紙鑑定士はジオラマに隠された事件の謎をとくー「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」

持ち込まれた紙のサンプルを調べて、メーカーや銘柄を鑑定して、本のカバーや帯、表紙などにあった紙銘柄を提案したり、書籍や雑誌の使用されている紙の使用量を調べ、本当の刷り部数を割り出したちといった紙コンサルタントを営んでいる「渡部紙鑑定事務所」のオーナー・渡部圭が、事務所名の誤解から、思わぬ事件に巻き込まれていく。巻き込まれ型ミステリーが本書『歌田年「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」(宝島社)』です。

本書は第18回「このミステリーがすごい」大賞で「模型の家、紙の城」という表題で、大賞を受賞していて、「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」と改題して出版されたものです。

あらすじと注目ポイント

構成は

1 風変わりな依頼
2 助っ人探し
3 伝説のモデラー
4 ジオラマ解析
5 池袋
6 調査報告
7 第二の依頼
8 白い家の謎
9 河津桜
10 消えた白い家
11 葉田
12 第二の作品
13 黄橋
14 晴子への報告
15 土生井倒れる
16 身元判明
17 第三、第四の作品
18 復活の土生井
19 第二暁海苑
20 手紙
21 第一暁海苑
22 東北へ
23 真理子
24 蒲沢の正体
25 蒲の沢
26 エピローグ

となっていて、まずは、紙鑑定士である渡部圭のもとへ、恋人の浮気調査を頼んでくるところから始まります。渡部の事務所は「紙鑑定事務所」という看板をあげているのですが、これを「音読み」で「神」「探偵事務所」と勘違いしての依頼です。
なので、まったく専門外ということで断ってもいいのですが、第一の事件の依頼者・米良杏璃が調査のネタとして持ち込んだ、砂漠の戦場を模したジオラマに興味を覚えて依頼を引き受けることとなります。
ただ、プラモデルや模型は全くの素人なので、本業の関連で知り合いの模型関係の編集者や、その編集者から紹介されたプロモデラー・土生井にアドバイスをもらいながら調査を進めていきます。そして、ジオラマに飾られている戦車のプラモデルが、自衛隊のヒトマル式戦車とイスラエル国防軍に配備されているメルカパであるという土生井の話から、依頼者の夫の浮気の相手が外人パブ関係者ではと推理し、という展開で、推理の根拠はかなりいい加減ながら、見事、依頼を解決する筋立てです。

本書のメインとなる第二の事件の依頼者は、第一の事件の依頼者・米良杏璃からの紹介で、行方不明になった妹を探してほしい、という依頼です。依頼者は、清楚で、背は高めでスラッとしたモデル体型。きれいな黒髪の持ち主で、はっきりした目鼻立ちの美人、という女性で、今回も「紙鑑定」とは全く異分野の依頼を引き受けてしまいます。

で、今回、手がかりとなるジオラマは、昭和な佇まいの「家」のジオラマで、その内部には兵隊人形のフィギュアが奥の部屋に一体、玄関に近い部屋に二体飾ってあって、玄関に近い部屋の中には、拳銃や火炎放射器などの武器も飾られています。まるで、奥の部屋のフィギュアを監禁しているような気味の悪い仕上がり。これが、依頼者の19歳になる妹の部屋に飾られていた、ということなのですが、その姉妹は、義理の父親から性的暴行を受けたことがあり、そこから逃げてきたという過去があります。このジオラマと妹の失踪はそれと関係があるのかもしれないな、と含みをもたせていきます。

これらの謎の一部が解けるのが、このジオラマの作成者で行方不明になっている妹へ贈った人物が浮かび上がってくるところです。
その人物が通っていたミニチュアハウス制作教室の講師を訪ねたところ、その人物からジオラマが講師のもとへ送られてきていたことがわかります。そのジオラマを調べると、床下にフィギュアが隠されてることがわかり、さらにそのジオラマの表札にかかれている「黄橋」という名前を手がかりに「橋」を探していくと、相模川の支流の川にそういう名前の橋があり、その橋のたもとに死体が埋められていることが判明し・・という展開です。

そして、この死体の正体が、依頼者の姉妹の義理の父親であることが判明し、さらに、制作教室の講師のもとへ第三、第四のジオラマが送られて来、そのジオラマに隠されていた謎を読み解くと、姉妹の義理の父親を殺した真犯人と、その真犯人が計画している犯罪の姿が浮かび上がってくるのですが・・・という展開です。

Bitly

レビュアーから一言

今巻のメインキャストとなるのは、紙鑑定士の渡部なのですが、実際の謎解きの主力となるのは、業界の不正を告発したために干されてしまっている、アル中のプロモデラー・土生井です。
彼が物語の中盤以降、肝臓障害で緊急入院した病室から、渡部の携帯に送られてくる「謎解きのヒント」には、プラモデル作成やジオラマ作成の「玄人情報」的なところがあって、子供の頃にプラモデル制作に熱中した経験のある人なら興味をひかれること間違いなしだと思います。
「紙鑑定」と「プラモデル制作」をドッキングさせた異色ミステリーです。

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