ミソッカスでも、天然でも、薄ちゃんの推理力はピカイチ ー 大倉崇裕「警視庁総務部動植物管理係 ペンギンを愛した容疑者」(講談社文庫)

前巻は「蜂」をテーマにした長編であったのだが、今巻は、短編集。短編であっても、薄ちゃんの「天然ぶり」は健在で、「〇〇ですよぉ」という彼女の喋りぶりも、ますますパワーアップしていますね。
さらに、この巻の第三話の前のあたりで、須藤警部補が、総務部総務課動植物係に配属される原因となった怪我の後遺症なのか、突然意識を失って警察病院へ担ぎ込まれるといったことも起きるし、薄ちゃんには、地球温暖化を研究のため南極へ派遣されるチームに参加しないかと声がかかったり、と事件の解決以外にも、少々波瀾含みの第3巻なおのである。

【あらすじと注目ポイント】

今巻の収録は

ペンギンを愛した容疑者
ヤギを愛した容疑者
サルを愛した容疑者
最も賢い鳥

の四話。

まず、「ペンギンを愛した容疑者」は、大規模な食品グループの会長の殺人事件の解決。その会長が殺されたのが、敷地500坪の豪邸の中なのだが、「パーティールーム」と称する部屋に設えられた「ペンギンの飼育室」の池で溺死していたもので、そこで飼育されているペンギンの世話に、須藤と薄が駆り出されたという次第。

犯人として疑われるのは、会長の若い妻、会社を辞めるといって最近喧嘩していた会長の秘書兼ペンギンの飼育係、会長の甥ってなところなのだが、謎解きの鍵は、「ペンギンの餌」というところ。

こうした話の場合、被害者は大抵、冷酷な経営者ってなことになるんだが、この話ではかなりの人情家であることは、ちょっと予想外でしたな。

「ヤギを愛した容疑者」は、東京郊外の小学校の教頭先生の殺人事件。この教頭先生、赴任後、その小学校で行われていた「ヤギとのふれあい教室」を中止したたため、そのヤギの飼い主である「津浜」という人物と揉めていた。その「津浜」という人物、犯行現場に凶器を持って倒れていて、意識不明の状態なのだが、彼が犯人ということで一件落着と思われたが・・・、という展開。

今回も「ヤギ」の世話に駆り出された須藤・薄のコンビが、捜査陣の大方の推理をことごとく覆していく、ってなところです。事件の鍵となるのは、途中で登場する小学生の男の子と、ヤギは最近の「紙」を食うと腹を壊してしまうという話と、ヤギは水や雨が大嫌い、という話。

ネタバレを少しすると、事件の陰に、「虐待事案」があるのは近ごろの風潮を反映しているので、その痕跡を注意して見つけてくださいな。

「サルを愛した容疑者」は、五反田の豪華なマンションの一室で、車島名子という女性が砂を詰めた一升瓶で撲殺された事件の解決。この部屋の主で、容疑者の「五反田」という男は、リスザルを飼っている、という設定で、須藤・薄コンビの出番となる。

実は、五反田という男、結構な遊び人で素行は悪い。叔父が飼っているリスザルの世話を、叔父が心臓手術のため渡米中する、という条件で金をもらっていたのだが、それをいいことに女遊びもひどく、被害者の女性とも最近、別れ話でもめていた、という筋立てである。

捜査の過程で、五反田のマンションに、犯行時刻頃、訪れた男が浮かび上がり、彼は自分のリスザルが死んだ後、リスザルを飼いたがっていた、という事情があって・・・、といった伏線がはられていくのだが、ここから先は原書で確認してください。
派手な女性でも、なじめば動物好きになるってのが、謎解きの鍵かな。

「最も賢い鳥」は「オウム」ならぬ「ヨウム」という鳥に関するお話。本書によれば、ヨウムはインコ科の鳥で、オウムとは目が異なり、知能は四歳児に匹敵する、最も賢い鳥と言われる鳥であるらしい。事件は、このヨウムの返還を巡って、元飼い主と現飼い主が争った末の殺人事件と思われていたものを、薄ちゃんが見事ひっくり返していく話。

謎解きの鍵は、被害者の家にあった座卓と座椅子と、ヨウムの高さ1メートルほどの止まり木で、薄ちゃんによると

鳥は、自分のいる位置の高低で、関係を判断すると言われています。上に泊まっている者ほど偉いという意識です。ヨウムのような鳥を、飼い主より高い位置に置いておくと、飼い主より自分の方が偉いと判断して、言うことをきかなくなることがあるんです

ということで、ヨウムの習性をよく理解していたはずの、飼い主がやるはずのない家具のチョイスである。謎解きとは関係ないが、鳥にしろ、犬にしろ、人間にしろ、愛情とちゃんとした教育は必要なんでありますね。

【レビュアーから一言】

もともとは動物愛護団体からの苦情へのアリバイづくりでつくられた「警視庁総務部動植物係」なのであるが、前巻では、鬼頭管理官を狙った大規模なテロ事件も、須藤・薄のコンビで解決に導き、今巻では、引き続いて捜査一課や所轄署の推理を覆す活躍を見せて、それぞれのの苛立つ顔が目に浮かぶ、第三巻である。

とはいうものの、ミソッカスが活躍するとメインストリームの嫉妬を招くのは間違いなく、次巻以降の波瀾も想像させるのであるが、ひとまずは、天然ながら、妙にツボをついた「薄巡査」の推理を堪能いたしましょう。

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