今まで第一章から第三章までで語られていた事件の謎解きをすべて覆すもので・・・という掟破りの展開です。

レビュアーから一言

「花人」というのをなにかのシンボルと考えて、人権啓発的ミステリーと読んでいくか、「ミステリーに中国人を登場させる」というミステリーのタブーを破ったかにみせかけての正真正銘のミステリー+サスペンスとして読むかはお好み次第なのですが、後者の読み方のほうが、作者にうまく騙された感が強くて満足感が高いかもしれません。あくまで、お好み次第なのですが・・・。

Bitly

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