江戸の下町風味の庶民的ピカレスク・ロマン — 西條奈加「善人長屋」(新潮文庫)

騙りや情報屋、あるいは盗品故買といった裏稼業をもちながら、表面的には、「善人」として暮らしている輩が集まった長屋に、裏稼業のない「指物師」の加助という男が引っ越してくる。さて、何が起きるか・・・・。といった設定で始まるのが本書。
収録は
善人長屋
泥棒簪
抜けずの刀
嘘つき紅
源平蛍
犀の子守唄
冬の蝉
夜叉坊主の代之吉
野州屋の蔵
と、それぞれが独立した掌編なのだが、頭の先から爪先まで善人の「加助」が人助けで引き込んでくる「被害者」たちを長屋の面々が、その裏稼業の技を使いながら助けていく、というのが共通点。
もっとも、この長屋の住人の裏稼業というのがかなり魅力的なものが多くて、唐吉・文吉兄弟の裏稼業は「美人局」なのだが、その「美人」役の「おもん」は絶世の美女なのだが、その正体はなんと・・、といったあたりがその象徴。
そして、懲らしめる相手も、自らの許嫁を嫉妬から殺した同僚の侍であったり、男女の仲になっていることを隠すために、縁者のいない嫁をもらい、彼女を殺した義母と息子であったり、とか、表面は真っ当な風をしているが、一皮むけば邪悪さ極まりない輩であったり、人殺しをなんとも思わない盗賊であったり、であるので、作者の仕掛けにのっかって、長屋の小悪党たちの活躍を応援してしまうのである。
最初の話の「善人長屋」では、実家の質屋の商売(裏稼業の方だけど)を嫌っていた、「お縫」が、加助の持ち込む人助けの案件の数々を、長屋の住人たちの力を借りて解決していくうちに、自家と長屋の住人に誇りをもっていく姿が、ピカレスクものではあるが、ほんわりとした暖かさを感じさせる一作でありますな。

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