人形作家の頼りない父と、しっかりした娘のほのぼのミステリー ー 藤野恵実「ハルさん」(創元推理文庫)

仕事が立て込んで気持ちがささくれている時や、あれこれうまくいかない時に、読書によって気を紛らすというのは、精神の安定を図る上で有効な手段であるのだが、そんな時にチョイスする本は、どちらかというと軽めのものがよくて、そのあたり、ミステリは種種雑多なものが揃っているところが嬉しい。

この藤野恵実「ハルさん」もそんな軽めのタッチのミステリで、主人公である頼りない人形作家の父親である「ハルさん」が、娘の風里の結婚式の合間合間に、奥さんが亡くなってから、娘が成人し結婚するまでの間を回想するっていうのがおおまかな筋立て。

もっとも回想といっても、そこはミステリなので、娘との日常生活の中で起きる事件、謎を、亡くなった奥さんの瑠璃子さんと会話しながら解いていくというもの。

収録は

第1話 消えた卵焼き事件

第2話 夏休みの失踪

第3話 涙の理由

第4話 サンタが指輪を持ってくる

第5話 人形の家

となっていて、娘のふうちゃんが、第1話が幼稚園、第2話が小学校4年生、第3話が中学2年生、第4話が高校3年生、第5話が大学2年生となっていて、成人した娘のある人なら、あああんな時、うちの娘も、とか、うちの娘は、といろんな思い出を呼び起こさせてくれて別の意味で楽しいミステリではある。

本書にでてくる謎は、謎といっても、世間の耳目を集めたり、陰惨なものであったり、というわkではけいしてなくて、幼稚園のお弁当の中に入っていたはずの卵焼きが忽然と姿を消していたり、ふうちゃんのバイト先の落し物を落とし主に届ける場所探しと、バイト先の花屋が、ビルのオーナーから夜8時に店じまいさせられる訳だったり、謎が解けなければ解けないで、まあしょうがないかな、といったものであるのだが、その謎が解けるまでのふうちゃんとのやりとりが、またほんわかさせてくれて、なんともほっとさせる読み心地ではある。

気負わず、布団かこたつに潜り込んだ状態で、ページを繰るのがよろしいミステリでありますな。

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