徳川吉宗の竹姫ラブが明らかになり「イジメ」が始まる。聡四郎どうする。 ー 上田秀人「御広敷用人 大奥記録 4 鏡の欠片」(光文社文庫)

前巻で、吉宗の命によって「竹姫」付きの用人となった聡四郎であるのだが、もともと勘定筋でありながらソロバンはからっきしで剣の修業ばかりをしていた無骨者であるので、竹姫を吉宗の代わりとなって大奥の魑魅魍魎から守ったり、竹姫の地位を上げたりといった策略は苦手なのだが、将軍の命令とあればやむを得ないか。
とはいいつつも、聡四郎を仇と付け狙う「伊賀」の刺客の襲撃は相変わらずなので、「文弱」になっている暇はない。

そして、竹姫は竹姫で、将軍が惚れていることがバレてきて、大奥のエライ人たちのいやがらせが始まる。権力の絡んだ時の「女の闘い」と「女の意地悪」は怖いよね〜、というのが本巻である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 下賜の品
第二章 陰湿な力
第三章 道具の夢
第四章 闘う女
第五章 囮の決意

となっていて、まずは、御広敷伊賀者の頭領の藤川にせっつかれた「左伝」が、一人では聡四郎・玄馬のペアには敵わないので、同情仲間で腕の立つ二人を仲間に引き入れるところからスタート。ネタバレをすると、話の中盤頃、この二人は藤川によって「噛ませ犬」的な使われ方をしてしまうのは、ちょっと可哀想である。

伊賀者の襲撃は、今回は大奥が舞台。聡四郎が、竹姫への吉宗からの贈り物を、大奥へ届けるところにつけこまれることになる。贈り物は、聡四郎が見立てて、贈る「鏡」の裏に名前を書いて贈るといいことあるよ、とアドバイスして誉められたのが悪運を呼びましたかな。ただ、今回襲ってくる女忍は「前座的」なキャストなので、結末はご想像のとおりである。

抜け目のないのは「吉宗」で、この襲撃事件をネタに竹姫を謹慎させて警備に怠りのあった伊賀者を牽制するとともに、将軍に手をつけてもらうために江戸へ来た、と豪語した京都・一条家から派遣された竹姫付き中臈の鈴音を降格して、彼女の天狗の鼻を挫いてますね(鈴音は気の強い美人っぽっくて当方は贔屓しているんですが・・・)。

面倒なのは、大奥の実力者・天英院と館林松平家が、館林と伊賀者が手を組んだところ。「館林のお殿様・松平清方を将軍にする」というのが三者が手を結ぶ条件なのだが、当の本人が将軍になる気がないのはどうする気なんでありましょうか。
館林の江戸家老は「額面抜き」の呉服買い放題・仕立て放題の切手(今で言う商品券みたいなものですね)いった豪快な「賄賂」を天英院に贈ってますね。もっとも「百両とは言わず千両使ってもいい」とは言ったものの、本当にそれだけ遣うとは思わなかったようですが・・(千両ではなく八百七十両で止めておいた、というのが天英院の気遣いなのかもしれませんが)

そして「三人寄れば文殊の智慧」どころか腹に一物持つのが三人集まるとろくな考えにならないようで、かなり過激なところにエスカレート。竹姫を大奥の外へ出して危害を加えてしまえという企画がたてられる。竹姫が謹慎の罰を受けたお詫びに将軍の長寿を祈願する、というお膳立てなので、吉宗の画策が利用された形ですね。

今巻は竹姫の警護を命じられ、神社の中までついていけないと弱音を吐く聡四郎に、「紅」が自分がついていって、並んで参詣して竹姫を守る、と宣言するところで次巻へ続きます。

【レビュアーから一言】

すかっとするのは、竹姫が聡四郎の奥さんの「紅」を大奥へ召したときの、「紅」と大奥の女たちとのやりとりというか喧嘩のシーン。
大奥の嫌がらせは竹姫の「香」が売り切れだと注文しなかったり、手紙を出すのを邪魔したりと陰湿極まりないのだが、これに腹を立てた「紅」が意地悪の黒幕の天英院付きの中臈・姉小路の配下の表使を挑発して「上様の養女」に無礼を働かせた態にして失脚させたり、姉小路に向かって「あんた馬鹿」と叱りつけるなど、相変わらずの「お侠」ぶりでありますね。

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