高槻と尚哉は異世界エレベーターの謎を解く=「准教授 高槻彰良の推察7ー語りの底に眠るもの」

一度見たら全てを記憶する「瞬間記憶」と抜群の観察力、そして子どもの頃に誘拐されたことによるトラウマを抱える、東京都千代田区にある青和大学で民俗学を教える准教授・高槻彰良と、幼い頃の怪奇体験から人の嘘が歪んで聞こえる異能を持ってしまった青和大生・深町尚哉が、民俗学の知識を遣いながら、世の中で不思議現象といわれているものに隠されている「真実」を解き明かしていく民俗学ミステリー「准教授 高槻彰良の推察」シリーズの第7弾が本書『澤村御影「准教授 高槻彰良の推察7ー語りの底に眠るもの」(角川文庫)』です。

前巻の「紫鏡」事件で、高槻の精神の底に沈む、「もう一人」の高槻から、「黄泉のにおい」がすると言われ、子供の頃に経験した、あの世の祭りの呪縛からまだ逃れていないことを思いしらされた尚哉だったのですが、今巻の事件の中では、異世界へいく方法や、沼の主へ嫁にいった少女の怪異譚の謎を解いていきます。

あらすじと注目ポイント

収録は

第一章 違う世界へいく方法
第二章 沼のヌシ
第三章 人魚の肉

第一話 違う世界へいく方法

第一話の「違う世界へいく方法」は、大都会の中にある、ありふれた設備を、ある一定の使い方をすると別世界へ行ってしまう、という都市伝説の謎解きです。

それは、10階建てのビルの中にあるエレベーターに一人乗り、四階、二階、六階、二階、十階、五階の順に移動します。五階まで誰も乗り込んでこず、一人で辿り着けたら、そこで若い女性が乗ってきます。それを確認して一階のボタンを押すと、エレベーターは一階ではなく、十階に向かって昇っていき、十階でエレベーターの扉が会いたら、そこは自分しか人間のいない世界が待っている、というものです。まあ、その先はどうなる、とか、五階から乗ってきた若い女性はどうした、とかツッコミどころは満載の都市伝説なのですが、これを、サークルの飲み会の帰りにやってみたグループのうち、一人の男子学生・湊が後日、行方不明になってしまいます。彼は、ひょっとしたら再び、その都市伝説を実行して異世界へ行ってしまったのかも・・とそのグループの一人の女子大生・絵里奈が相談を高槻のもちかけてきて・・という筋立てです。

相談を受けた高槻たちは、彼らが都市伝説を試してみたビルへ行き、そこで一人ずつ都市伝説を実行してみるのですが、尚哉が実行したとき、実際の若い女性が乗ってきて、「飴玉いる?」と問いかけてきます。都市伝説にない展開に驚いた尚哉は思わず断ってしまい、無事、ビルの一階へと生還します。

しかし、湊の行方不明の謎を解く鍵は、このビルにあると睨んだ高槻と尚哉は再び、都市伝説を実行し、五階から乗り込んできた女性に、尚哉は今度は「飴玉がいる」と答えると・・という展です。

謎解きは別として、大学進学で、地方から大都会へ出てきて、自分の居場所が見つからなくて不安になっている若者の心を映し出したようなミステリーになっています。

第二話 沼のヌシ

第二話の「沼のヌシ」では、尚哉と同じように「あの世」の祭りに迷い込み、人の「嘘」が見分けられる特殊能力を持ってしまった、デザイン会社の経営者・遠山が、高槻のところへ事業絡みの相談をもちかけてきます。彼は、栃木の那須で、山を崩して別荘地をつくるプロジェクトに関わっていて、そろそろ工事にかかろうかというときに、近くに住んでいる老婆が「ヌシ様に祟られる」と、山中の沼の前に居座り、そこの埋め立ての邪魔をしてきているとのこと。そのヌシ様の伝説は地元では有名な話のようで、高槻に沼を埋め立てても、「呪い」なんてものはないのだ、と地元住民に話をしてくれ、と頼んできたわけですね。

しかし、現地では老婆から、自分の娘が十数年前に、この沼のヌシの花嫁となって行方不明になっている、という話を聞くと怪異の謎解きにのめり込んでしまい・・という展開です。ただ、この沼のヌシについては、「もう一人の高槻」は、そんなものはいないと断言しますし、尚哉自体も、「黄泉」の臭いを感じることができないのですが・・という状況の中で、高槻は過去のおきた行方不明事件の謎を解いていくのですが、その真相は、この老婆が隠していた家庭内の出来事に端を発していて、という筋立てです。

ちなみに、この話の冒頭で、尚哉は彼に好意を寄せてくれている亜沙子ちゃんを再びはねつけてしまうのですが、話の終わりの方の遠山の一言で、彼女との仲もひょっとすると違った展開が、と期待が膨らむところです。

第三話 人魚の肉

第三話の「人魚の肉」は、人魚の肉を食べさせてくれるというレストランの謎です。そのレストランでは、一部の常連客や、オーナーになにかの合言葉を耳打ちすると、別室でメニューにない料理を食べさせてくれるのですが、それが「人魚の肉」ではないか、という都市伝説が生まれています。

高槻と尚哉は苦労して予約をとり、その店に行くと、なんと「海の家」で知り合った、八百比丘尼ではないかと思われる「海野沙絵」がその店のアルバイトで働いているところに出くわします。彼女も、「人魚の肉」の秘密を知るために店に潜入しているらしく、高槻と尚哉は彼女の協力をえて、同じく人魚の肉を求めてきていた林原夏樹という男性と調査を始めます。

そして、「人魚の肉」が入荷したという、沙絵の情報をもとに、高槻たちは、そのレストランの別室でその料理を目にするのですが・・という展開です。

少し、ネタバレしておくと、スタンリイ・エリンの「特別料理」や、米村穂信さんの「儚い羊たちの祝宴」にでてくる「アルミスタン羊」が、この「人魚の肉」の正体のようですね。

ただ、話のネタバレが終わっても、海野沙絵と「もう一人の高槻」とのやりとりや沙絵の正体が判明するので、最後まで読んで下さいね。

Bitly

レビュアーの一言

第二話では沼に棲む「ヌシ」の伝説が登場するのですが、「ヌシ 神か妖怪か」(伊藤龍平 著)によれば、ヌシになる条件は

・ひとつ所に長く棲んでいること
・棲みかである場所が、淀んでいること
・その場所から離れようとしないこと
・身体的な特徴があること
・尋常ならざる能力をもっていること

だそうです。この三番目あたりに、棲家を潰されたりすると祟をもたらす原因があるようですね。

さらに、ヌシの怒りや干ばつや水害など天災を鎮めるために、花嫁を捧げる伝説は数多くあって、たいてい美しい娘が犠牲になるのですが、「Fjigoko.TV」さんの「河口湖のぬし」の話は、赤牛の姿をしているヌシをまんまと出し抜く話で、こういう民話はいいですね。

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