人生設計に「マーケティング理論」を使ってみる ー 永井孝尚「「あなた」という商品を高く売る方法」(NHK出版新書)

「100円のコーラを1000円で売るには」シリーズや「それ、どうやったら売れるんですか」など、マーケティング理論をわかりやすく説明する概説書を提供してくれていた筆者なのだが、今回は、その「マーケティング理論」を自己啓発、あるいは自分のブランディングに応用してみたらどうなるか、という視点でとらえてみたのが本書『永井孝尚「「あなた」という商品を高く売る方法 キャリア戦略をマーケティングから考える」(NHK出版新書)』である。
 

【構成は】

 
はじめにーこれからのビジネスパーソンに必要なのは、「自分という商品づくり」だ
第1章 「競争しない」ための戦略
 ー競争戦略論
第2章 AIに仕事を奪われない方法
 ーイノベーション
第3章 「戦わずして勝つ」のが真の戦略
 ーバリュー・プロポジション
第4章 「あなたの強み」を育てる
 ー強みの構造とセレンディピティ
第5章 リスクを下げて何度も挑戦する
 ーリアルオプション理論
第6章 没頭すれば一流になれる
 ー内発的動機付けとフロー理論
第7章 あなたの物語が奇跡を生み出す
 ーセンスメイキング理論
第8章 失敗があなたの武器になる
 ー仮設検証とアダプト思考
第9章 コンフォートゾーンから脱出せよ
 ーダイナミックケイパビリティ
第10章 「自分のため」から「社会のため」へ
 ーソーシャル・ネットワーク理論と利他的動機づけ
 
となっていて、筆者の「あとがき」によれば
 
本書で、個人の商品づくりについて書いた理由は、二つあります。
一つ目の理由は、自分の将来について悩む人が世の中にとても多いのに、戦略を持っている人が少ないことです。本書で書いたように、マーケティング戦略の考え方を応用すれば、自分という商品づくりの戦略を立てることができます。
 
となっていて、ビジネスパーソンが自らの将来設計を考える際に、「生きがい論」とか「モチベーション」の観点ばかりが強調されることへの警鐘でもあるようだ。
 
そして、筆者の他の著作で、商品開発や製品のブランディング戦略を練るツールとして解説されていた「マーケティング理論」が、ビジネススタイルやライフスタイルを考える際に応用してみると、結構、斬新で、「ほぉ」という感じが生まれてくるのは間違いない。
 

【注目ポイント】

 
それは、書き出しのところでも明らかで
 
あなたのキャリアは「あなたという商品」の価値を必要とする人が、高く買ってくれることで決まる。だから「あなたという商品」を高める戦略が必要なのだ(P4)
 
と、「キャリアアップ」を「自分の商品価値のアップ」と割り切るところにも現れているのだが、こうはっきりと割り切っていくと、ベタベタした感傷的なものが削ぎ落とされて、自らの人生設計も、仕事で事業計画を練り上げるように、冷静なプランニングできるというメリットがあるのだな、ときづかせてくれる。
 
そんな観点から見てみると、
 
激しい競争で儲からない会社と、競争せずに儲かる会社が存在するのはなぜか?競争戦略理論にその答えがある。完全競争は儲からない。完全独占は儲かる。それだけ完全競争から離れるかで、企業の収益性が決まるのである。つまり、競争戦略が教えてくれるのは、競争しないことが勝利の方程式であるということだ(P29)
 
という「ブルーオーシャン理論」から導かれる結論を応用すると
 
あなたが狙うべきは完全独占だ。つまり「好きなことで、誰もやっていないこと」をやる。完全独占を狙う戦略が、あなたという商品の価値を高めることにつながるのだ。(P31)
 
と、いうことで「人のやらないことをやれ」や「人と違った道を行け」といった、PTA諸兄からは評判のよくない人生アドバイスもあながち間違ってはいない、ということがわかってくるし、
 
仮設を立て、実際に試してみて、最初の仮設を検証する
リーンスタートアップで重要なのは、完全な戦略や計画をつくろうとしないことだ、時間ばかりかかるからだ。むしろ大まかで簡単な仮設をつくったら、すぐに簡単な実験をする。その結果で仮設を見直す。そこで得た学びを活かして、次のステップに進んでいく。
目標は、できるだけ速く「つくるべきもの」、言い換えれば、顧客が喜んでお金を払う商品(サービス)を探り当てること(P142)
 
という「リーンスタートアップ」の考え方を応用した「失敗から学ぶ3つのステップ」は
 
[ステップ1]まず新しい事に挑戦する。しかし、新しいことには、失敗がつきものである。だから「新しい挑戦には、必ず失敗の可能性がある」と覚悟しておく
[ステップ2]ただ失敗が大きな問題になると困る。そこで大きな問題にならないように、実験規模や期間を見極めて、小さな失敗を繰り返す、つまり一か八かのギャンブルを避ける。
[ステップ3]そして失敗を認めること、失敗したら失敗した事実を謙虚に受け入れる、犯人探しをするのではなく、失敗した現象をよく考え、原因を突き止めることだ。
(P147)
 
といったように、落胆して落ち込んでしまう人生上の失敗も、うまくいかない事業を成功させる方策と同じように、リカバリーのやり方も、より作戦立ててやれそうな気がしてくるのである。
 
このほかにも、自分に「相手が求めていて、自分しか提供できない価値」をどうつくるかという「バリュープロポジション」や「フローを体験している最中は、自分が成長していることを実感できる。意識的にフロー体験を創り出すことで、あなたは成長し、強みが強化されていく。」というフロー理論を自己啓発にどう使うか、など自己開発のテクニカルなアドバイスも、多種多様に提案されているので、お得感があること間違いない。
 

【レビュアーから一言】

 
思いがけない出会いが、新しい「価値」をつくるというのは、技術革新の基本であるのだが、「自己啓発」や「自己開発」といった人生の「ソフト」の部分でも同じで絵あるようだ。
その意味で、「事業」も「人生」も似たところはある、と「マーケティング理論」を応用してみる筆者のアドバイスは、面白いアプローチであるとともに、効果のでる方法論でもある。ありきたりの自己啓発書で飽きた向きはえひ一読あれ。
 

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