消費行動から、時代のトレンドを予測する ー 三浦 展「第四の消費」(朝日新書)

「下流社会」シリーズをはじめとして、現代社会について鋭い視点から論評を重ねていて、先だって、このブロクでも「100万円で家を買い、週3日働く」をレビューした三浦展氏なのだが、筆者が、日本の20世紀初頭以後の消費社会を、類型化して分析し、現代の「消費活動」の姿をもとに、新しい「社会のあり方」を提案しているのが本書である。

【構成は】

第一章 消費社会の四段階
第二章 第二の消費社会から第三の消費社会への変化
1 第二の消費社会と第三の消費社会との違い
2 消費の高度化、個人化
3 消費者心理の変化
4 大衆の分裂と格差社会の予兆
5 何が欲しいかわからない時代
6 高度消費社会の飽和
第三章 第三の消費社会から第四の消費社会への変化
1 第四の消費社会と基本としてのシェア志向
2 シェアというライフスタイル
3 シンプル志向、日本志向、地方志向
4 消費社会の究極の姿とは何か
第四章 消費社会のゆくえ

となっていて、それぞれの時代を消費という観点から見て、その時代の特徴と時代の姿を浮き彫りにしながら、現代である「第四の消費社会」について、その特徴とそれが目指していくであろう方向性を指し示している。

【注目ポイント】

筆者は20世紀初頭以来の消費社会を4つに分類していて

第一の消費社会は、日清・日露戦争から敗戦までで、東京・大阪の大都市の一部の「中産階級」が生み出した消費で、当方が思うに、戦前の雑誌の中に登場する「お屋敷のお嬢様」の世界ですかな

第二の消費社会は、敗戦から第二次オイルショックで高度成長が終わるまでで、これは当ブログを読んでいただいている方で記憶に残っている景気のいい時代ですね。特に、バブル経済期のようになんか浮ついたお祭り気分ではなく、真面目にすべてが上向きになることを信じてましたな。

次の第三の消費社会は、1975年から2004年までで、本書によれば。「個人の消費」へと変化し、「量から質へ」と変化した時代で、バブル期を途中に挟むにせよ、どっちかというと理屈っぽい、面倒臭い「消費」の時代ですね。

そして、本書の主題の「第四の消費社会」は、2005年から続く時代で「第三の消費社会から第四の消費社会への変化の特徴は以下の五点(P140)」は

①個人嗜好から社会志向へ、利己主義から利他主義へ
②私有主義からシェア志向へ
③ブランド志向からシンプル・カジュアル志向へ
④欧米志向、都会志向、自分らしさから日本志向、地方志向へ(集中から分散へ)
⑤「物からサービスへ」の本格化、あるいは人の重視へ

ということであるらしく、今、ひどく顕著になっている、人とのつながりの重視とか、ふれあいが一番とかの風潮は、人間性がどうとかではなく、前代の「消費理念」への反発にすぎないのかな、とも思えてきて、その変化は妙な精神論をこねくり回すより、社会現象として捉えたほうがすっきりくるのかもしれない。

さらに、この消費性向は

情報を交換することによる満足は、交換した瞬間が最大で、その後低減するわけではない。楽しさは交換によって増幅され、継続しうるのである。
こうした情報交換による楽しみをおぼえた消費者は、物を買うときの判断基準も変わって来るであろう。買った瞬間に最大で、次第に低減していく満足感ではなく、買った後もずっと満足感が維持される物、あるいは、むしろ時間が立てばたつほど満足感が増していく物を人は買うようになるだろう。(P151)

ということで、今流行の「シェア」も高邁な理念というより、消費動向の一つとして見たほうが案外、方向性を見誤らない気がしてくるのであるが、

現代のシェアは、みんなが同じだけ分配されるべきであるという、集団主義的、社会主義的なシェアではないし、みんなが同じようになるべきだという同質化志向ではない。むしろ、みんなが違うのは当たり前であり、それをお互いに尊重し合うという個人主義こそがシェア志向の大前提になっている。(P153)

といったように、昔流行したお化けのような「一律平等主義」には陥らないようなので、そのへんは安心しておこうか。

そして、筆者によれば、第四の消費社会が進展すれば

明らかなのは、シェア型のビジネスにおいては、つくった物をケアする、人をケアする、人と頻繁にコミュニケーションして新たなニーズを見つけ出して対応するという「女性的な仕事」が重要になるということであり、その意味で女性的な人の活躍の場が増えるということである。
またこうしたケア型の仕事は、地元密着で行う必要が多い(P249)

とするとともに

第二の消費社会では、サラリーマンになることがよいと思われた。第三の消費社会では、サラリーマンを窮屈だと感じ、フリーターになる者が増えた。第四の消費社会では、サラリーマンでもなければ、フリーターでもない、安定と自由のバランスをとった働き方が求められるだろう(P271)

ということで、このあたりは、最近の働き方に対する風潮を予測してるな、とも思えるのだが、詳しくは、原書で、皆様独自に検証してみてくださいな。

【レビュアーから一言】

思想風潮の変化、あるいは時代の流行の変化というものが、消費構造という目線で捉えてみると、妙な共通ベクトルや、共通な流れが見えてきたり、さらにはそれが流れていく先も垣間見えてくるような気がしてくる。
消費行動の分析書として読むも良し、「第四の消費社会」が誘導する「将来の社会像」についての本登として、読むもよし。どちらにしても、次世代のトレンドを論じるにはおさえておかないといけない一冊ですね。

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