定年後ぐらい「わがまま」に生きてみてはどうだ ー 成毛眞「俺たちの定年後ー成毛流・60歳からの生き方指南」(ワニブックスPLUS新書)

定年後を扱った本は、ファイナンシャルプランナーとか、人事コンサルタントとか、「その道」の人によるものが多く、それはそれでちゃんと参考になるものは多いのだが、どうしても「定年」ということが気になる世代向けになるので、その対象となる年齢のバンドも広くなりすぎて、フィット感がいまいちというものが多い。
本書は、成毛眞氏が、団塊世代のあとの「しらけ世代」の定年間際の人をターゲットにしたもの。いつもユニークな視点を提供している同氏のことなので、その切り口もまた、他の定年本とはちょっと違う感を出しているので、普通の定年本をある程度読んでしまった、定年近いビジネスマンにオススメかな。
 
 

【構成は】

 
はじめに
第1章 60歳になったら、新しい人生を歩みだせ
第2章 定年したら、サラリーマン的生活は捨てろ
第3章 近所を歩けば次々と楽しみが見つかる
第4章 60歳からは愛想よくしようなんて考えるな
第5章 自分を拡張する10のツールを手に入れろ
第6章 計画は壮大かつほどほど綿密に立てよ
あとがきにかえて 〜終活はしない〜
 
となっていて、定年本にお決まりの、定年後の再就職や、生活のためのファイナンスの話は薄めである。ファイナンス面では、株は100万円をゲームを楽しむ感覚でやれ、という感じで、この面での具体的なアドバイスを求めてはいけないようだ。
 
むしろ、本書は、そうしたことは他の本で知識を得ておいて、それを踏まえて、心のスキマをどうっちゃるか、どうやって知的な活動を続けていくか。あるいは始めるか、といった視点で読んだほうがよい。
 
 
 

【注目ポイント】

 
まずは、
 
それまでの人生から仕事だけを取り除くのではなく、まったく別の人生を模索し、組み立て、挑戦するのが健やかな定年後にはうってつけだと考えているのだ。
(略)
なので、定年後は、単に仕事を手放し、その結果として時間を、もてあますのでなく、新たな何かを手に入れ「ああ、これもやりたいのに時間が足りない」と嬉しい悲鳴を上げながら過ごすべきだ。
 
として、そのために子ども時代の持ち物を目にしたり、本棚を見たりして「子供時代の脳を取り戻せ」としているのは、”ほほー”と唸らせる。とかく、定年後の生活は仕事がなくなったところをどう埋めるか、あるいは定年前の仕事に代わる仕事をどう見つけるかといったことに躍起になってしまうのだが、「機嫌のいい人生」ということで考えると、違った何かを埋め込むといったほうが気持ちがワクワクするのは間違いない。再就職先探しもほどほどにしろ、と言われているようで、少々、耳が痛い。
 
そして
 
定年したら、極端に、無理に未来志向になる必要はない。
もしも未来に人一倍関心を持っているならそれはそれで素敵な定年人生を送れるはずだが、未来的でないとならないのではという強迫観念に襲われているのなら、そんなものは捨てるべきだ。
 定年を迎えるような人たちは、すでに自分探しは終えている。
 自分にはどういったものが向いていないかは、もう十分にわかっている。
 それなのに今から新たに自分探しの旅に出るのは、過去の自分に対する冒涜だ。
 
 
30 年以上にわたる会社員生活によって培われた思考は、想像以上に深部にまで染みついてしまっている。
たとえば、評価主義がそうだ。
これは会社員時代以前の学生時代から連綿と続く競争社会の中心にある価値基準で、最も高い成果を出せる者が最も偉いというものだ。最も利益を出せる者が、最も点数を取れる者が偉いというわけだ。
しかし、これは会社や学校という特殊な環境での価値基準である。そうした特殊な環境の外では、成果を出そうが出すまいが、誰からも評価されるものではない。
そもそも成果とは何かという話にもなる。私生活でのせいかとは何か?
 
といったところは、どうしても会社という枠や思考経路でプライベートも含めた「モノゴト」を考えるクセが染み付いているビジネスマンすべてへの警鐘であろう。
たしかに地域社会を含めた実社会は「会社の論理」で動いていることは少なくて、むしそれとは違う、それぞれのバラバラな論理で動くのが通例である。定年後に心しないといけないのは、いかに早く「会社員生活」の垢を落とすことができるか、だなと思う次第である。
 
さらに、この本で秀逸と思うところは、会社員生活がなくなったら、代わりに「趣味の生活」やら」「地域生活」やらといったことを詰め込むよう勧める本が多い中で
 
定年後の生活は、すべてがプライベートである。会社の都合や部署の都合などに振り回されたり、それを 慮ったりする必要はない。
 定年後は、つきあいたい人とだけつきあい、つきあいたくない人とはつきあわない。それでいい
 
とか
 
あまり人づきあいが好きでない人は無理をする必要はない。「機会があったらコミュニティに加わってやってもいい」と考えるくらいでいい
 
といったように、いわゆるイヤイヤでやる「つきあい」の部分をバッサリ削ってしまえ、とそそのかす一方で、
 
定年後の趣味には、時短などもってのほかである。効率化も必要ない。むしろゆっくり時間をかけて大作を作りあげるほうが長く楽しみを続けられるし、小さなものであっても、急がず、また、終わりを決めてしまわない方がいい。
 
と、趣味とか心をひかれることにはとことんのめり込め、と勧めていて、この辺は、定年後の人生なんだから、思うがようにやらないと損だよ、と定年後も勤め人時代と同じベクトルで動いてしまう、多くのビジネスマンへの「わがまま」のススメは妙に心地よいですな。
 
このほかにも、定年後の「服」の話であるとか、定年後は全録のハードディスクレコーダーを買え、とか各種の尖ったTipsも満載で、しかもかなり平易に書かれているので「うむうむ」と頷いているうちに読み切ってしまうこと請け合いである。
 
【レビュアーから一言】
 
本書の最後のほうの
 
やりたいことをやり、やりたくないことはやらなくていい。  これまで私が書いてきた定年後とは、まったく違うことをするのも、何もしないのも、自由である。定年後とはそれくらい、フリーダムなもの
 
というところには思わず笑ってしまった。当方も、本書を読んだ直後にやってきた再就職話を報酬面では申し分ないのに、ワクワク観がなくて断ってしまった。本書の功罪は様々にあるのだが、定年近辺のビジネスマンが読んでおけば、なにかと気がラクになることは間違いない。万人向けとはいわないが、多くの人にオススメの定年本であります。
 

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