本屋には「謎」が潜んでるー似鳥鶏「レジまでの推理 本屋さんの名探偵」

出版不況や、本を読まない人が増えた、といった逆風はあるのだが、知的生活のステーションとしてほとんどの人が思い浮かべるのは、「本屋さん」ではないでしょうか。
そんな本屋さんを舞台にしたミステリーというと大崎梢さんの「成風堂」シリーズがその嚆矢だと思うのですが、ユーモアミステリーの匠である筆者がその分野に挑んだのが本書『似鳥鶏「レジまでの推理 本屋さんの名探偵」(光文社文庫)』です。

構成と注目ポイント

構成は

「7冊で海を越えられる」
「全てはエアコンのために」
「通常業務探偵団」
「本屋さんよ永遠に」

となっていて、大手のチェーン書店グループ「トトブックス」の都市型店舗である「西船橋店」を舞台にした、「日常の謎」的なミステリーです。主人公となるのは、この店の学生(大学院生)バイトの「青井くん」で、彼が語り部というかワトソン役で、この店の店舗管理も押し付けられている、という設定です。そして、ホームズ役は、この店の女性店長で、バックヤードにこもって、本の「ポップ」をつくってばかりいて勤労意欲が片鱗もないように見えるのだが、このポップに誘われて本を買う客は多く、書店グループ店の中でも有数の売上店のする立役者で、本店の経営会議にもちょくちょく呼ばれている、という、「人はみかけによらない」系の探偵さんです。

7冊で海を越えられる

まず第一話の「7冊で海を越えられる」は海外留学を控えた大学生からの相談事です。彼は高校時代からつきあっている彼女に内緒で、アメリカの大学院への留学を決めたのですが、蚊帳の外に置かれた彼女の怒りをかってしまい、彼女から「ロミオとジュリエット」「ブランク・ダイヴ」「君がいなくても平気」「いじめの構造」「スーフと白い馬」「レイン1 雨の日に生まれた戦士」「かぜのてのひら」という7冊の本が送りつけられてきます。この7冊に託した彼女の気持ちは・・・という謎ですね。
謎ときは「ふむふむ」なのですが、ここまで「本」の知識を持っている人はいないような気がします。彼女は「彼」が悩んであちことに相談しまくることで、既成事実をつくろうとしていたのかもしれませんね。

全てはエアコンのために

第二話の「全てはエアコンのために」は、ちょっと表題とは違って、仲の良い友人の間の疑惑を解きほぐすものですね。この書店のアルバイトをしている男子学生の友人という男性が訪ねてくるのですが、このアルバイトくんが、男性の大事にしていた、有名若手作家のサイン本を盗んだという疑惑を持ち込んできます。引っ越しの最中に、その男性が部屋を出ているうちに、その本が姿を消したのですが、どうやって・・、という謎解きです。少しネタバレすると、段ボール箱の中にぎっちり詰まった文庫本(帯付き)の隙間をどうつくるか、というところですね。

通常業務探偵団

第三話は、第二話で知り合いになった、人気ライトノベル作家のストーカーを捕まえるというお話。前話ででてきた学生さんの友人である作家さんのサイン会で、自筆ポスターとかをゲットできたのですが、宣伝のため貼っていてポスターに落書きをされてしまいます。
防犯カメラの画像を確認しても、いつ書き込んだかわからなかったのですが、ピンク色のマジックで描かれているところが、犯行を偽装するトリックになりますね。

本屋さんよ永遠に

第四話の「本屋さんよ永遠に」は、本屋さんの悩みのタネである「万引犯」をつかまえるところからスタートします。言い逃れをして逃げ切ろうとする常習っぽい女子中学生の万引き犯を、店長は揉め事になるのを嫌がって警察沙汰を避けるのですが、第一話から第三話のまでにでてくる「店長」の凛々しい姿とは全く違って戸惑ってしまう読者も多いかと。
日和見姿勢は、店の雑誌に、店の対応を避難する「ビラ」が挟み込まれる時にも発揮され、ついには、店に放火されるという事件がおきます。その犯人はなんと「店長」なのですが、実は・・・という展開で、少しネタバレすると、時間軸をちょっとずらされていることに当方は気付かず、見事に著者に騙されました。青井くんのバイトの先輩・一ノ瀬さんがキーパーソンですので、念の為。

レビュアーから一言

謎解きの軽快さと並行して、ところどころに顔を出すのは「書店経営」の厳しさですね。第四話の放火事件の原因の根底にはそれがあって、文芸書や単行本の売れ行き難や、ベストセラーばかり売れる状況の中で配本が偏って中小書店の経営を圧迫している問題など、現在の出版業界の苦悩も語られています。ただ、最近の「鬼滅ブーム」の中で、コミックの最終巻を手に入れるために行列までできたのですが、電子本のほうも同日にリリースされていたのにね、というあたりに、リアルの「本」という存在への日本人の信頼感というか「信仰」のようなものを感じたのですが・・・。

https://amzn.to/39JtJIZ

コメント

タイトルとURLをコピーしました