志賀の陣の敗戦で織田軍はしばらく充電中=「戦国小町苦労譚12」

現役女子農業高校生が、戦国時代にタイムスリップして、持ち込んだ21世紀の器具や技術を駆使して、織田信長の治める尾張・美濃の農業生産や織田軍の武器のレベルをとんでもなくUPさせて、信長の「天下統一」を助けて大活躍する時代改変もの「戦国小町苦労譚」のコミカライズ版の第12弾が本書『夾竹桃・平沢下戸・沢田一「戦国小町苦労譚12 越後の龍と近衛静子」(アース・スターコミックス)』です。

前巻で「志賀の陣」の坂本の戦いで、森可成が大怪我を負い(ここは史実と違ってます)、比叡山に浅井・朝倉軍が籠城し、織田軍が攻めあぐねる中、三好一族、六角義賢、本願寺勢などの反織田勢力の反攻により、講和という名目の実質上の敗戦下での織田方の雌伏の様子が本巻では描かれます。

あらすじと注目ポイント

構成は

第五十六話 猶子
第五十七話 至福
第五十八話 親子
第五十九話 新顔
第六十話  大輪

となっていて、冒頭では京の近衛前久邸に塩や砂糖、醤油などの献上品を届けにやってきた静子が、僧行に変装して上洛してきている上杉謙信と会っています。

上杉謙信が永禄二年(1559年)に上洛した際、謙信と前久は血盟を結び、その後、関白の職のままで永禄四年には関東へ出向き、謙信の関東平定を手助けしています。志賀の陣の頃は、謙信の関東平定が武田・北条の二面作戦でうまくいかないことに業を煮やして変帰洛し、これが原因で謙信とは仲がわるくなったという説が有力なのですが、このシリーズでは、謙信の関東平定後の上洛の下慣らしをするためだった、という説をとっているようで、謙信と前久は仲良く酒を酌み交わしています。

一方、信長のほうは居城の岐阜城で、志賀の陣の論功行賞を行っています。それぞれに褒美が与えられ、静子たちも特別武功として恩賞が与えられています。
この時、知行地も与えられているのですが、志賀の陣は実質的には「敗戦」であり、新たな領土獲得はほとんどなかったはずなので、ここは茶器や金子(きんす)といった物的なものが中心だったろうと思われます。

中盤では、宣教師たちから信長に献上された動物たちの飼育園を民に開放していたり、健常のマヌル猫や狼たちと遊ぶ静子の姿、森親子の槍試合のようすなどが描かれているのですが、まあ、ここは箸休めというところでしょう。
さらに、前田利家の次女「粛」と浅井長政の元家臣・藤堂与吉(後の高虎)が侍女や家臣として新規に仕えています。

後半部分では、地震で落ちてきた巨石を「矢穴技法」という石割りで割って道を復元し、これがきっかけで織田領内のインフラ整備を命じられます。

ちなみに、織田信長は、後に築城した安土城の城下の整備の際、ルイス・フロイスの「日本史」の記述によると

安土の市(まち)から都まで陸路十四里の間に彼は五、六畳の幅をもった唯一の道路を造らせ、平垣で、真直ぐ(にし)、夏には陰を投ずるように両側には樹木(松と柳)を植え、ところどころに箒を懸け、近隣の村から人々はつねに来て道路を清掃するように定めた。

また彼は全道のりにわたり、両側の樹木の下に清潔な砂と小石を配らせ、道路全体を(して)庭のような観を呈せしめた。
一定の間隔をおいて、旅人がそこで売っている豊富な食料品を(飲食して)元気を回復し、休憩できる家があった

といった整備を行ったようで、それまで野盗が出没するなどけして安全とはいえなかった街道を、一人でも旅できる環境に変えていったようです。
(参考サイト:★信長の夢★「愛あふれる信長の道路整備 〜安心・安全・快適〜」

当時の多くの武将が物資輸送や敵の侵攻の防御を主眼においた軍事用道路の整備を主としていたことを考えれば、天下統一を前提とした画期的な整備方針といえますね。

とまあ、今巻は志賀の陣の敗戦後、じっと力を蓄えている「織田勢」の情勢が中心となっているのですが、そろそろ大逆襲が始まるようで、後半では「長島の一向一揆」攻めが宣言されています。多くの一向門徒が火攻めなどで攻め殺された戦いがいよいよ次巻以降始まるようです。

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レビュアーの一言

中盤で登場する藤堂高虎は築城の名人と言われる一方、七回使える「主人」を変えた転職王で、江戸時代は人気のなかった武将です。
幕末に津藩主だった藤堂家が、鳥羽伏見の戦いの直前に勅命を受けて、幕府側から新政府側に鞍替えしたため「藩祖高虎の(裏切りの)教えが行き届いている」という悪評がたったことでも有名で、当時は高虎は「裏切り」の典型的人物と思われていたようsです。。

ただ、高虎が主を変えたのは浅井家や豊臣秀長、秀保のように主人が滅んだり死去したり、同僚と喧嘩しての出奔とかが主な原因で、「裏切り」というものではないのですが、やはり、豊臣家から徳川家に鞍替えしたことが大きく影響しているようです。
高虎にしてみれば、家の興隆のため、強い「主人」を選んでいったぐらいの感じだったのかもしれませんが、一回たった悪評はなかなか挽回できないということでしょうか。

「藤堂高虎」について詳しく知りたい人には、2022.11.05現在、KindleUnlimitedで彼の一代記を描いた「虎視眈々」が提供されています。

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