DVの被害女性を救うシェルターには秘密の仕事が隠されていた=佐野広実「シャドウワーク」

夫によるDVによって心も身体もボロボロにされ、瀕死の状態にある女性を、暖かく受け入れ、保護してくれるシェルターが江の島にあります。
そこは人数制限はあるものの、居場所と職業を斡旋してくれて、一定期間過した女性はそこを巣立っていくのですが、そのシェルターには、他にはないあるルールがあって・・という「私が消える」や「「誰かがこの町で」でブレイクした作者がおくるDVの闇を描いたミステリーが本書『佐野広実「シャドウワーク」(講談社)』です。

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あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 秋
第二章 冬
第三章 春
第四章 夏
一年後ー秋

となっていて、物語はこのDVのシェルターに駆けこんできた女性のほぼ一年間が描かれています。

冒頭では、本編の主人公の一人「紀子」が、五年間続いた夫のDVから逃げ出して、公営のシェルターで二週間過ごした後、神奈川県の江の島の近くにある女性二人が運営している民間のシェルターへやってくるところから始まります。

三週間前、紀子は夫に金属のバーベキュー串で足を刺された状態で池袋の救急病院にかけこんで保護してもらったのですが、そこで担当してくれた看護師・間宮路子にそのシェルターを紹介してもらい、夫との離婚が成立するまでの間、身を寄せることにしています。

そのシェルターを運営しているのは、「志村昭江」という名前の六十過ぎの女性で、近くのパン屋を経営して、シェルターの運営資金を捻出しています。シェルターに入っている女性は、そのパン屋で働きながらアルバイト代をもらい、家賃や生活費を差し引いた残りを、一定期間経過後にシェルターから出る時に備えて貯めているようなのですが、DVの夫から身を隠すため、全員が外出も少なく、ひっそりと暮らしている、という設定です。

紀子は、このシェルターに入っている「奈美」、「洋子」「雅代」の三人とシェルターを営む「昭江」とともに、共同生活を送るこことなります。

シェルターの生活は穏やかで、アルバイト先のパン屋に来る客も近所の人が中心で悪質な人はおらず、紀子は平穏な日々を過ごすのですが、ただ一つ、シェルターには奇妙な習慣があって、順番に風呂に入り、あとは寝るだけという時間に、全員が茶の間に集まってレクリエーションをすることです。

それはトランプのババ抜きに始まって、慣れて来るにしたがって、ダウト、ポーカー、ブリッジ、そして手本引きへと高度化していきます。昭江によると、相手の表情を読み、心理を読み取る訓練なのだそうですが・・といった筋立てです。

そして、物語のもう一つの流れがこれと並行して進んでいきます。千葉県の内房にある、ノコギリ状の岩場が広がり、絶好の釣り場となっている「西ヶ崎」の北側の岩場に腐乱した女性の死体が打ち上げられます。女性の名前は「今井美佳子」といって、東京の大井町のアパートに住んでいる、近くの東小路にある「尾瀬」というスナックに勤めている女性です。彼女は「松原」という男性と同棲していたのですが、その男の証言によると数日前にいなくなって自分も探していた、とのこと。

近所の住人からの聞き取りによると、「美佳子」と「松原」は日頃から諍い、というよりは松原によるDVが絶えなくて、「美佳子」は生傷が絶えなかったそうで、この事件の担当刑事の一人である「薫」は松原による犯行を疑って、捜査を始めようとするのですが、現場の状況から捜査本部はそうそうに「自殺」の判断をしてしまい、彼女が操作することを許しません。

実は「薫」は同じ警察官で警察庁捜査二課の刑事である「北川普一」と夫婦関係にあったのですが、普一のDV:を訴え、離婚調停をしている際中です。ところが、北川は警察庁勤務のエリートで、父親も警察の元刑事局長という大物である上に、薫の行動は、同じ仲間でである「警察官を売った」とみなされ、千葉県警本部から所轄署に左遷されたというバックグラウンドがあって、「薫」の言うことには聞く耳もたない、という状況です。

夫の北川だけでなく、警察組織が敵に回る中、「薫」は「美佳子」の死が自殺ではなく、殺人だという線で独自に捜査を続けるのですが、それから数月後、松原が心不全で急死したという報せが入り・・という展開です。

「美佳子」の公式捜査が終わった後も、「薫」は独自に調査を続けるのですが、夫の北川との離婚調停も暗礁に乗り上げ、さらに彼女も何者かにおぞわれて大怪我を負うという事態に。そして「薫」はついに「美佳子」が現夫・松原だけでなく、前夫からもDVを受けていたこと、そして池袋の病院に勤務する「間宮路子」とも知り合いであったことをつきとめ、彼女の伝手で、昭江や紀子の暮らすシェルター「志村邸」を訪問するのですが・・といった展開です。

で、このあたりで、志村昭江や間宮路子、そして志村邸に逃げ込んできている女性たちの「闇の仕事」が明らかになって、紀子もその手伝いに駆り出されていたり、「薫」の夫・北川が彼女の「志村邸」訪問に気づいて、手を回し始めといった急展開が始まっていくですが、詳細は原書で。

レビュアーの一言(ネタバレ含みます)

警察が受けたDVの相談件数は2022年で8万4496件と、19年連続で最多を更新しています。性別は男性からの相談が1732件(約20%)あるのですが、やはり大多数は女性からのものが多いですね。

本書はDV防止法をはじめとする様々な対策にもかかわらず一向に減少しないDV被害に対しての、被害者からの加害者に対する「復讐のシステム」が明らかになっていくのですが、その復讐の方法がどことなく「必殺」シリーズのように、人知れず「悪党」を退治していくという雰囲気があってよい雰囲気を出しています。

少し最後のほうのネタばれをすると、「江の島」のシェルターを卒業した「紀子」は「薫」の協力を期待しながら、自分の「シェルター」建設を目指していくのですが、「闇家業」にも手を染めていくんでしょうか・・。

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