コミュ障の学生探偵が学内の謎を「友人」たちと解き明かすー似鳥鶏「目を見て話せない」

ミステリーに出てくる名探偵というと、人間以外のものであることもあるのですが、人間が探偵の場合は、年齢や性別にかかわらず、少々強引であっても、登場人物や警察官たちを説き伏せるぐらいの説得力と、その「しゃべり」で相手から事件の決め手を引き出したりと、社交的な性格が多いのですが、子供の時のあるトラウマがきっかけで、コミュ障になってしまった主人公が、おなじようにコミュニケーションにコンプレックスを持っている大学の友人たちと、学内におきる事件を解決していくのが本書『似鳥鶏「目を見て話せない」(KADOKAWA)』です。

構成と注目ポイント

構成は

第一話 論理の傘は差しても濡れる
第二話 西千葉のフランス
第三話 カラオケで魔王を歌う
第四話 団扇の中に消えた人
第五話 目を見て推理を話せない

となっていて、まずは大学の法学部の新入生たちのオリエンテーションの自己紹介のところから始まります。本巻の主人公で探偵役となる「藤村京」は、地元千葉県の香取市の出身で、舞台となる千葉県の国立大学・房総大学に入学してきたという設定です。この自己紹介の様子を見ると、弁護士や裁判官などの法曹志望者もかなりいるようで、かなり難関で真面目な学生の多い大学のようです。で、この主人公、同級生の自己紹介の様子をきちんとチェックして、自分のしゃべる内容をあれこれ考えるのですが、結局、出身と名前しか言えない、という行動をとってしまいます。そう、彼は、人との会話、特にとりとめのない雑談が苦手で、声の音量の調節も下手で、相手の目を見て話せない、といったコミュニケーション能力にコンプレックスのある、いわゆる「コミュ障」と自覚している人物ですコミュニケーションが苦手な彼がいったいどんな探偵ぶりを見せるのか?、といったところですね。

第一話の「論理の傘は差しても濡れる」では、そのオリエンテーションが終わって緊張が解けたせいか、教室に寝入ってしまった「藤村」くんが、起きると誰もいなくなてしまっているのですが、教室には、高級そうな傘が忘れられています。外は雪が降っていて、関東地方の雪なので、パウダースノーとはいかず、ちょっとベチャッとなる雪なので、傘なしで外へ出れば濡れてしまうこと間違いなしです。
さて、藤村くんはコリエンテーションでの同級生の自己紹介の「出身地」や順番をもとに持ち主を推理していきます・・、という展開です。まあ、この推理の間も、傘を忘れ物として届けてふけてしまおうか、とか、このまま置いておこうかとか、あれこれ悩む場面がでてきて、この主人公の優柔不断な性格をよく表しています。
ただ、推理のほうは論理的で、名探偵としての才能の一端を見せ、事件の謎を解くことでアイヌの血をひく、正義感の強い美人の同級生・加越美晴さんと「お知り合い」になることができますね。

第二話の「西千葉のフランス」では、西千葉駅近くにあるセレクトショップでおきる不思議な現象の謎解きです。そのショップでは、女性が奥の試着室に入ると、誘拐されて行方不明になるという噂があるのですが、小学校時代、同級だった友人・里中に連れられて来店した「藤村くん」は、そこで会った女の子・美川さんに、試着室に入った同じ大学の女性が、入ったきり姿を消したしまった謎を解いてほしい、と依頼されます。
その姿を消したと言われる女子学生の皆木さんは、大学の授業を最前列で受けているのが見つかるので、誘拐されて消失したわけではないようなのですが、では美川さんが見たときに消失したようになったのはなぜ。という謎解きです。

第三話の「カラオケで魔王を歌う」は、大学生活にも慣れてきたところで、クラスの仲間たちとカラオケにいったところで起きた事件です。藤村くんは、友人らしき関係になった加越さんや皆木さん、そして幼馴染の里中をはじめとした数人でカラオケにいくのですが、そこで、加越さんがオレンジジュースと一緒に出た「ミモザ」を飲んで酔っ払ってしまいます。原因は、美人の加越さんに下心のある錦織くんが、勝手に注文したのを飲んだせいなのですが、そういう事態になった首謀者は、という謎解きです。ネタバレを少しすると、皆がちょっとずつ手を貸していって犯罪が完成する、「オリエント急行殺人事件」と同じトリックですね。

第四話の「団扇の中に消えた人」では、藤村くんが、加越さん、皆木さん、里中くんと、彼の経済学部の友人と出かけた房州うちわを売りまくるフェスで、同行した友人が財布を掏られたことから始まる騒動の解決です。房州うちわというのは、昔、竹が多かった千葉の館山や房州市あたりで明治の初め頃からつくられている目特産のうちわで、日本三大うちわの一つにもなっているようです。
そこで行われるイベントで、友人の財布を掏りとった犯人を捕まえるため、加越さんが屋台の人たちといっしょに包囲網を敷くのですが・・、といった展開です。あぶり出された犯人相手に、細めの美人の皆木さんが「武道」の達人ぶりを発揮することになります。

第五話の「目を見て推理を話せない」は、探偵役として学内の事件解決をしてきた藤村くんなのですが、コミュ障は改善しないまま。彼が、学内でおきたサークル室の鍵破損と備品のパソコン盗難事件の犯人に祭り上げられそうになっている男子学生の濡れ衣を晴らしていくのですが、その過程で藤村くんの子供の頃のトラウマが溶けていくことになります。
この謎解きのおまけで、学内のセクハラ事件もあわせて解決するのは「棚からぼたもち」といったところだと思います。

レビュアーから一言

今巻の主人公である「藤村」くんはコミュ障であることを冒頭からはっきりさせているのですが、実はサブキャストとして登場する加越さん、皆木さん、里中くんのいずれもが、コミュニケーションにコンプレックスを抱いているというのが、現代の若者を主人公らしいところでしょうか。もちろん、相手の気持ちにおかまいなしにズカズカと踏み込んできたり、控えめな友人にマウンティングしてきたり、といった人物は登場してくるのですが、皆、藤村くんたちに撃退され、こちらとしては溜飲を下げることができるのは嬉しいところです。ミステリーではあるものの、今風のフツーの若者たちの青春物語としても、いい読み心地の小説に仕上がっています。

Bitly

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