木元哉多「閻魔堂沙羅の推理奇譚」(講談社タイガ)

ミステリーの世界で殺人事件の探偵役をするのは、当然、被害者ではない第三者なのが当たり前なのですが、このシリーズで、探偵役を務めるのは「被害者本人」。冥土の入り口のところで、「生き返りたい」という要望に応えて、10分以内に自分を殺した犯人を推理して正解すれば生き返り、はずれたら地獄行きという、世にも奇妙なサービスに応じて、被害者が必死に犯人を推理するのが本シリーズ『木元哉多「閻魔堂沙羅の推理奇譚」(講談社タイガ)』。

構成と注目ポイント

シリーズ第一巻「閻魔堂沙羅の推理奇譚」の読みどころ

シリーズ第一巻「閻魔堂沙羅の推理奇譚」の構成は

プロローグ
第1話 緒方智子 17歳 女子高生 死因・絞殺
第2話 浜本尚太 21歳 会社員 死因・凍死
第3話 門井聡子 82歳 無職 死因・老衰
第4話 君嶋世志輝 20歳 フリーター 死因・撲殺

となっていて、このサービスを提供するのは、閻魔様の娘で「沙羅」という女の子で、閻魔様が出張とか二日酔いとか、風邪とか、死者の裁判ができないときに代役をしています。ところが、突然に殺されたため、この世に未練を残している死者の「生き返りたい」という希望を巡って口喧嘩になり、自分を殺した犯人を10分以内に当てることができたら生き返らせてあげるという賭けをする、という筋立てです。犯人を推理するネタはそれまでに出ていることから推理しろ、という設定で、読者も「死者たち」と一緒に推理に参加することになってます。

まず第一話の主人公は、ソフトボール部所属の女子高生。彼女が成績のことで親と喧嘩して家出し、高校の部室で一夜を明かそうとするのですが、そこで呼び出したボーイフレンドと喧嘩となります。ところがその後、部室のロッカーの上にある盗撮カメラを見つけてしまい、それを下におろしたところで、背後から襲われ絞殺されてしまいます。恋愛のもつれかと思わせて、実は・・という展開ですね。

第二話で、被害にあうのは、要領のよくない食品会社の男性社員。彼は、倉庫から配達ミスの商品を取り出そうとして、棚に積んであった商品が荷崩れし、それが当たって昏倒。商品をいれた冷凍倉庫で凍死してしまうのですが、実は、それがドジで失敗ばかりの彼をめぐる恋愛物語、という意外な筋立てです。

第三話は、殺人事件ではなくて、年老いた女性の老衰死です。彼女は、老舗の呉服商のところに嫁にきて、厳しい姑に仕えながら店を守ってきたのですが、時代の趨勢には勝てず、その店も閉店することになってます。心残りは、俳優になりたくて、店を継ぐのを嫌がって家出した息子のことなおですが、といった筋立て。沙羅のおかげで息子の「忘れ形見」と出会うことができますね。

第四話は、乱暴で喧嘩にあけくれているフリーターの男が、幼馴染が巻き込まれた組織売春組織を調査していた兄から持ってくるように依頼されたUSBを届けたナイトクラブで撲殺されてしまいます。兄の「USBの中身を見るな」や「無防備でこい」という言葉の真の意図が手がかりになるのですが、「ちょっと鈍いんじゃね」という思いも浮かびます。まあ、悪党どもや黒幕を叩きのめすあたりはすっきりするので、よしとしましょう。

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シリーズ第2巻「負け犬たちの密室」の読みどころ

シリーズ第2巻「負け犬たちの密室」の構成は

第1話 武部建二 43歳 刑事 死因・刺殺
第2話 池谷修 30歳 ゆすり屋 死因・?
第3話 浦田俊夫 34歳 会社社長 死因・撲殺

となっていて、まず第一話は、榎並という英会話教室の講師が頭を灰皿で殴られて殺される事件が発端となります。

この事件の容疑者となっているのは、三人の被害者に騙されていた女性なのですが、この女性たちの捜査をすすめるうちに、一人にはアリバイがあり、一人は何者かにひき逃げされ重傷を負います。この重傷をおった女性が容疑ナンバー1なのですが、これに疑惑を抱いた武部が自宅のアパート近くで襲われ・・という展開です。少しばかりネタバレしておくと、仲間と思っている同僚刑事とはいえ油断するな、というところです。

第2話は、フリーの探偵を隠れ蓑に、依頼を受けた調査をネタに「ゆすり」をしている男・池谷に起こった事件。彼は、相棒の阿賀里と一緒にゆすりをやっているのですが、そのあがりを銀行の貸し金庫に預けていて、総額が6千万になったら、金をわけあって足を洗うことにしているのです。実は池谷は、貯まったところで阿賀里を殺し、独り占めすることを目論んでいるのですが、貸し金庫は二人が別々に設定しているパスワードがそろわないと開けられない仕組みになっています。このため、自分より腕っぷしの強い阿賀里から安全にパスワードを聞き出すため、阿賀里の新しい恋人となった女性を誘拐して脅迫することを計画するのですが・・・、という展開です。
シリーズのほかの話では、生き返った後、自分に降り掛かったピンチを脱出することができるのですが、この話では、阿賀里の恋人の女性がとんでもない悪党だったせいで、全てが瓦解していきますね。

第3話は、甲子園準優勝の元高校球児で、プロ引退後は、スポーツジムの経営者として成功している男・浦田の話です。高校卒業後、16年を経過して、当時の野球部の同級生やマネージャー、後輩たちと、彼の別荘に集まって、旧交を温めることとなったのですが、その夜、浦田は自室で誰かに撲殺されてしまいます。凶器となったのは、ボトルシップの瓶。しかし、死んで沙羅のもとへ行った浦田は彼女から、4人は警察から犯人としてまーくされていいないと聞かされます。そんなはずはないと、犯人探しと警察を騙したトリックを推理するのですが・・、という展開です。
蘇った後の行動が復讐劇にならないのがこの第3話のよいところですね。

レビュアーから一言

このシリーズは、2020年秋に、中条あやみさんの主演でTVドラマ化されているのですが、作中の彼女の風貌は、

かわいい子だった。
黒目がちな目が、ぱっちり開いている。小顔で、顔も口もすべて小さい。黒髪のショートカットは、前髪が眉にかかるあたりでそろっている。形のいい福耳に、イルカのイヤリング、白い肌にはホクロ一つなく、まるで透き通り水のようだ。淡いピンクの口紅を引いている。
光彩の強い瞳と、とんがったアヒル口。そしてシャープな顔立ちは、彼女が鋭敏な感性の持ち主であることを物語っていた。

という風貌で、肩に真っ赤なマントをはおっている、という印象的な姿で、ショートカット以外は、中条さんに「ピッタリ」という感じでしょうか。

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