県警本部内で起きた現金紛失事件に隠れた、警察の「闇」を暴き出せ=柚月裕子「月下のサクラ」

前作「朽ちないサクラ」で、高校時代からの親友の新聞記者を殺した真犯人をつきとめたものの、その背後に。警察の「公安」が介在していたことを知り、自分の無力さを痛感した「森口泉」が一念発起して「警察官」となり、再び警察権力の「闇」を暴いていく「サクラ」シリーズの第2弾が本書『柚月裕子「月下のサクラ」(徳間書店)』です。

あらすじと注目ポイント

今回の物語は、本シリーズの主人公「森口泉」が、前作の最後のシーンで米崎県警の広聴広報課の事務職員を退職し、警察官を目指してから5年後、三十歳で警察官採用試験に合格し、交番勤務や交通課勤務を経て、捜査二課知能犯係の刑事となって一年後、捜査支援分析センターの登用試験である追跡テストを受けているところから始まります。この捜査支援分析センターは、事件現場で収拾した情報を解析し、プロファイリングをするセクションで、事件捜査の「頭脳」ともいうべき花形部署です。

テストの内容は、実際の街中で、ターゲットとなる人物を尾行追跡するというものなのですが、ここで泉はターゲットを見失った上に逆襲されるという失態をおかし、「落第」を宣告されてしまいます。このため、てっきり任用はアウトか、と思われたのですが、分析センターの機動分析係のチーフの「黒瀬」から、その「記憶力」を評価され、メンバーの一員に加えられることになります。ただ、周囲からは、上層部から実力以上に「贔屓」されている「スペシャル捜査官」、通称「スペカン」扱いされるため、負けず嫌いの泉はその評価を跳ね返そうと、遮二無二、頑張るのですが・・という展開ですね。

で、彼女が、分析センターに異動になって、最初の出くわす事件が、県警本部の会計課の金庫の中から、詐欺事件で押収した現金、九五〇〇万円余が紛失してしまった、という県警内で窃盗が起きたという大スキャンダル事件です。

泉は機動分析係のメンバーとともに、会計課の職員の聞き取りに立ち会うのですが。そこで発見したのは課員たちの無責任さだったのですが、あわせて、金庫の現金を管理を一人の職員でやるようにしたのは、早期退職した前会計課長・保科のときからで、彼には三千万を超える消費者金融からの借金があり、退職後も何度か県警の庁舎内に出入りしていることが監視カメラの解析でわかります

保科が今回の紛失事件に関係していると見込んだ機動分析係のメンバーは保科の監視を始めるのですが、彼らの行動とは別に保科を監視している者がいることに気づきます。その者の耳元を洗うと、警察庁の公安部のアジア関係の諜報を担当する外事二課の警察官であることがわかります。なぜ、国内の窃盗事件の捜査に国外の情報収集を担当するセクションが絡んでくるのか、謎は深まるばかりで・・と展開していきます。

さらに、監視を続けていた保科が自宅内でアルコールと睡眠薬の過剰摂取で死亡したため、それを詳しく調べようとした機動分析係だったのですが、係のリーダーである黒瀬が、中國の詐欺グループが関わる詐欺事件に関与しているとのタレコミがあり、黒瀬が謹慎処分を受けることとなり、分析係の動きが封じられてきます。

そして、泉は謹慎処分を受けて動きのとれない黒瀬に代わって、この金銭紛失事件の調査を内密の進めるのですが、黒瀬から、清廉潔白で人望が厚いことで知られる県警本部長の息子が、中國詐欺グループが関わった詐欺事件の関係者と中学時代の同級生であることを知らされます。

泉は、今回の犯罪に、県警の上層部が関わっているかもしれないと捜査を続けるのですが、彼女の身に真犯人の毒牙が及んできて・・という展開です。

このシリーズには珍しく、最後半のところでは、泉が監禁されてそこから逃れようとするアクションシーンが展開されています。

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レビュアーの一言

今巻で主人公の森口泉が配属されるのが捜査支援分析センターで、幾度か被疑者を監視する張り込みはあるのですが、捜査活動の大半が、Nシステムを使った不審車両の洗い出しと、現場の捜査官が手に入れてきた監視カメラの画像分析という「座業」であることが興味深いです。

作業の大半が、膨大な画像の中から不審な動きをしている人物を見つけ出したり、不審な車のナンバープレートを見つけ出すといったことなので、冒頭の分析センターへの登用テストで、泉の記憶力と動体視力のよさに目がつけられた理由もなるほどな、と思わせる次第です。

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