来夏の帰りを待っている、カメラにまつわる謎の数々 ー 柊サナカ「谷中レトロカメラ店の謎日和 フィルム、時を止める魔法」

前巻で東京・谷中で三代続く「今宮写真機店」のアルバイト・山之内来夏と三代目主人・今宮龍一のコンビが、写真機店に持ち込まれる写真やカメラに関連した謎の事件を解決していく「谷中レトロカメラ店」シリーズの第二作である。

前作では、来夏の亡くなった年齢の離れた夫の思い出と、彼が遺した「うちの二話で、桜と、暗い空と、雪を、一緒に」という言葉と冷凍室に残されていたコダックのフイルムの謎を、龍一が解き明かした後、亡夫と龍一との間に挟まれて悩んだ、来夏が店を休むと宣言するところで終わっていたのだが、その三ヶ月後、気持ちの整理はまだなのだが、来夏が店へ帰ってきて、再び二人による謎解きが始まるのが本書『柊サナカ「谷中レトロカメラ店の謎日和 フィルム、時を止める魔法」(宝島社文庫)』である。

【収録と注目ポイント】

収録は

第一章 カメラ売りの野良少女
<幕間>来夏と不機嫌な来客 一
第二章 鏡に消えたライカMオリーブ
<幕間>来夏と不機嫌な来客 二
第三章 三月十四日、遺された光
<幕間>来夏と不機嫌な来客 三
第四章 その客は三度現れる
<幕間>来夏と不機嫌な来客 四
第五章 わたしはスパイ
<幕間>来夏と不機嫌な来客 五
第六章 君の笑顔を撮りたくて
<幕間>来夏と不機嫌な来客 六
第七章 ゆっくりと歯車は動き出す
第八章 ハンザキキャノンと彼女の涙

となっていて、一話目の「カメラ売りの野良少女」は、来夏が店へ復帰してしばらく経った時、ほつれたダウンジャケットに、汚れた体操服で、髪はボサボサといった身なりの女の子が、数台のNikonのカメラを売りにやってくるところからスタート。

当然、身元を不審がった今宮たちが買取を断ると、なんと女の子は店先でそのカメラの叩き売りを始めて、といった展開。そして、そのカメラは戦場カメラマンが持ち歩いている代物。その女の子の親というのは一体・・。という流れですね。その親の意外な正体に驚いてください。

二話目の「鏡に消えたライカMオリーブ」は亭主関白のお客さんが所有する値打ちもののカメラが姿を消してしまう事件の謎解き。盗まれたカメラは「西ドイツ軍用としてつくられたもので、世界に140台ほどしかない」という逸品なのだが、それが誰も入ってこれない、夫婦二人暮らしの家の中で消えてしまった、というもの。まあ、犯人のほうは、このへんで「ははぁ」と察しがつくのだが、興味深いのは動機のところですね。年配の旦那さんによくあることなのだが、家族の会話はもっと正直にしたほうがいい、という教訓ですね。

といった感じで、カメラマニアの父親が遺した粘土細工やカメラの空き箱の謎とか、同じクラシックカメラを子供が分解してしまった、と三回も持ち込んこんでくる客の秘密とか、旦那の浮気の現場の写真を撮りたいと依頼してくる女性の本当の目的は、といった謎が次々と今宮写真機店に持ち込まれてくるんであるが、来夏と龍一のギクシャクしながらも、仲良く謎を解いていく姿は微笑ましい。

そして、最後の2つの話で、龍一が時計の修理を志した経緯や、彼が三十すぎまで独身を続けるほど女性に臆病になった理由が明らかになるとともの、来夏と龍一の本人たちが気づいていない最初の出会い、といったエピソードが描かれますが、詳細は原書で。

【レビュアーから一言】

第一作でもハリネズミカメラ、ニコン640F、ゼンザブロニカS2といった特殊カメラから名機まで、様々なカメラが登場したのだが、本巻でもニコンF2チタンノーネーム、ブラウベルマキナ67、ライカⅢfなどなど、カメラマニアであれば、ほぅと唸るカメラが登場し、それぞれが事件や謎解きの重要なキーになる。さらには、<幕間>と称して、龍一の留守に店にやってきて来夏さんに無理難題をもちかけるオヤジであるとか、謎解き以外のお楽しみもあるので、オトクな仕上がりになってます。

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